第77話 地獄に仏
地図を見ながら、この辺りを走っただの、このくらいだっただの言い合うが、全くわからない。
見廻すが、特徴のある建物が見えるわけでも無し、住宅エリアのどこからしいというくらいしかわからない。
「でも、向こうのあれはビルか?だったら商業エリアか?」
「あんなマンションあるぞ」
「誰も通りかからないな。
仕方がない。誰かに会うかわかる所に出るまで、真っすぐ行こう」
俺達はそう言って、足元のカバンを持ち上げた。
そこで、同時に言った。
「通行人発見」
それは車椅子に乗った、若い女性だった。
「助かった。
あの、すみません」
俺達が近寄ると、彼女は車椅子を止めて俺達を警戒するように見、それから緊張を解いた。
「ちょっと道に迷ってしまって」
彼女は明るく笑った。
「また豪快に迷ったのね。協会からかなり離れてるわよ」
俺達は、武器と大きなカバンという荷物を持ち、来たばかりの探索者だというのは、一目でわかるだろう。
俺は地図を出し、言った。
「ここの不動産屋へ行こうとしてたんですが、置き引きに遭いまして。追いかけてたらここへ」
采真も笑った。
「いやあ、どこをどう進んだのか」
彼女は地図を見て、呆れたように言った。
「この地図で行こうとしてたの?凄腕の探索者さんは無茶をするのね。
いいわ、まずは近いからうちにいらっしゃい」
「ありがとうございます。
あ。俺は――」
言いかける俺の言葉をさえぎって、彼女は笑った。
「知ってるわよ。霜村鳴海君と音無采真君。
私はエマ・ハインツ。元探索者よ」
それが、俺達の出会いだった。
エマの家はそこのすぐ近くで、小さな建売住宅だった。
その狭い庭には、古いバンが1台止まっていた。
「お帰り、エマ――と」
出迎えたのは、大人しそうで聡明そうな、20代終わりくらいの青年だった。
「置き引き犯を追いかけて迷子ですって」
おかしそうに言うエマに、彼も笑いながらも気の毒そうに言う。
「それは災難だったねえ」
「いい運動にはなりましたけどね」
「迷宮の方が楽だったよな」
俺達が言うと、彼らは声を上げて笑い出した。
彼はエマの友人で、ルイスと名乗った。魔道具の研究者で、滑らかに、元と変わりなく動く義肢の開発が夢らしい。
協会で貰った地図を見せると、ルイスも目を丸くした。
「ボクでもこれじゃあ自信がないなあ。しかも、店の名前も『不動産屋としか呼んでないからわからない』だろ?嫌がらせ以外にないんじゃないのかな」
「あの支部長はアメリカ至上主義で、男尊女卑だから」
「しかもここ、スラムの端だろ。ろくな物件は無いと思うよ。荷物が留守中に消えるとか、ヤクの売人が飛び込んで来るとか、幽霊が出るとか」
それを聞いて、俺達は胸を撫でおろした。
「危ねえ。事故物件に入るところだった」
「というか、ヘタすれば俺達が事故物件を作りかねない所だぞ」
「今日はもう店もおしまいだよ。不動産屋は明日だね」
「はい。今日はホテルに泊まります」
それで、エマが困った顔をして首を振った。
「それも難しいわね。今この街の宿泊施設はどこもいっぱいよ。観光客は予約してから来るし、協会にそういう探索者用の部屋もあるけど、取り合いで、この時間に残ってるとは思えないわ」
俺達は愕然とした。
「え。じゃあ、空港のロビーで」
「夜間はしまるんだよ」
「あぶれた人ってどうしてるんですか」
「迷宮の安全地帯で仮眠とか、ゲートと迷宮の間のところで寝るとか」
「あ、でも、サソリとかも出るからお勧めしないよ」
エマとルイスの説明に、俺達は言葉もなくなった。
とんでもない所に来てしまったかもしれない……。
しかし、エマに続いてルイスもいい人だった。
「良かったら、1晩くらいボクのうちに泊まる?1人暮らしだし、家中が工房みたいなもので狭いんだけど」
俺達は揃って頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
地獄に仏。しかも2人!
俺達は幸運に感謝した。
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