第17話 目撃者

 膝くらいの高さまである小型のイノシシみたいな魔獣の群れも、新人の頃は手こずっていたが、最近ではどうということもない。魔術を使うまでも無く、俺も采真も、物理で片付けて行く。大変といえば、後に残った魔石を拾い集めるのが面倒臭くて大変だ。そう言えるくらいには、俺達も探索者として慣れて来た。

「こんなもんかな」

「ああ。外の魔獣と違って解体しなくてもいいのは助かるけど、やっぱり面倒臭いな」

 俺は腰をトントンとして言った。

 年寄り臭い?未成年でも、痛いものは痛いんだ。

 残らずかき集めたのを2人で確認し、俺達は時計を見た。

「そろそろ今日はおしまいにするか」

「もうこんな時間か。腹も減ったし、そうだな!」

 俺と采真は引き上げる事にして、戻り始めた。

 迷宮の中は昼夜明るさは変わらないが、集中力や疲労などがあり、誰でもそこそこで引き上げて行く。もしくは比較的安全なところで、見張りをしながら宿泊する。

 そこそこの人数の場合は中で宿泊もできるが、2人だと少々難しい。なので、俺達は日帰りだ。

 ゲートを通って現実へ戻り、カウンターで買い取りを頼む。

 と、その騒ぎが巻き起こった。

「魔人が出ただと!?」

 少し向こうのカウンターで、興奮したようなベテラン探索者と、同じく興奮したような職員が向かい合っていた。

 辺りの喧騒がやみ、その会話に誰もが耳を傾ける。

「ああ。人間なのに探索者っていう格好をしていなくて、どういう事かと思って声をかけたら、魔人だと名乗りやがった」

「待てよ。ヒトも魔素を溜められるが、そういうヒトはそれを出す事ができる魔術師か、中毒を起こして倒れるかだ。魔獣みたいに、魔人になるなんて例はないぞ」

 俺は人をかき分けてその探索者に詰め寄って行った。俺は必死で、ただ、話しを聞かなくてはと、その一心だった。

 文句を言いかけた探索者も、それが俺だとわかると、口をつぐんだ。

「そいつはどんな奴だった!?ヘラヘラした奴か!?気真面目そうな奴か!?オドオドした奴か!?」

「なんだよ――あ、お前か。ああ、うん。

 妙にヘラヘラした奴で、『見つからなくてイライラしてるのに』って言って、無詠唱で物凄い炎を叩きつけて来やがった。それで、俺達が死んだと思ったのか、消えやがったよ。

 この通り、装備はいかれちまったが、耐火性能と直前に倒した火属性の魔獣の死体がまだ残ってたおかげで、そいつの下に潜り込んで助かった」

 頭の中で、ガンガンと音がするようだ。

「あいつだ。あの時の3人の魔人の1人」

 職員が、ボソリと言った。

「あの時、誰も信用しなくて無視してたけど、じゃあ、本当に厄災の劫火は、魔術実験の失敗じゃなく……」

 全員の目が、俺に向いている。

「だから言っただろ。真実だって」

 息を呑む音が響いた。

「そいつはどこにいたんだ。教えてくれ」

 その探索者は口ごもり、迷うように視線をさ迷わせ、それから俺を見た。

「言ったらどうするんだ?」

「決まってるだろう。そいつを殴って、両親を取り返す」

 目が丸くなる。

「無茶言うな!あれに敵うわけないだろう!?頭冷やせよ!」

「それでも、あれから初めての手がかりなんだよ!」

 言ったが、背後から誰かが拘束して来た。采真だ。

「落ち着け鳴海、な。飛び出すのは俺、考えるのはお前の役目だろうが。今突っ込んでも取り返せないだろ。準備して、それで2人で乗り込むべきだ。そうだろ?」

 頭ではそうだと分かっている。わかってはいるが、納得できない。

 じとっと采真を肩越しに見ると、ここの一番の腕利き探索者が、頭をぐりぐりと撫でて来た。

「まずは調査だ。挑む時は、お前もメンバーに入れてやるから、今はじっくり力を付けて待て」

 親父さんと呼ばれ、尊敬されているベテランだ。この人は最初から、俺をただの新人探索者としか扱わなかった。信用していい人だ。

「……わかりました。済みませんでした」

「ようしよしよし」

「だから、子ども扱いするみたいに頭撫でるの、やめてくれませんかね」

「俺からしたら18や19なんて子供だからな。うちの娘は21だし。いやあすまんかった!わはははは!」

 俺は毒気を抜かれたようになって、采真と、元のカウンターへ戻った。

「すまん、采真」

「気にすんなよ。誰だって、こうなるぜ」

「ああ。

 でも、やっぱりそうなんだな。迷宮の向こうは、魔人の世界とつながってる」

「ああ、そうだな」

 力が及ばない悔しさと、目指すべき場所が間違いなかったという安心感。俺は魔人目撃の報に、高揚した。


 一方世間も、大騒ぎになった。

 かつて「責任転嫁」「大嘘」「混乱のせい」などと言って、信じるに値せずと斬り捨てられていた俺の話が真実だとなると、世界にとって、またあの厄災が起こるのではないかという脅威となる。

 そして近くの者に限って言うと、当然の権利として俺にあたってきた連中は、どう振る舞えばいいのかと困っているようだ。

 結果、信用するという意見と勘違いという意見で真っ二つに割れていた。

 俺としては、そんな事はどうでもいい。今更謝られても困るし、興味もない。今は、どうやって強くなるのか、それだけが興味の対象だ。

「鳴海。焦るなよ」

「ああ」

「俺を置いて行くなよ、相棒」

 1人迷宮に忍び込んででも行きそうに見えたのだろうか。

 俺と采真は、拳を合わせた。



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