第9話



 翌朝、朝食を食べ終えると蒼太は買取報酬をもらうためにギルドへと向かう。



 朝は依頼を受ける冒険者が多く、掲示板前・依頼受付は混雑していたが買取は夕方以降に行うことが多いため空いている。


 蒼太は朝の喧騒を避けるように誰も並んでいない買取受付へと向かう。


「昨日の素材の報酬を受け取りにきたソータだ」


 そう言うと、ギルドカードを提出する。ギルド員は昨日と同じ職員だったため話は早く進む……はずだった。


「あー、ソータさん。昨日はどうもです、少々お待ち下さい」


 カードを確認し、報酬を渡す。それが通常の流れだったが、彼は報酬を出さず急ぎ足で奥の階段へと向かっていく。


「なーんか、面倒な予感しかしないなあ」



「お待たせしました。ソータさん、二階の部屋へどうぞ」


 ギルド員は走って戻ってくると受付の奥の階段へどうぞと手で誘導する。


「断る、早く報酬をくれ」


「ほ、報酬の用意に時間がかかるので、二階に行ってる間に準備しますので、二階へどうぞ」


 ギルド員はあわてて苦しい言い訳をし二階へと再度誘導する。


「なら、ここで待たせてもらうから早く用意をしてくれ」


「いえ、その、ですが……」


「なんだったらまた昼過ぎに来るが。それだったら用意できるだろ?」


「いや、それは、そうなんですが、そうじゃなく、あのギルドマスターが……」


 後ろのほうは聞こえないくらい小さな声でしどろもどろになり、額には汗をかいている。



「そのへんで許してあげてください、彼もギルドマスターに命令されただけですので」


「ミルファさ~ん」


 彼にとっては女神の救いの手にも見えたであろう、対応をミルファに譲る。


「はいはい、それでソータさん本日も二階へ来てもらいたいのですが」


「断る、また面倒な話になりそうだ」


「そこをなんとかお願いします。ランクアップの話もしたいので」


 その言葉に蒼太は眉をひそめる。


「なんだって? 俺は昨日登録したばかりだぞ、依頼も一つも達成してない」


「しっ、それも含めての話です」


 ミルファは声をひそめる。


「はぁ、仕方ないついて行くか。俺に不利益な話だったらすぐに帰るからな」


「はい、それではこちらへどうぞ」



 ミルファが先導し、ノックをしギルドマスタールームへと入る。


 グランが先にソファに座り、蒼太をその対面に座るよう促す。


「来たか、遅かったな。いや、それはいい。君の処遇について話をしようと思ってな」


「あぁ、ランクアップがどうとかってミルファが言ってたな」


「その通りだ。お主をDランクにランクアップしようと思う」


 その言葉に眼を見開いて驚く。


「なんだと? 俺は昨日登録してランクは一番下のFのはずだが」


 FランクからDランクということは2ランクアップということになるが、通常では一定の依頼数をこなし実力を示すか、一定の功績を示さないとランクアップは認定されない。


「そうだ、わしの判断でランクアップさせる。昨日の素材や公には出来んがキングクラスの魔石を手に入れることが出来るものをそのままFランクにおいておいては宝の持ち腐れというものだ」


「そうか、まあ上げてくれるならラッキーと思って受け取ろう」


「だが、すぐにというわけにもいかん。簡単な試験を受けてもらいたい」


「じゃあ、Fランクのままで構わない」


「はぁ、そう言われると思いました」


 ミルファはため息をつき、グランは眉間に皺をよせる。



「えーい、わかった。わしの権限でDランクにアップ、文句は言わせん! 以上だ」


「……よろしいのですか?」


「あぁ、構わん。これでこじれてこの街を出て行かれるよりはましだ」


「ですね」


 蒼太は顔を掻く。


「あー、そういうのは俺のいないところで話してくれるか」


「お前には色々ぶっちゃけたほうがすんなり話が進みそうだからな、下手にこそこそやるとその後の反発が強そうだ」


「そうかもな、今度はやりたいようにやると決めたからな」


「今度、とは?」


 蒼太のつぶやきにミルファが反応するが、蒼太はなんでもないと手を振る。


「それで、話はランクアップの話だけで終わりか?」


「うーむ、魔石のことももう一度聞きたかったんだが、きっと話さんだろうな」


「話すこともそうないけどな、森で倒しただけだ。戦い方についてはもちろん話さないが」


「だろうな、まあ一応森の調査は出すとするよ。お主の言葉を疑うわけじゃないが、念のためな」


 蒼太は肩をすくめる。


「好きにしてくれ、もう行っていいか?」


「はい、ご足労頂いてありがとうございました。ギルドカードを預かりますね、Dランクに更新してお渡ししますので下の買取の受付カウンターにいきましょう。報酬も用意出来てると思います」



 受付に戻るとさっきと同じギルド員が待っていた。


「あ、お待ちしてました。報酬の準備が出来ました。査定額ですがゴブリン種は魔石のみの買取で、ボア種は魔石と毛皮と肉を、オーク種は魔石のみ、ウルフ種は魔石と毛皮と牙の買取で合計金額に15%上乗せして金貨44枚、銀貨95枚、銅貨78枚、鉄貨7枚になります。こちらをどうぞ」


「あぁ、ありがとう。手間をかけさせて悪かったな」


 受け取るとリュックの中にしまう。


「い、いえ。仕事ですし、大量納品はこちらも助かりますので」


「はい、ソータさん。更新したギルドカードです」


 受け取りズボンのポケットにしまうように見せているが、先ほどの報酬もカードも亜空庫にしまっている。


「あぁ、次からは上に呼び出さないでくれると助かるよ」


「ふふっ、それはソータさん次第です」


 肩をすくめ、やれやれといった表情を見せるがそれ以上は何も言わずにギルドを後にする。




 ギルドを出てぷらぷらと街中を散策する蒼太だが、その後をつける影があった。



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