18話

 ――たしかに。


 世の中には、人間以外の生物に愛を注ぐ者たちが、少なからず存在するという。

 ここで言う『愛』というのは、単純に可愛がったり、憧れたりするものではもちろんない。

 彼らの愛とは、すなわち男女の情。恋人や夫婦の間に抱くようなものである。

 対象は、犬や猫などの動物たち――には限らない。

 偶像や絵画のような無機物や――はたまた、穢れから生まれる邪悪な魔物にまで、恋心を抱くのだ……そうだ。


 魔物の中には、今の神様のようなぷるんとした存在もいる。

 おまけにこの魔物、まあまあ好事家たちには人気が高いのだとか。

 艶本なども少なくはなく、怪しげな貸本屋に並んでいるのも見たことがある――が。


 ――私はそんな特殊性癖は持っていないわ!


 私の趣味はいたってノーマル。

 人間の男性が好きだし、年頃は近い方が良いし、できるならば顔が良い方が望ましい。

 性格は優しく穏やかで、だけど父のように気弱なのはご遠慮したい。

 しっかりするときはしっかりしていて――私のことを、ちゃんと見てくれる相手ならさらに良い。


 ――神様は性格の方は申し分が……じゃなくて! また考えてる!!


 ああー!――と頭を抱えて呻くのは、あれからさらに数日後。

 今日も今日とて、神様の部屋から宿舎へと帰る途中のことだった。


 場所は食堂。

 だけど今日は、別に食堂の食事を受け取りに来たわけではない。

 リディアーヌからもらった食料が無くなったので、追加でたかるために――もとい、分けてもらうため、彼女と待ち合わせ中なのである。


 その彼女は、現在は食堂の裏手で、貧しい子供たちに先に食事を渡しているところだ。

 私は別に渡すものもないし、わざわざ顔を出す必要もないだろう、と食堂で待機中。

 特にすることもなく、手持無沙汰なぶん、頭は余計なことばかりを考えてしまう。


 ――そもそも……そもそもよ? 他の神様はどうなのかしら。人間か人間でないかって言ったら、私の神様に限らず他のお方も人間ではないのだし……。


 もしかして、ぷるんとしているのは神様だけではない――なんてこともあり得るだろうか。

 一見すると人間と同じ姿でも、本当の姿は異なるということも、相手が神ならありそうな話だ。

 そうなると、神様の姿に悩む私の方がおかしい可能性も――――?


「――エレノア。あなた、そんなに難しい顔をしてなにを考えていらして?」


 食堂の一角。

 私の座る席の横に、聞き覚えのある声がかかる。

 ツンとした口調から、誰であるかは振り返るまでもない。


「わたくしが待たせ過ぎたのかしら? 能天気なあなたがそんな顔をして、らしくもない」


「……リディアーヌ」


 小馬鹿にしているのだか、心配しているのだか、相変わらずよくわからない彼女を横目に、私はため息を吐く。

 いつもなら言い返すはずの私が黙っていることに、リディアーヌはいぶかしむように眉をひそめた。


「あなた、本当に様子がおかしくてよ? どうしたの――――」

「ねえ、リディアーヌ」


 そんな彼女の心配をよそに、私は物思いに沈んでいた。


 ――他の神様の姿、聖女なら知っているかしら。もしもぷるぷる姿が本当の姿だとしたら、他人には見せないはず。よほど親しい聖女なら、あるいは…………。


 なんて考えているのが悪かった。


「……あなた、アドラシオン様の体って見たことある?」


 ぼんやりと明後日の方向を見つめつつ、ぽろりと口走った私の横。

 リディアーヌがとんでもないことを聞いたかのように、ごほっと荒くせき込んだ。

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