35、スクール初日の朝食②

ジルコンが意図した通り、アヤがジルコンの黒騎士であることを見て取り、そして彼女が従っているのは、金の髪をきっちりと三つ編みにしたロゼリアであることを知る。

ロゼリアはジルコンの保護下にあることを明示している。


「どこに座ったらいい?」

アヤに聞くと、どこでもという返事なので、ロゼリアはきれいに櫛目の入ったアシメントリーの淡い茶の髪を肩で斜めに切りそろえた王子の、その斜め前に決める。

正面だと無駄な緊張感を生みそうであったからだ。

「ここよろしいですか?」

その王子はロゼリアを見て、口元を優雅なしぐさで拭う。

立ち上がり握手の手を差し出した。

その指には、ひときわ大きなルビーが煌めいている。


「もちろんです。どうぞ。わたしはノル。今年からの参加ですか?」

ノルは完璧な笑みを浮かべながら、ロゼリアを上から下まで眺め、ロゼリアの装いの飾り気のなさに、無邪気に頭を傾けた。

「エール国のご関係の方ですか?」

「いえ、僕はアデール国のアンジュです」

「アデール国ですか?どうしてそんな田舎の国の者がジルコンの黒騎士を連れているんです?」

アデールは田舎ということはもしかして共通認識なのかもしれないと思うと苦笑してしまう。


「ノルさま、それは他国の王子に対して田舎者とは失礼な物言いではございませんか?」

アヤはロゼリアのかわりに憤慨し、ノルの無礼をたしなめた。

ノルの目が、冷たくアヤに向けられた。

ノルの優雅な仮面はたやすく脱ぎ着できるもののようである。


「騎士風情が楯突くのか?」

「失礼なのではとお聞きしたただけです」

「アヤ、僕はなにも思っていないから。下がって」

「ですが、アンさま、、、」


朝から何か面白いことが起こっているぞと食堂に散らばる者たちの視線をひしひしとロゼリアは感じた。

ノルはアヤをにらみつけたが、フンと鼻であしらい、気にするだけ時間の無駄だと判断したようである。


「それは申し訳ありませんでした、失礼をお詫びしたい」

それでノルは座り、ロゼリアはその斜め前の席に座る。

彼は、もう田舎の王子に興味を失ったようである。

もしくは関わり、田舎の王子にヘタになつかれると面倒だと思ったようである。

アヤは食堂の壁際に並べられた大皿の中からロゼリアの朝食を選ぶ。

すぐに戻ると彩豊かなサラダとパンという王城の朝食にしては質素なプレートを差し出した。



その時食堂の空気が引き締まった。

パンを手にしていたロゼリアも、顔をあげたノルの視線の先を追う。

黒髪をきちりと後ろに流し、黒に金の刺繍のジルコンが、食堂に現れたのだった。

ジルコンに気が付き立ち上がろうとした者たちを手で制した。

騎士団長の長身のロサンを連れている。


ロサンがなんでお前がここにいるんだ?とアヤと無言で、視線で会話している。

ロゼリアはジルコンはどこに座るのだろうと思う。

エールの王子の席は一番格上の席だろう。

ここでの最上の席は、豪勢に活けた花の前か。

入り口から遠い、最奥の席か。


ロサンをつれてジルコンは迷わず、彼の目指す席に行く。

ロゼリアの側ではない、ノルの側である。

ロゼリアはパンを口に運ぶ。


アヤがはちみつをあらかじめたっぷりと掛けてくれているのが嬉しい。

旅の間にアヤはロゼリアの好みを把握しているようである。

そんな所が、強いからだけではなくて選ばれた、王子の騎士である所以なのかもしれない。

ジルコンがどこに座るのかは、皆が注目しているようである。

ここには男子だけでなくて女子もいる。

自分に向かって歩いてきたのと思い、顔を赤らめ緊張している姫もいるようである。


「わたしの横があいておりますよ」


そう誘うものもいるが、笑顔で座るところは決めているからと断っている。

ジルコンは空席をいくつも通り過ぎた。

方々から投げかけられるおはようの挨拶に、おはようと返している。

ジルコンの一挙手一投足に注目が集まるようである。

エール国の国力の強さそしてジルコンの存在感を示していた。


「ノル、ここの席に座っていいだろうか?」

ジルコンが選んだのはノルの隣の席。

「おはようございます。もちろんです」

ノルが笑顔になる。

ロゼリアに向けていた顔とは全く異なる顔である。

ケッと後ろで小さくアヤが悪態をついている。


ジルコンは腰を下ろした。

ノルの隣の席とは。

腰を落ち着け真正面を向く。

その顔には、朝一番の笑顔である。

その笑顔の先に座るのは。


「おはよう、アン」

「おはよう、ジル。それにロサンも」

「おはようございます、アンジュさま」


二人と騎士の間ではなんの不思議もおかしくもない朝の挨拶であった。

田舎の王子にジルコンは笑顔で挨拶をする。


ジルコンは昨晩はどうしていたのかロゼリアに聞く。

「町で服を作って、、、、」

服屋の話をするとジルコンは目を細めてロゼリアの服を眺めた。

「いいんじゃないか?普段着用に俺も欲しい。行ってみたいな、俺はお堅い御用達以外の店には入ったことがないからな」

「ジルコンが行けば御用達になるから、御用達以外からは永遠に買えないだろう?」

というとジルコンは笑う。

ノルは何度か口を開きかけて、口を挟めないようであった。


食事が終わり場所を移動する。

アヤがロゼリアに耳打ちをする。

「わたしの付き添いはここまでです。アンさま、どうやら波乱の幕開けになりそうですね!お気をつけてくださいませ」

「え、、なぜに?」

アヤは呆れた顔をする。

「なぜって、田舎のぽっと出の王子が、森と平野の国々を押さえた一強であるエールの次期王を朝から独占しているのですよ?ジルさまの楽しそうなこと。

男の嫉妬は女のそれよりも恐ろしいと申します。わたしが常にお側にいられないのが本当に残念です。

アヤはアンさまを心より応援しております。見事、怪我無く、無事に切り抜けてくださいね!」


残念と言いながらもどこか楽しそうでもある。

ノルが田舎の王子といったことをロゼリアに代わり無礼を指摘したアヤであるが、自分が言うのは別のようだった。

アデールは誰がひいき目にみても田舎の国なのだ。


ロゼリアは絶句する。

男から好意を男装の自分が得て、さらにそのことで男から嫉妬を買うなんて、ありえないと思ったからだった。





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