第13話 光

 すると突然、ピカッと眩しい光がリュウを包んだと思うと、リュウの身体がまるで太陽のようにカッと強く光る。


 __な、何だ!? 一体何が起きてるんだ!??


 リュウが自分の身体の異変に戸惑っていると、ビョードーのつんざくような叫び声が部屋中に響き渡った。


【うぎゃあああああああああ!!! な、なんだ、今の光は!? 目がぁあああ! 目が見えぬぅううう!!】


「一体、どうしたっていうんだ……って、あ、喋れるようになってる!」


 リュウはわけがわからないながらも、あとずさってビョードーから距離を取る。

 さっきの光のおかげか、ビョードーの魔法も解けたようで、魔法によって喋れなかったはずの口も元に戻り、喋れるようになっていた。

 一方ビョードーはもがき苦しみ、両手で目を押さえながら床をどったんばったんとのたうちまわっていた。

 その姿はとても恐ろしく、リュウは怖くなりながらも必死に震える足を動かしながら、ビョードーにぶつからないように避けながら後ろ後ろへと下がっていく。

 しかし、その間にだんだんと収縮していく光。

「あ、待って待って消えないで! あぁ、どうしよう、光がなくなる前に早く逃げなきゃ!」と逃げ出そうと、リュウはビョードーに背中を向けて一目散に入り口の扉に向かって走り出す。


「くそっ! ダメだ、全然開かないぞ! どうやったらこの扉、開くんだ!?」


 しかし、あの大きな扉は固くて閉じていて動かない。

 リュウが必死に押しても引いても何をしても開けることができず、逃げ出すことができなかった。


 __どうしよう、せっかくのチャンスだったのに!!


 「もう、オレもここまでか」とリュウが諦めかけたそのとき、【どこにいる! 小僧!?? どこに行ったぁあ!!】と大きな声で怒鳴るように叫ぶビョードー。

 そして、何かを隅々まで探すように、血眼ちまなこになってドタバタと部屋中を走り回っていた。


 __え? 何で?? もしかして、あいつにオレの姿は見えていないのか?


 離れたといえど確実に見える距離にいるというのに、ビョードーは【どこだ、どこにいったぁあああ!?】としきりに叫びながら部屋の中をひっくり返すように、ドタバタ音を立てながら探し回っている。

 リュウはわけがわからず視線を落として自分の身体を見てみると、なぜかうっすらと身体が透けて見え、自分の身体を通して先の景色が見えていることに気づいた。

 びっくりして思わず「あ!」と大きな声を出してしまって、慌てて自分で口を押さえる。

 下手に声を出してバレたら大変だとすぐさま口を押さえたはいいが、思いのほか声は大きかったようで、声を上げた瞬間にぐるん、とこちらを見るビョードー。


【そこに、いるのか……?】


 どすんどすんとリュウのほうにやってくるビョードー。

 リュウは足がすくんで動けない。

 とにかく声を殺し、物音を立てないように必死だった。

 心臓の音がうるさく、今にも飛び出しそうなほど大きく早鐘はやがねを打ち、脚は震えて、冷や汗がたくさん出てくる。


 __恐い恐い恐い恐い……っ


 だんだんとビョードーはリュウに近づいてくる。

 その距離は、もう触れる寸前だった。


 __もうダメだ、バレる……!!


 恐怖でギュッと目をつむり、リュウが諦めかけたときだった。

 目の前のビョードーはリュウに触れる間際にジッとリュウがいるほうを見たあとに目を細めると、【気のせいか……】と、ぐるんと再びきびすを返した。


 __はぁ、よかったぁ……。


 ビョードーは背を向けたまま、こちらを向く様子はなく、どうにかバレずに済んだようでリュウはホッとした。

 しかし、このままではバレるのは時間の問題だと、リュウはビョードーからさらに距離を取るように、扉から壁伝いに離れて様子をうかがうことにする。


 __オレ、何で透明に? 多分、ビョードーから見えてないってことだよな……? でも、さっきの感じ的に音は聞こえるということか。


 どうしてかはわからないが、今の自分は透明になっていて、ビョードーから見えていないらしい、とリュウは気づく。


 __もしかして、これがオレの特別な力?


 ヒナとヨシのような特別な力。

 今までずっとこの力が使えなかったことはいざというときに使うためだったのかもしれない、と思うと同時に、自分にも不思議な力があることにリュウはちょっと嬉しかった。

 そして、自分の姿が見えていないなら、このまま気づかれないよう声や物音を立てずに隙をみて逃げよう、とリュウは息を殺してビョードーに悟られないように気配を消す。


【どこだぁああああ! どこに行ったぁあああ!!! 今すぐに出てこい! 小僧!!!!】


 何度も扉の前や奥や物陰などを探すようにしても見つからず、ビョードーは焦っているようだった。

 ビョードーは魔法を使っているのか、色々なところから花火のような光がパッパッといくつも光るも、リュウを見つけられることができないようで、髪を振り乱しながら必死の形相ぎょうそうで探し回っている。


【おかしい、おかしいぞ……。まさかあたしの力が効かないなんてぇ……っ! もしや、あの意志の力を使ってこの部屋から抜け出したんじゃあ……。まずい、まずいぞぉ、あの光があるのはまずい。このまま普通じゃないまま生かしてはおけない……!!】


 ビョードーはぶつぶつと大きな独り言を呟くと、また魔法を使ったのか、小さな花火が上がる。

 そして、ギギギギ……っときしむ音とともに、先程リュウが何をやっても開けられなかった入り口の大きな扉がゆっくりと開いていった。


【探せ、探せ、探すのだぁあああ! あの小僧を一刻も早く探し出して、今すぐにでも「普通」にしてやる!!】


 ビョードーは半狂乱になりながら、開いた扉からドタドタと大きな足音を立てつつ出て行く。

 リュウは振動が遠ざかったのを確認すると、今だ! とビョードーが出たあと閉まり始める扉の隙間を抜けて外へ出る。


「はぁ、やっと出られた。……とにかく、バレないように逃げながら2人を探さなきゃ!」


 リュウはビョードーにバレないように物陰に隠れたあと、ビョードーの姿を目で追う。

 巨体はあっという間に城の奥へと消えていった。

 そして姿が見えなくなったあと、リュウはバレないように、ビョードーとは逆のほうに向かって走り出した。

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