34、晩餐 ②

フォルス王は、昔を懐かしみベルゼ王の傷を心配する。

最近の国の様子をロゼリアの口から聞きたがる。

そして、昼間とは全く異なる、落ち着かなくなるほど優しい目をロゼリアに向けるのである。

外に対しての顔と、家族に向ける顔は全く違う。

ジルコンにもそういうところがある。


「王はあなたの母の、セーラ姫が好きだったのですよ。手痛く振られて、それはそれは可愛そうでした。それを慰めて差し上げたのがわたくしで、すぐにジルコンが生まれたのです」


くすくす笑う王妃の告白。

40を超えても尚濃い髪色を保ち、同じ色の瞳は聡明さを湛える。

フォルス王の過酷な生きざまに刻まれた皺は、彼女には無縁のようであった。

セーラはお前の良さを知るための必要な別れだったのだ、とフォルス王はなにやら言い訳をしている。

そんな父母ののろけの会話は普段聞いているのだろう、ジルコンは無視である。


同席するジルコンの妹はロゼリアの一つ下である。

父親譲りの黒髪をくるくると巻き、つんと取り澄ました顔は、ロゼリアが気軽に話しかけてよいような雰囲気ではない。

はじめのうちは、ぼそぼそと隣の席のジルコンと話を交わし、正面のロゼリアを失礼にならない程度に視線を送り、視線が合えば完璧な微笑みを浮かべる。

そのような微笑を浮かべたことがないロゼリアは、彼女の真似をして笑顔を返そうとして頬をひきつらせてしまう。


「アンジュ王子とそっくりだというロゼリア姫は、たいそうおきれいなのでしょうね」

王妃はロゼリアを見てほうっとため息をついた。


「お兄さまは、ご婚約者のロゼリア姫を連れて帰られるとばかり思っておりましたのに、残念ですわ。なんだったら、お兄さまのスクールに、森と平原の国にその美しさが知れ渡るお二人でいらしたらよかったのに」


ちくりと嫌味をいわれたような気がする。

ジルコンがアンには国元を離れて勉強する機会が必要なんだ、姫は大人しい方なんだ、双子だからといって一緒に扱うのも失礼だろう、などと言い訳をしている。


ジルコンはジュリアの機嫌を取るのに必死なようであるが、そのジュリアは納得した様子ではない。

ジルコンの妻になったら、この義妹と仲良くできていただろうかとロゼリアは彼女を見た。

生まれながらに姫として育った彼女は、近寄りがたい雰囲気を醸し出す。

山出しの姫と、正真正銘の姫はうまくいかないような気がした。


ロゼリアは早々に引き上げる。

ジルコンはロゼリアの部屋の前までついてくる。

迷子になるかもと思ったようである。子供の頃王城を走り回って遊んだロゼリアは、城の仕組みをなんとなく把握している。方向感覚も抜群である。

送ってもらわなくて大丈夫だと言おうと思うが、ジルコンの部屋も同じ方向だと思い出し、思いとどまった。


途中で、何人かの若者たちとすれ違う。

かれらはジルコンの横に並ぶロゼリアを紹介してほしそうにするが、ジルコンは彼らを完全に無視をした。

ロゼリアの部屋の前でふたりはおやすみの挨拶をする。

ジルコンがキスをしたい気持ちを飲み込んだことなど、ロゼリアは気が付かない。

なぜなら今はアンジュ王子なのだ。

王子と王子で頬におやすみのキスはあり得なかったからだ。

ベッドに横になると、今日あったことを思い返す間もなく、吸い込まれるようにして熟睡する。


ロゼリアは無事にエールでの初日を終える。

明日からスクールが始まるのだった。


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