30、ロゼリアの休日①

ジルコンが確保したスクール参加者の寮は、王城と噴水の庭と隔てた別棟である。

使用人たちの宿泊棟を改築したという。

そこから教室や修練場、憩いの森などが近い。

もちろん噴水の庭で休憩をとるもの自由である。


「これからあなたが参加するのは、俺の言葉が届く限りの国々の王族たちに呼びかけ続けているものだ。実際に出向き、参加するように直接訴えた者もいる。互いのことを深く知り、各国の置かれた状況や国々の間にある問題を考えるための場で、俺の趣旨に賛同した多くの王族の子息令嬢が参加している。

この夏で3回目の開催になる。冬もすることもある。6か月間ぐらいはみっちりと学ぶ」


「そんな勉強会など知らない。ジルが来た時にあの時に初めて知った」

「そうだろうな、アデールは中立を保つ。ベルゼ王は立場的にどちらか片側だけに肩入れをしたくなかったのかもしれないな。あなたはその勉強会を断ったわけではないんだろう?」


ロゼリアは父が隠したのだと思う。

父へ、参加の打診があったときアンジュ王子だったのはロゼリアである。

ロゼリアが知れば、絶対今回のように行くと主張したのに違いなかった。

その気質を知る父王は知らせないことを選んだのだった。

女であることがばれることを心配したのだろう。

その危険は、ここに来ている今も常に存在している。

何かあればフォルス王が助けてくれそうではあるがそれは最悪の時の保険のようなものである。

これから半年間絶対にばれないようにしなければならないし、誰にも教えるつもりもない。

ロゼリアは7つのときから9年間、日常のほとんどの時間をアンジュで通していたのだ。

半年間、見抜かれない自信はあった。


案内されたロゼリアの部屋は、小部屋の連なる一室である。

ベッドもあれば、書斎机も鏡もあり、壁には森と平野の国々のデフォルメされた地図が額装され掛けられていた。

アデールで利用していた部屋よりも半分ほどの大きさだが、必要な物が全て設えられていているようだった。


ジルコンはロゼリアと共に部屋に入り、机の上のノートに触れめくる。

意味のないしぐさだった。

ロゼリアは先ほどのフォルス王との謁見で気になっていたことを思い切って聞く。


「もしかして、エールの王は、フォルス王はこの勉強会をよく思っていないのか?」

「ああ、父が言った半端ものたちの半端なりにがんばれと言ったアレか?あんな暴言は聞き流せ。親世代は血を流して生き残った世代だ。彼らは自ら血を流さない者を半端もの扱いする。

だが、俺は血で血を洗うような時代を終わらせたいと思っている。父たちは力でねじ伏せるのを選んだ。

だが、本当にそれで平和な世の中が来るんだろうか?どう思うアンジュ?

俺は違うと思う。森と平野の国々は、フォルスの血なまぐさいやり方で力で一つに握り込まれた。それを今度は、力をつけ、まとまりつつある草原の国々にまで及ぼそうとしている。

そうなれば、この数十年の戦なんてまだましだったと思えるような血の雨が降るかもしれない。

起こるのは世界大戦かもしれない。

俺はそんな未来を避けたい。草原とのちいさな火花はあちこちで散っている。

だが、俺は今は微力ながらそれを消して回る。

平和の種を、俺たち世代で撒き育てたいんだ。わかるかアンジュ?戦を好まない俺は、腰抜けだと思うか?」


ジルコンはロゼリアに向き合った。

若かりしフォルス王に似た顔は、強い決意に引き締まっている。

濡れた黒檀のような目がじっとロゼリアを見下ろした。

フォルス王にあってから、ジルコンの顔は笑みが消え失せている。

ロゼリアを見ながら、ジルコンはずっと先の未来を見ていた。

それもエールの国から森と平野の国々、そしてさらに岩山を超えたところにある草原の国々まで。

草原の国々の脅威はすぐそこまで迫っている。

ジルコンは、父の望むままに生きてはならなかった。

自分で考え歩む。その道を間違ってはならなかった。


次世代のエールの王になるジルコンだから、彼の立場を明確に、望む方向を今から探り、示さなければならなかった。


「俺たちは、父の言う通り半端ものだ。何もなしていないし、何をなすかもわからない。フォルス王が絶対にこうと決めたら逆らえない。スクールなんて終わりだといえば潰されてしまう。だが俺はうまくこのスクールを運営し、成果をあげたい。目に見える成果ではくても、彼らとの友情や考えの共有や、なんでもいい、何か将来に続く確かなものを築きあげたいと思っている」


ロゼリアもジルコンの目を見返した。

ジルコンにフォルス王と異なる王の姿が見える気がした。

ジルコンは真剣だった。

ロゼリアも真剣に答えなければならなかった。


「今は半端ものかもしれない。だからこそ、完成された親世代ができないことができるんだと僕も思う。それが、どんなものかもわからないけど、ジルがやっているこのスクールもその一つなんだろう。やってみることに意味があると思う。僕は、ここでいろんな人たちに会えることを楽しみにしている」

「ああ、そうだな。半端ものだから、できることがある」


ようやくジルコンに笑みが戻った。

王城に入ってからの初めて見せた笑顔だった。

ロゼリアも笑う。


「わたしの部屋は、一番奥だ。何か用事があったら来てもいい」

ジルコンは顎で方向を示した。

それは部屋に来いということか?とロゼリアは一瞬どきりと思うが、もちろんこれからも行く予定はないし、社交的な案内だったと思い直す。

これは、僕の家は何番地というような軽いものだ。


「来客が宿泊するところでエールの王子が生活を?」

「城内の敷地は警護を厚くしている。固まってる方が何かと連絡事項とか便利だろう?

それにこの階を利用する者たちは、あなたも含めて10番目ぐらいには王位継承権のある王子たちだ。つまりほとんど王子さまたちだから、俺がいてもおかしくはない」

ジルコンは何かを楽しいことを思いついたように片眉をあげた。


「姫たちはちなみに上の階にいる。落ちて骨折などが怖くないのであれば、姫の部屋にも忍んでいけるぞ?」

「夜這い!」


きらりとジルコンは獲物を狙うように目を光らせた。





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