第9話
大昔、この城の地下には地下水でできた大きな湖があった。
この隠し通路は穴の中を減速しながらうまく滑り落ちることで、安全に着水できるという仕組み。
設計は確かに見事なのだが、問題がある。
十年後二十年後、この城周辺の環境が変わっているかもしれない、ということを視野に入れていなかったことだ。
城の周辺の城下町は発展し、水の利用も増え、地下水もたくさん使われるようになった。
その結果として、地下にあるはずの湖の水量も減っている。
つまりそのまま滑り落ちていたら死んでいた。
そしたらこの話も終わりだったから、魔王を召喚したおかげで王様は助かったことになる。
「なんですかここ」
翼をばっさばっさとなびかせながら穴から滑り落ちてきた魔王は、二人を下ろせそうな場所を見つけて下ろす。
足元には最低限の明かりがある。
「俺も知らんよ」
「あなたの城でしょう」
魔王の一言に反論のしようがない。
「城の地下にこんな物があるとは聞いたこともない、というかそもそも城の地下なんか行ったこともない。お前の方が詳しいんじゃないか」
長いこと城で務めている魔法使いに王様は話を振る。
「私たち魔法使いが働いてる部屋は半地下ですが、あそこより深いみたいですね」
長いこと生きていろいろと経験してきたから出世したのがこの魔法使い。なので王様よりまともな事をいう。
「となると昔の地下牢とかですが、降りた感覚だとそこより深そうだ。多分城の施設よりも地下じゃないかと思います。こんな空間があったなんて私も初めて知りました」
「相当深そうってのは同意しますがね。管理はされてるみたいじゃないですか」
魔王はそう言って足元の明かりを蹴ってみる。
石だ。キラキラと光る石。
「これは自然の物とは思えませんよ」
「そうか?」
王様は魔法については詳しくない。
彼は統治者。現場で魔法を唱える必要なんかないのだ。魔法についての知識が必要なら知識がある人を探して城に連れて来る。偉い人とはそういうものだ。
「そうですね。これは、海の方で作られてる物です。日光に3日当てておくと暗い場所で一週間は光るという物で」
光るといっても必要最低限レベル。これだけで生活はできない。
「昔は船の誘導灯に使いましたが、今は土産物屋の店先に並べてる程度です」
「わざわざ置いてあるということは、何か目的があるってことでしょう」
魔王はひとつを手に取る。
土産物屋に並んでいる、というだけあって確かにキレイ。妹に持っていけば喜ぶだろうか。あいつこういうよくわからないもの好きだし。
そう考えてポケットへ。
「誰かが置いてるって方がいいな。少なくとも出口があるってことだ」
王様はそう言った。
この王様は芸術や道楽ではなく実務的なことが得意な方か。と魔王は頭の中で考えた所で
ざぱーん
と音がした。
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