第8話 ともだち
香織とふたり、繋いだ手をブンブン振ってウォータースライダーまで歩く。
恋春は後ろから付いてきているが、振り向いてみるとニヤニヤ笑ってやがる。ムカつくがなにか言うと更になにか言って返してくるから何も言わないでおこう。
「お二人さん、楽しそうでございますなぁ、むひひひ」
むむむ、コッチから反応しなかったら恋春から攻めてきたぞ。あんなに楽しそうに振っていた手を香織はピタリと止めてしまったじゃないか!
「なんのことかな? お友だちとプールでこれから大いに遊ぶのだから楽しみにきまっているじゃありませんか、お嬢さん」
香織は変な口調で恋春にそう返すと俺の手を放し、今度は恋春の手を取りウォータースライダーに駆け出した。これこれ、走っちゃ危ないぞ。あとあんまり見えていないんだろ、おまえ。
「香織さん、いやだなぁ~冗談ですよぉ~アハハハ」
うん。恋春のあれは長年兄妹やっているし、
「お友だち、かぁ……」
ちょっと落ち込むなぁ……あの夢のこと思い出しちゃったよ。
「おーい、悠くーん。はやくはやく、もういっぱい並んでるよぉ~」
香織はコッチの気も知っているか知らずかわからないけど、無邪気に手を振ってくる。
ま、今日のところは【楽しみに決まっている】って方を採って、徐々に進めていこう。嫌われていることはないんだし、慌てる必要はないな。
「おーい待てよぉ~」俺は小走りに二人を追いかけた。
☆
「ただいま、四人乗りの浮き輪は調整中になりま~す。申し訳ございませんが、お二人もしくはお一人でのご利用をお願いしておりま~す」
監視員のお姉さんがメガホンでアナウンスしている。
「――だってさ。残念だね。みんなで乗れるかと思ったのに」
「じゃあ、最初は恋春ちゃんと私で乗ろっか」
「そうだな。じゃ、俺は一人乗りで」
「うわっ、これおもしろいね。次は私が一人乗り乗るから兄妹で乗って」
「お、おう」「う、うん」
なんか兄妹でこういうの乗ったりするのすごく久しぶり。他人と乗るより多分緊張すると思う。恋春もなんか表情が引きつってるし。
順番が来て香織が先に降りていった。楽しそうな叫び声が聞こえてくる。
「お兄ちゃん。なんかごめんね、さっき。余計なこと言っちゃったよね」
ああ、俺は妹に気を使わせてどうするんだ。
「なんのことだ? 俺は俺のペースで行くんだから関係ないぞ。おまえが何を言ったところでそこのところは変わらないから何も気にするなよ。……で、前に乗るのか?後ろか?」
俺たちの順番が来たので恋春に聞く。
「ん、ありがと。じゃあ前がいい。お兄ちゃん、ちゃんと押さえててよ。結構二人乗りコワイんだからね」
「やっぱり兄妹がいるといいなぁ。妹ちゃんほしいよぉ~」
スライダーを降りると香織が俺らを見て言ってきた。
「親に頼んだら?」
と言うと、
「今から仕込んでもらっても、その子が恋春ちゃんぐらいの年になる頃には私も結構な年齢よ」
無理無理って手のひらをひらひらさせる香織。仕込むって生々しいな。
「香織さん、お兄ちゃん。私少し疲れたから、次は二人で行ってきていいよ」
香織は恋春の言葉にピクッとして、おどおどと俺の手をとってきた。
「それじゃ、悠くん行こうか。恋春ちゃんゆっくりして待っててね」
香織の手をぎゅっと掴み、ウォータースライダーの階段を上がっていく。
……無言。
「あ、あのさっきの……」
「さっきのって?」
あえて知らぬふりをする。でも、いまので香織もちょっとは意識してくれていると分かった。
良かった。ほんとホッとして、肩の力が抜けた。
「そうだそうそう、香織。ありがとな、今日恋春のことも誘ってくれて」
「へっ?」
まさかそんな事言われるとは想像もしてなかったのか変な声出ていた。
「いやね、あいつ今一三歳で丁度反抗期入りたてなんだわ。その前は俺が妹と一緒に行動するなんて恥ずかしいなんて思ってる時期だったしさ。ちょっとここのところギクシャクしてる感があったんだけど、昨日一緒に水着買いに行ったり今日プール来たり、なんだか久しぶりに仲良し兄妹っぽいことできたかなって」
「えっ、シスコン?」
やーめーてぇ~! 昨日もスポーツ用品店の店員さんに言われたのに……
でも確かに昨日からやたらと恋春のことがかわいいとは思うようになったな。もちろん女性としてではなく妹としてだけだけど。
「うふふ、冗談よ。でも私からしたらせっかくの妹を邪険に扱うなんてありえないわよ」
一人っ子だとそういう風に思うのかぁ。
なんて話していたら、そろそろ順番がくる。
「前と後ろどっちがいい?」と香織が問う。
これは難問だ。後ろから香織を抱きしめたいという気持ちと背中に香織のマシュマロを生で感じたいという葛藤が! これこそが究極の選択なのか!
「……なんだか悠くんの顔がエロい。もう、私一人で乗る」
「一人はイヤです。前後どちらでもいいので香織さんと一緒に乗りたいです」
こころの声が漏れる。香織は呆れた顔を見せた後クスクス笑って、
「では、私が前で悠くんは恋春ちゃんと乗ったときみたいに後ろで私をしっかりと押さえていてくださいね」
いざ乗り込むとウォータースライダーはあっという間に下まで着いてしまった。短すぎる……先程まではそんなこと思ってもなかったのにな。
この後、流れるプールで浮き輪にのって三人でグルグル何周も回ったり、昼食をとったりした。
競泳用プールで香織がマジ泳ぎしていたのは、俺と恋春の二人でびっくりしたよ。俺ら兄妹は泳げるけど溺れない程度ぐらいだからね。
くたくたになるまで遊んで、大満足で帰宅した。飯食って風呂入ってソッコー寝たよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます