第26話 帝国歴323年8月、泊地襲撃
[まえがき]
今回は閑話のような感じです。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
警備部隊を残した関係で東方からは結局14個師団相当が帝国に帰還し休養に入った。
ASUCAについては、小都市ボルシェのホテルを借り上げて開設された皇帝大本営から
アンガリア海軍は、アメリゴ合衆国より建前上無償供与された4隻の旧式巡洋艦と20隻の旧式駆逐艦も投入し、アンガリア海峡と北洋海の出口の封鎖を続けていたが、講和条約締結後ドライゼン帝国は西洋海に多数の港をもつガラリアとの正常貿易を間を置かず再開しため、海上封鎖の意味合いはほとんどなくなった。
そのうえ可潜艦の襲撃を受け続け、多くの艦船が沈没し、艦船以上に乗組員の不足が深刻となり始めた。このまま民間船の船員を徴用し続けた場合、アンガリア自体の海運が細る可能性が急激に高まっている。
そんな中、建造中の航洋型可潜艦の2番艦が竣工した。NU-01と同じ艦型でNU-02と名付けられた。NU-02は予定通りNU-01と戦隊を組みアンガリア近海に向けて出港していった。この戦隊について、海軍では、当初可潜艦隊と名付ける予定だったが特別に第1
連邦に対する
「そろそろ、アンガリアに宣戦布告してもいいころあいだな。
海軍では、2隻目の可潜艦も就役したし、アンガリアを締め付けるため無制限艦船攻撃を行うか。水上艦なら艦船を拿捕できるが、可潜艦では沈めるほかない。民間船員には気の毒だが諦めてもらうしかないな。
外務省からアンガリアに対して、わが国艦船の海上封鎖を続けるようなら、無制限艦船攻撃を行うと通告してくれ。これで向うからわが国に宣戦布告するだろう。海上封鎖を自分で味わう訳だ。島国は封鎖しがいがある」
次の艦型の航洋型潜水艦の竣工が来年半ば。それまではたったの2隻しかない可潜艦だが、今のところアンガリアには対抗手段がないようだ。せいぜい優位なあいだに戦果を稼ぐ腹積もりである。
ドライゼン帝国外務省はニコラの指示を受け、アンガリア王国に対して、ドライセン船の海上封鎖を解かない場合、無制限艦船攻撃を行うと通告した。これを受けたアンガリア王国はドライゼン帝国に対して宣戦を布告し、ドライゼン帝国も即日アンガリア王国に対して宣戦布告した。これによりアンガリア王国は正式な交戦国となり、建前上ではあるが完全中立国との貿易に制限が加わることとなる。
第1潜水戦隊の最初の出撃から、無制限艦船攻撃を行うよう戦隊司令デーミッツ大佐に海軍作戦部を通し指示が出された。確認したところあくまで指示であり命令ではないとの返答をデーミッツは得ている。また、デーミッツは海軍作戦部に対し第1潜水戦隊の最初の作戦計画を提出し了承を得ている。その作戦計画では、戦隊はアンガリア島東方面を遊弋し適宜艦船を襲撃するとなっていた。
二隻の航洋型可潜艦に搭載された水中自爆型ドールの総数はこれまでの2倍になったと言ってもわずかに8機。有効に使う必要がある。
乗組員の数からいえば民間船に比べ圧倒的に軍艦の方が多い。物資の運搬を阻害するより、専門職でもある艦船の乗組員を削る方が敵にダメージを与えると考えているデーミッツはやはり狙うべきは軍艦と心の中で決めていた。
これまで、4機のドールしかなかったため、4隻以下の敵艦隊を狙っていたが、これからは8隻までの艦隊に対して襲撃が可能になる。8隻までの敵艦隊を殲滅したあと、もしもドールが余っているようなら、軍艦、民間船を問わず独航船を襲撃する腹積もりである。
カール軍港を出航した第1潜水戦隊の2隻の航洋型可潜艦は、北洋海の出口手前で潜航を開始し、海中3ノットの微速でアンガリア海峡方面に進出していった。今回の出撃ではアンガリア海峡の北端をかすめるように戦隊は北上し、アンガリア海軍の西洋海艦隊の泊地、スカパ・ホロウ諸島を目指している。
西洋海艦隊は最新鋭戦艦6隻、大型巡洋艦8隻、巡洋艦8隻、駆逐艦16隻からなる純粋な打撃艦隊だ。今回のドライゼン封鎖作戦には投入されていないため無傷かつ高練度の艦隊である。さらに先般連邦軍の砲艦をエルバ河河口までエスコートした艦隊でもある。今現在艦隊が泊地に停泊しているかどうかはドライゼン側は把握していない。
スカパ・ホロウ襲撃を止められる可能性を考慮して、デーミッツが作戦部に提出した作戦計画にはこの襲撃について一切触れていない。
作戦部自体、第1潜水戦隊の運用方法についてはデーミッツに任せているような節もあり、作戦部に計画を秘密にすることは統制上問題があるが、戦果は挙げられるときに上げるべきだとデーミッツは考えていた。
第1潜水戦隊がスカパ・ホロウ諸島に到着したのは午後21時。
戦隊旗艦のNU-01が大型艦から順に4隻を攻撃し、5隻目からNU-02が攻撃すると事前に打ち合わせている。敵艦の数が8隻以下の場合は、NU-02から順に水中自爆型ドールを残すことになっている。
星空の下、洋上を30分ほど航行した両艦は前方にスカパ・ホロウの灯台の明かりを認めた。泊地までは距離にして約35キロ。潜望鏡深度まで潜航した2隻が6ノットで並走しながら泊地に迫っていく。
午前零時。戦隊は泊地入り口に到着。潜望鏡で確認したところ、大型艦多数を確認した。
攻撃目標の方位、距離を記録してたデーミッツが、
「全発射筒ドール発艦準備。本艦は敵戦艦4隻を攻撃する。目標諸元を送る
的方位、12時、的速0、距離2500。
的方位、12時、的速0、距離3500。
的方位、1時、的速0、距離3000。
的方位、1時、的速0、距離3500」
『ドール発艦室了解。
……、各機諸元入力良し。
発射筒注水。……。
発射準備完了』
「全ドール発艦!」
発令所内にも発艦の振動が感じられた。
『1番から4番、全ドール発艦しました』
「深度そのまま、微速前進、180度回頭、面舵一杯」
「深度そのまま、微速前進、180度回頭、面舵一杯」
NU-01がゆっくり艦首を右に回し180度回頭を始める。回頭途中でNU-02のドールの発艦音が4回聞こえてきた。
全8機のドールは割り当てられた目標艦に向けコースを変えていく。
回頭を終えたNU-01が増速しながらスカパ・ホロウ泊地から脱出していく。NU-02も後を追っている。
「時間です」
最初の鈍い水中爆発音が聞こえてきたあと、しばらくしてもう一度、それから連続して6回の水中爆発音が聞こえた。
「本艦およびNU-02の全ドール目標を捉えたようです」
8度の水中爆発音の後も、ドールの自爆とは違う爆発音が何度か聞こえてきた。
「潜望鏡上げ。戦果を確認する」
深夜のスカパ・ホロウ泊地は赤々と燃え上がる複数の大型艦、転覆し大穴の開いた船腹をさらした艦、すでに沈没着底して艦上構造物の一部のみを水上に出した艦が見えた。
潜望鏡に備え付けられたカメラで戦果確認用に何枚か写真を撮った後、
「潜望鏡下げ。
正確な戦果は今のところ分からないが、手ごたえは十分だった。
これより軍港に帰投する」
第1潜水戦隊はその後無事にスカパ・ホロウ海域から脱出し、カール軍港への帰路についた。
第1潜水戦隊がカール軍港に帰還し写真分析を行った結果、
撃沈: 戦艦3、大型巡洋艦4
大破: 戦艦1
という戦果判定となった。
[あとがき]
次話から『第3章 回天。天才も人の子、感情はある。』になります。
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