#017 初めての素材狩り
夜明け前に、ギルド固い尻は行動を開始した。
マルガージョさんのとこから馬車を借り、アイーシャガルバナ川に沿って街道を東進していく。
今回は氷水系の素材狩りクエスト。
そして、俺にとっては素材狩りデビュー戦だ。
モンスターもまた命だと言ったジノの言葉を忘れた訳ではないが、実際に普段の鍛錬を実戦で試せるのは楽しみだな。
街道は川に寄り添ったり離れたりしながら伸びている。
進路を途中から北東に変えた街道を歩いて行くと、マクスリーガルバナ川とアイーシャガルバナ川が合流した、半人口のため池が見えてきた。
「通称、アイーシャ池。さらに北にあるガルバナ湖とはガルバナ川でつながっていて、モンスターの生態系も似ている。うちから氷水系の素材を狩りに行く時の定番スポットである」
ジノはそう言って、俺から馬車の手綱を受け取り、木に括り付けた。
「ああ。通り過ぎただけだが、この前アイサとアオイと一緒に船で通ったな」
「そうだったね。あの時に説明すれば良かったね、ごめんねエピ」アオイが謝る。
そう言ったアオイは馬車の荷台から、何やら壺を降ろそうとしている。重そうな、暗青色の壺だ。
「お嬢ちゃん、手伝うわ」
「ありがとう、イェレナさん」
2人して壺を降ろして、川縁の地面に運んでいく。
「あの壺、何だ?」俺は疑問を口にする。
それに答えるのはリサだ。
「対水生モンスターの撒き餌だ。見るのは初めてだったか」
「うん」
返事をするとリサは俺を連れて壺の前に立った。
蓋を開けると、中には青い粉がぎっしりと詰まっている。
匂いは、なんか香ばしいかんじだ。その代わり強烈でもある。
リサは柄杓でそれをすくい、池へと撒いた。
「準備しとけ、エビ丸。すぐに来るぞ」
※
水面が泡立っている。
バシャアっ!
飛び出してきたのは、鱗のある半魚の身体に、額に角を持ったモンスター。
「出たな、マーマイン。おっとうと。一番槍はくれてやるからバシッとカマせ!」
アルファが大剣を携えて檄を飛ばす。
俺は愛剣、アイスダストに魔力を送る。短剣は、氷の長剣へと姿を変える。
「スラッシュ!」
出会い頭に、風圧の剣をお見舞いする。
ザシュ!
マーマインが倒れる。
「おうし!」
ガッツポーズだ。マーマインは虹色の光となって消える。
「臆せず斬ったな。それでいい。ジノは前にモンスターとて命といったが、戦うと覚悟したならそれは敵である。この調子でいくがいい」
ジノのお墨付きを得る。
「アオイくんはタイミング見ながらどんどん撒き餌を撒いてくれ。ここからはジノとエビパエリアくん、アルファくんにイェレナくんで戦陣を構築する。アルファくんは敵を浅瀬に追い込め。仕留めるのはイェレナくんだ!」
『オッケー』
俺とジノはサポートだ。2人が戦いやすいように敵を牽制していく。
「おし、ドロップ出た」アルファが声を張り上げる。
「エビパエリアくん。安全を確保して回収!」
「了解」
マーマインのツノが浅瀬に落ちている。俺はダッシュして回収し、リサのいる岸にツノを放る。
「その調子だ。前線で戦う事を最良と考えるな。役割をこなせ。素材狩りの極意は分業だ。君の出番も後で出てくる。アルファとイェレナさんの動きもよく見ておけよ」
「おばはん! そっちに3匹追い込んだ!」膝まで水に浸かったアルファが叫ぶ。
「誰がおばはんですってのこと? ミスター! 構えておいて。 ぬうういりいりゃ! イェレナ・クラッシュ!!!」
イェレナが水面を叩く。ムチの爆圧で、水ごとモンスターが空中に舞った。
「シッ!」ジノの小弓のラピッドショット。
3匹の魚状のモンスターが射貫かれる。
「エビパエリアくん、ドロップチェック!」
「おう!」
このモンスター、氷魚は、通常ドロップが氷魚の鱗、レアドロップが氷の背骨だ。
「みんな、出たぞ! 氷の背骨だ!」俺は声を張り上げる。
ギルドメンバーは歓声を上げ、一瞬笑顔になる。
※
いったん休憩を取り、スポットを変えて再挑戦。
今度は俺と、最初に休んでいたコロンが狩る番だ。リサとジノがサポート。
「おっとうと、撒いてくぞ!」
「オーケー。どんと来い」
アルファが池に撒き餌する。
ぶくぶくぶく。
飛び出してきたのは、魚と爬虫類が混じったようなモンスターだ。
「エビ丸くん。あれはコッドメール。触手と、水圧の鉄砲に気をつけて」
順調に狩っていく。
ドロップも何個か落ちた。
こいつらは、あんま強くないな。触手に気をつけていれば大丈夫そうだ。水鉄砲は、相手の視線見てれば避けられる。
また新たなコッドメール。
「おりゃ!」とりあえず斬っとく。
おっし、次。
「エピ! 気をつけて。まだ死んでない」アオイが遠くから叫ぶ。
コッドメールは触手をうねうねとさせて俺に襲いかかる。
「おわっ、こんにゃろ。二段突き!」
何とか倒す。
「気を抜くな、エビ丸。戦闘に慣れてきて、先に先に目が行きすぎだ。目の前きっちり片付ける実力が伴ってなかったら先見てもしょうがないぞ」
「おう!」
リサの叱咤に答える。
そのあとも狩っていく。
足が水に浸かっているせいか、走り回ってるだけですげー疲れる。隣りを見るとコロンが大鎌を構えて詠唱している。
『死神の大鎌』。闇属性のシクスティーナだ。
詠唱で範囲闇攻撃、鎌の物理攻撃で近距離戦闘。死角のない戦いぶりだ。
それに比べて俺は、氷の剣を振り回しているだけ。
嫌になるくらいの差だ。
「ねえ! 後ろから何か来てるよ。エピ下がって!」アオイが声を張り上げる。
俺は急いで岸に上がる。
余裕ぶっこいて、「次の敵はどいつだ?」なんて言える段階じゃない。
言われた事は絶対だ。
「出たな、ジムナココドリーロ」
コロンの目つきが変わる。
ワニ。凶悪そうな黒いワニだ。
するすると水の間をかき分けながら水中のコロンに近づいていく。
コロンは足を踏み開き、ワニを正面に捕える。
「ジノさん」コロンが言う。
「うむっ!」
ジノは川縁の地面から弓を撃つ。弓矢の威力に、風の魔法のコーティング。
重い一射がジムナココドリーロの背に突き刺さる。
「ギシャアアァ」
敵がのけぞった。ウロコのある外皮ではなく、比較的柔らかそうな喉から腹にかけての皮膚が見える。
「はあああぁ」
コロンが跳躍した。
「二度と光を拝めると思うな。斬撃、『冥帝』!」
コロンの大鎌がジムナココドリーロの頭から腹へかけて一直線に切り裂いた。
敵の切り口からは暗黒のオーラが漂い、傷口に向かって空間が歪んでいく。
ジムナココドリーロは、射精後のティッシュくらいくしゃくしゃにされて消えて行った。
虹色の光が消え、残されたのは黒光りする1枚のウロコ。
浅瀬に戻ってウロコを拾いながら俺は言う。
「コロン。お前すさまじいな」
「ありがと。でもエビ丸くんも頑張ってるよ。ボクの範囲魔法『ネグロバル』の範囲に、上手く敵を誘導してくれてる」
「イメージしてるのは牧草地での羊の追い込みだ。走らせてるのが馬じゃなくて自分の足だから疲労感ハンパないけどな」
「ガンバレガンバレ」
※
俺たちが前線のターンは終わって、次はアオイ&リサコンビだ。
撒き餌係はイェレナ。
俺は休憩だが、ただ休む訳じゃなく、全体を見ていろと言われた。
アルファとジノがサポート係。ジノに関してはサポートで出ずっぱりだな。
あいつは近接もえげつないものがあるが、メインの武器は弓だ。そういうところも関係してるんだろうな。
見ているとやっぱり、1人1人にバトルスタイルの個性がある。
イェレナやアルファはゴリゴリの前衛タイプだ。基本的に対峙したら自分1人の力量で戦況を切り開いていく。
コロンとジノは、サポート寄りの万能アタッカーだ。何でもこなせるユーティリティプレーヤー。そういう人がパーティに2人も居るのはありがたいな。
俺は、まだどこに適職があるか分からない段階だ。色々やらせてもらってるが、俺が戦う時は基本的にギルド全員でサポートしてもらってる感じだ。年齢もあるんだろうが、まだ戦力としてカウントされていないと知る。
最後が、今戦っているリサとアオイ。
リサにとっては、こんなもん戦闘でも何でもないんだろうな。
空中にいくつもの火球を漂わせていて、敵が出るとその火球で撃ち殺す。
アオイはリサに敵を近づけないシールダーの役割だ。大盾で防御しながら、アクアハルバードから発する水の壁で敵を誘導していく。
1、2匹脇をすり抜けるとリサの火球の餌食。あのすり抜けは、わざとの部分もあるんだろうな。
そして、盾の前に敵を密集させると、リサに合図を送る。
「ママ!」
「よくやった」
風のような身のこなしで回避したアオイの居た場所は、次の瞬間煉獄の爆炎に包まれる。
密集させて、掃討。
見事な連携だ。
強さにも色々あるんだなと思う。
アルファたちの個人能力は正直うらやましい。少年が憧れるのってああいうものだろう。
でも今アオイを見て、それだけじゃない物を感じた。
仲間の長所を活かす戦い方。現にアオイのおかげで、リサは魔法を無駄撃ちせずにすんだ。最小限で、最大限の成果ってやつだ。
※
1日目が終了した。
俺たちは川縁から少し内陸に移動し、そこに仮設のキャンプ場を敷く。
テントが張られ、薪をくべた焚き木で夕食の食材を調理する。
川魚に串が通され、パチパチと皮の油がはぜる音がする。
大鍋には遠征用の固形スープにサワガニの身。味付けは香辛料でピリ辛っぽい仕上がりになりそうだ。
モンスター対策のトラップを仕掛けてきたジノとイェレナが戻って来て、夕食。
川からは涼しい風が吹いていて、いよいよ秋の始まりを感じさせる。
「狩り初日はどうだった?」アオイが食べながら聞いてくる。
「みんなにガチガチに守られていたのに、なのにもうくたくただ。明日は丸1日で、3日目も夕方まで狩るんだろう? 今までお前らがクエスト行ってた時、『ふうん、行ってらっしゃい』ぐらいにしか思ってなかったけど、大変だな、これは」
「それでいいんだよ。アオイも初めて素材狩りした時はそうだった。きっと今、エピには周りのみんながすごく見えてるんだよね。でもそうじゃないよ。日々の積み重ね。そして、驕らない自信。できる事からやればいい! それがきっと経験と自信になるよ」
「できる事から、か」
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