閉店 あとがき
とまぁ、そんなこんなで、ハチワレ猫の名前会議は閉店後も続いた。
候補はいくつか上がったのだが、どうにもしっくりこない。
・べこ餅
・オレオ
・ココア(マシュマロが浮かんでるやつ)
・コーヒーゼリー(上に生クリームが乗ったやつ)
これらはもちろん『黒と白』からインスピレーションを受けたやつだ。結局『べこ餅』もノミネートされたのである。
「成る程、これが『べこ餅』なんですね。もちもちしてますね」
と、マスターが実家から取り寄せた(ただし、マスターが金持ちだということは伏せているため、たまたま近くのスーパーで北海道フェアをやっていたことにした)べこ餅を、それに勝るとも劣らないもちもちほっぺの持ち主であるヨリ子ちゃんが食している。もちもちが餅を食べているのだ。つまりは共食いである。大丈夫かな、この小説のセルフレイティング、残酷描写有りにしてないけど。
「結構美味しいでしょ『べこ餅』」
「美味しいです。じゃあ、やっぱり『べこ餅』で良いんじゃないでしょうか。ほら、ベッキーて呼べるし」
「どうしてヨリちゃんの名づけはあだ名ありきなんだ」
でも確かに『ベッキー』ならありかもしれない。
いや、雄猫にベッキーってどうなの、とも思う。
「もうさ、あだ名のことは考えない感じでさ」
「『ベッキー』却下ですかぁ」
「でも、和菓子系は良いんじゃないかな。あの猫なら洋菓子よりは和菓子なイメージだし」
「ああ、それ。わかるかもです」
「だからさ、和菓子にしようよ。ええと、何だろ『信玄餅』『和三盆』『どら焼き』……」
「『水羊羹』、『おせんべい』に『まんじゅう』……」
適当なメモ紙に、とりあえず浮かんだ和菓子を列挙する。『まんじゅう』と書いていたヨリ子ちゃんが、ぴたりと手を止めた。
「あのハチワレちゃんに濁点は似合わない気がします! 濁点禁止!」
えっ、それあんな可愛らしいハムスターに『チーズボール』なんてつけた君が言う!? とマスターは思った。思ったが、あえて口には出さなかった。沈黙は金なりとはよく言ったものである。
「わかった、それじゃ濁点は止めよう。ええと、そしたら、『ういろう』とか『かりんとう』とか、あと――」
一瞬、『かりんとう』から『かりん』なんてどう? と言おうと思ったが、色は違えど『カリン様』という猫のキャラがいたな、と思い、止めた。下手なケンカは売らない方が良いのだ。
「『みたらし』とか」
とマスターがそう言った瞬間。
「まぁぁお」
と、そのハチワレがひょこりと顔を出した。
「いま返事しましたよ! ハチワレちゃん!」
「ほんとだ……。こんなことって本当にあるんだな」
というわけで、そのハチワレの名は『みたらし』になった。もちろん、返事をしたわけではない。
「俺様の飯は?」
のつもりの「まぁぁお」である。
それがたまたま『みたらし』のタイミングだったというだけだ。『ういろう』の可能性も、『かりんとう』の可能性もあったのである。でもまぁ、みたらし団子も真っ白いお餅に黒っぽいみたらしがかかっているわけだから、ちょうど良いのではなかろうか。え? みたらしはそんなに黒いものじゃないだろ、って? きっと煮詰めすぎちゃったんですよ、失敗は成功の母って言うじゃないですか。
とまぁ、そんなこんな紆余曲折があってこのハチワレはみたらしという名を与えられ、このカフェ『TWO BOTTOM』の看板猫になった。デビュー当時を知る者は、「みたらしちゃん、急にツンデレになったわね」と必ず言う。何せ、めったに顔を出さないというか、基本的にはカウンターの裏にいるのである。けれど、マスターが何かしらのサービスをしそうな気配を感じとるや否や、ひょこりと現れて何かしらのアピールをするのだ。けれど、それでもさすがはお猫様。着実にファンを増やしている様子である。
というわけで、そんな具合の第2章である。
今回は皆が大好き(でしょう?)な看板猫、みたらしがこのカフェでいまのポジションを確立するまでのお話である。謎多きマスターにスポットライトを当てるはずだったのだが、いつの間にか乗っ取られてしまったのだ。さすがはみたらし。
ちなみに一体どの辺が『ブルーマウンテンの憂鬱』なんだ?! という突っ込みは出来るだけナシの方向でお願いしたい。何せ、これについては、一切、何も、これっぽっちも、微塵たりとも、雀の涙ほども、猫の額ほども考えちゃいないのだ。もう語感というか何というか、「コーヒーといえば、『キリマンジャロ』と『ブルーマウンテン』と『モカ』でしょ!」程度の知識なのである。そんなんでよくカフェ小説を書こうと思ったな。
いや、引っ張り出せば、『マンデリン』とか『ブラジル』、『グアテマラ』、『コロンビア』、『ハワイ・コナ』、『コピ・ルアク』くらいは出てくるのだ。来るのだが、『~の○○』の方がよほど難しい。こうなると、第3章を書くとなると、まぁ『モカ』辺りが妥当だろうなと思うものの、『モカ』の後をどうするか、そこが問題なのである。
というわけで、『モカの○○』、の『○○』部分とざっくりとしたテーマが決まったら、第3章も頑張りたい所存です。
追伸:
ラブコメに関してはすっぱりと諦めました。
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