第47話 化け物

 魔王は後ろで腕を組んで見ているだけで、まずは部下達にやらせようという姿勢らしい。

 今度は危険物に囲まれた部屋の中ではないので、魔人も遠慮なく魔術を使って来る。

 防げない強さではないが、何分多すぎて、防ぐ以外何もできないのが困る。

「リトリイ、盾を頼めるか。偏光で頼む」

「いいけど、ボク、そんなにもちませんよ」

「大丈夫だ。その前に向こうの数を減らすから。

 采真、魔術士は率先して潰すけど、気を付けて暴れて来い」

「いよっしゃあ!了解だぜ!」

「念のために、俺がいいと言うまで目を閉じておけ」

 俺は盾をリトリイに張ってもらいながら、魔式を紡いだ。

「よし、行くぞ!」

 まずは、網膜が焼け付いたかと思うくらいの光を発生させる。

 収まってから目を開けてみたら、まだ向こうは棒立ちになっていた。

「よし、開けていいぞ!」

 言いながら、魔人兵を片っ端から倒していく。向こうは視力が回復していないので、何が起こっているかわからないだろうが。

「行け!」

「おう!」

 嬉々として俺達は飛び出していく。

 何人かに火をつけておくと、見えないながらも熱さは感じるので、慌てて走り回って近くの仲間にぶつかり、火が移る。

 その中で、俺と采真とリトリイが剣や魔銃剣で斬って歩くのだ。

 パニックとはこの事だという見本のように、混乱していた。

 が、それも視力が戻るまでだ。

 それまでに、特に魔人からなるべく数を減らして回ったが、とうとう視界が回復した魔王が怒りの咆哮を上げた。

「よくも、貴様らぁ!」

 いきなり目が光に眩んで見えなくなって、次に見えるようになったら、周囲は遺体と燃える獣人ばかりだ。よく混乱して頭が真っ白にならなかったものだと思う。

 だからと言って、全力で俺に攻撃して来なくてもいいのに。

 だが、獣人兵を後ろにしてちょこちょこと避けていると、周囲を気にしない魔王は攻撃をやめないので、部下の獣人兵が巻き添えで倒れて行く。

「貴様!」

「俺は何もしてないよね!」

「ぐぬぬ!」

 やっと止まった。

 ケトはリトリイと追いかけっこをしていた。

 仲いいのか、あいつら?

 采真は魔王の背後から、斬りかかった。

「甘いわ!」

 魔王は左腕で盾を生じさせながら、右腕の剣を振り下ろした。

 采真がスイと横へ逃げ、魔王はそちらへ体を向ける。それに合わせて俺が攻撃をする。魔王が俺に反応すれば、その隙に采真が攻撃する。

 その繰り返しだ。単純だが、基本、そんなものだ。

 細かい傷が魔王に増えて行き、魔王の魔力も減少していく。

 それに、先に焦れたのは魔王だった。

「ケト!」

 飛び退って、鬼ごっこで疲労困憊のケトのそばに行くと、ケトを掴む。

「ひゃあ!」

 ケトが間抜けな声を上げる。

「あ!ケトを連れて逃げる気か!?」

 リトリイが声を上げて抗議した。

 が、采真が顔色を変えた。

「リトリイ、離れろ!」

「へ?」

 リトリイは一瞬怪訝な表情を浮かべるものの、素直に従った。

 采真の先読みを知っているからな。

「ま、魔王様?」

「ケト。お前は臆病だったが、魔力だけは誰よりも多かったな。助けられた時もあった」

 ケトは、魔王から逃げようとするかのように暴れ始めた。

「何をしようとしているんだ、采真?」

 答えは、采真が口を開くよりも早く示された。

 魔王の手の中で、ケトがやせ細って行く。みるみる細くなって行き、骨と皮だけになって、カサリと音を立て、頭が落ちた。

 敵も味方も、全ての目が、その頭蓋骨を凝視していた。

 元の人相も定かではないそれを、魔王はグシャリと踏みつぶす。

「あんた、やっぱり好きになれないわ」

 俺は、魔王を睨みつけた。

「最低だぜ」

 采真も、魔王を睨みつける。

「仲間の魔石を吸収するなんて禁呪だと聞きましたよ」

 リトリイは、嫌悪感に溢れる目を向けた。

「わしは王だ。この地、ここの生命、全てがいずれわしのものになる。

 部下の魔石を取り込んで悪いか」

 言い終わると同時くらいに、魔王の体から、目に見えるのではないかというくらい、魔力が溢れ出て来た。そして筋肉が太く盛り上がり、体がひと回り大きくなったかのような錯覚を覚えた。

「化け物か」

 魔王という名の、化け物が吠えた。

 


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