第45話

 ベッドのフレームの組立はあっという間に終わった。


 包装から出したら説明書通りに何本かボルトを締め付ければ終わりなのでこれと言って技術も知恵も必要ではなかった。


「あっという間だな」

「そうだね。鉄平、次はちょっと力仕事だよ。僕の部屋からフレームとマットレス、瑞穂の部屋からマットレスを運び込むよ」


「うわ~ なんだかホント愛の巣を作るんだな……」

「今更そんな嫌な顔をしないでくれよ。そんなに嫌なら帰ってもいいからさ」


 鉄平は心底嫌そうな顔はするものの一人帰宅するのも嫌なので、仕方なく僕の手伝いを続けてくれた。




 二つのベッドを並べてみると案の定高さが合ってない。


「高い方の脚を切るのか?」

「まさか! そんな面倒なことはしないさ。低い方の脚にいらない本や雑誌を噛ませて高さを合わせるんだよ」


「ま、そうだろうな。運ぶよりこっちのほうが大変そうだな」


 鉄平はベッドの高低差を見比べてため息をついている。なるべく差が小さくなるものを選んだつもりだからそこまでひどくはないと思うんだけどな。

 いらない本は紙袋に入れて既に部屋の片隅に置いてある。



 階下の風呂からは楽しそな黄色い声がここまで響いてきている。


 僕がそっちの方を気にしているのを見たのか、鉄平は「覗くに行くか?」と言ってきた。


「瑞穂の身体はお前などには見せぬ! ゆかり一人のときにでも覗いてこい」

「あ、いや。なんで喋り方まで変わっているのさ。瑞穂ちゃんは覗かないって!」


 鉄平と瑞穂はお互いに苗字の呼びしていたので、この際みんなで名前呼びに変えさせた。


「ん? じゃあ、ゆかりのことは覗きたいのか?」

「……」


「え? マジ? は? もしかして鉄平ってゆかりのこと?」

「……」


「本当……ごめん。気づかなかった。あ、でも僕には何もでき――」

「ううん。貴匡、ありがと。貴匡のことは頼れないのは十分承知しているから大丈夫」


 ずっと僕に思いを寄せ続けてくれていたゆかりに鉄平とくっつけるために僕が何かアクションを起こすことはおかしい。さすがにそれは気のおけない友達同士でも失礼がすぎる。とはいっても今は驚きのほうが大きいのでなにかしてくれと言われても困るのは確かなんだ。


「うん。陰ながら応援することに徹するよ。でも僕に出来ることがあったら一切の遠慮無しで言ってくれよな」


 食べ物の好みからスリーサイズ、身体の何処にほくろがあるとかいろいろと情報は教えられているから鉄平にそれらはこっそりと提供できる。


「いや、いらないし。なんで貴匡がそんなことまで知っているんだかも追求したいけどしないから!」


 あれ? ちょっと機嫌を損ねてしまったらしいが心当たりがなさすぎる。この短い間に何があったのだろう? 恋する高校生男子は取り扱いが難しいな。


「もういいよ。高さ調整しちゃおうよ」

「ん、分かった。頼んだよ」



 本の厚みが全部違うのでそれぞれ四本の脚に丁度いい高さを与えるのに辺りが暗くなるまでかかってしまった。



「貴匡くん。できた? わあ~ おっきいベッドだ!」

「無理やりだけど、結構広いベッドになるね。調べたらキングサイズベッドより幅が広いんだって」


「今夜から一緒に寝られるんだね!」

「いや、瑞穂さんや。今夜は鉄平もゆかりも居るから無理っしょ?」


「え~ ゆかりんと鉄平くんの二人が貴匡くんの部屋で一緒に寝ればOKじゃないの?」


 お友達なのだから問題ないのでは? というのが瑞穂の考え。確かに僕たちは交際する前から一緒に寝たりもしたことはありますけど、僕たち基準は駄目でしょ。


 鉄平を見ると満更でもない様子。まあ、さっき聞いた通りだからね。急接近するチャンスって言えばチャンスだもんね。

 ゆかりはキョトンとして理解していない様子。「それはないなー」とか「むりー」とか、後はちょっと恥ずかしがったりはにかんだり等々はないのかね? そうだった。ゆかりは対僕にはいろいろ気がつくが他には一気に鈍感になるのだった。


「しょうがないなぁ~ ハジメテは貴匡くんが良かったけどゆかりんでもいいよね」

「うん。瑞穂ちゃんのハジメテゲットだぜ! いえい!」


 よく分からないけど当初の予定通り、ベッド部屋は女の子二人で使ってもらって、野郎は僕の部屋で布団敷いて寝ることにする。

 ああ、布団の用意を忘れていた。布団乾燥機かけないと湿っていて寝るとき絶対に気持ち悪いハズ!


 僕が布団を用意している間に鉄平には風呂に入ってもらい、瑞穂とゆかりには夕飯の下ごしらえをしてもらい僕の風呂上がりに夕飯とすることにした。







 僕も風呂に入ってさっぱりしてきた。


「夕飯は軽くね。昼間のサバの余りをサバ味噌にしたのとお味噌汁とサラダ。お新香は冷蔵庫にこの前買ったやつが有ったから切っただけね」

 瑞穂がそう説明するが、ぱぱっとこれだけ作れるなら十分すぎると思う。我が彼女は素晴らしい。

「味噌汁を作ったのは私だからね、おふたりさん」

 ゆかりが自分もしっかりやったことをアピールしてきた。若干うざいが、鉄平の手前何も言わないでおく。


「足りなくても、この後ゲームする時につまむお菓子はいっぱい用意してあるから大丈夫だからね~」

 さすがゆかりは泊まる気満々でうちに来ただけあってゲームもお菓子も全部用意が出来ているようだ。



 ゆかりの持ってきたゲームはどの時期のものか分からない人○ゲームと剣を刺すと髭面のおっさんが飛び出るやつだった。

 久しぶりの大人数でやるゲームに僕も瑞穂も思いの外はしゃいでしまった。ボッチにこの手のゲームはほぼ無縁だからね。


 罰ゲームはポテチにチューブの生わさびを塗ったものを一口で食べるというえげつないやつだった。僕、瑞穂とゆかりは一回ずつ食べただけで済んだのだが、なぜか鉄平は五回も負けてわさびポテトを泣きながら食べていた。涙に鼻水でいつものイケメンが台無しだけど前髪もないし今更って感じなのかな?


 今夜は二人が泊まってくれてよかったかもしれない。瑞穂も僕も楽しかったし、鉄平もゆかりといつも以上に話をしていた。


 友情も愛情もきっと深まったに違いない。

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