理不尽でままならない世界でも、幸せの痛みがあれば前を向ける

何百年も語り継がれる名作の童話を読んでいるかのような感覚を味わえました。アンデルセンの「雪の女王」を彷彿とさせる、壮大な世界観を切り取った序が、至福の読書時間へいざなってくれます。

魔法の存在する世界。眠りも食事もいらない「おれ」は、出会った人間から怯えられる見た目をしていました。
他者との交流が断たれ、大きな屋敷にひとりきりで住んでいた「おれ」に聞こえた、助けを求める声。
逃げてきたことが分かる身なりの少女・フリニアーデは「おれ」を避けることなく、微笑みすら浮かべていたのでした。強がりからくる微笑みではありません。大人の頭部のみが異形に見える彼女にとって、「おれ」の頭は化け物ではなくふわふわで真っ白な雲に見えていたのです。
行き場のないフリニアーデを屋敷に住まわせることで、「おれ」は今まで知らなかった言葉や感情に少しずつ触れていきます。

この幸せな日々がずっと続いてくれたらいいのに。あまりの尊さに泣きたくなる世界を傍観していたいと願う中、言いようもない危険が迫っていき――


カクヨム公式自主企画『眠れる作品お披露目キャンペーン』に感謝せずにはいられないシリアスファンタジー。もしも小学校中学年のときに出会えていたら、読書感想文の原稿用紙がいくらあっても足りないくらい筆が動いたに違いありません!

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