学校
高校3年間の片想い。今日はそれに決着をつける。そう決めた。
今日で制服を着るのも最後になると思うと、ダサいと思っていたのになんだか惜しくも感じる。白いワイシャツ。紺色のスクールセーター。黒に近い紺色のブレザーに同じ色のプリーツのスカート。胸元には赤くて細い紐のようなリボンが垂れ下がっている。姿見に映しだされた自分の姿。気合いを入れるために頬っぺたを両手で二度叩いた。
自転車で走り抜ける通学路。信号の向こうに踏切がある。遮断機が下りていて、電車が通り過ぎるのを待っている人たち。その中に見覚えのある背中を見つける。男にしては狭い肩幅。その右側にスクールカバン。両手はポケットの中。太陽の光を浴びてうっすらと茶色く見える髪。
「おはよう」
私は自転車を下りてから、そっと彼に近づいて声をかけた。踏切の音に負けないように大きめの声で。
「おはよう」
彼の眠そうな顔。騒々しい音の中でも彼の声は聞き漏らさないように私の耳はできているようだ。
「また夜更かししたの?」
緊張しながら彼の顔を覗き込む。
「ちょっとね」
そっけない返事。彼がそう言ったのと同時に、カンカンという音が止み、遮断機が上がった。踏切の前で待っていた人たちが一斉に歩き出す。彼も、私も。
「今日が最後だな」
踏切を渡りきってすこし行ったところで彼は言った。
「そうだね」
彼の歩調がいつもより遅い。おそらく自転車をひいて歩く私に合わせてくれているのだろう。
「お前に会うのも今日が最後かな」
それを聞いて私は足を止める。半歩前を歩いていた彼が遠ざかっていく。ポケットに手を入れて、踵を引きずるように歩く姿が遠ざかっていく。私の足が止まったのに気が付いて、5歩くらい先で彼の足も止まる。そしてこちらに振り向く。
「どうした?」
彼が不思議そうにこっちを見ている。好きだ、と思う。今までの思い出が溢れてくる。頭の中いっぱいに、彼との思い出が溢れる。
「今日、学校終わったら時間ちょうだい」
自転車のハンドルを握りしめる。強く、強く。視線は彼から離さない。少しでも彼のことをこの目に焼き付けておきたいと思ったから。
「そんな怖い顔すんなよ」
彼は笑って言った。
「俺も、同じこと言おうと思ってた」
照れくさそうにしながら、続けて言った。
「早くしないと遅刻するぞ」
私が何も言えずにあっけに取られていると、彼は歩き出した。
「まって」
私は急いで彼を追いかける。今日は雲ひとつない晴天。まだ少し肌寒い。桜が咲くのはあと2週間後くらいだろうか。早く春になればいいのに。
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