第2部スクール編 第4話 百花繚乱 29、エール国フォルス王①

王都近郊に広がる穀物畑を経て、王都への最後の街道町を抜けると、城壁にぐるりと囲まれた要塞都市が現れる。

隙間なく建物がひしめき合うその先には、鬱蒼とした森を背景にひときわ大きな威風堂々たる城があった。

頂きに雪を抱く峻厳とした山岳連峰を遠景としている。

はるかかなたからの山脈からの吹き下ろす風が初夏にさやかである。

アデールから見る景色と違う、人の営みと自然とが融合したような雄大な景色であった。


「すごい、、、」

青灰色の瞳を大きく開き輝かせるロゼリアから発せられる言葉はそれのみである。

ロゼリアは遠望からでもくっきりとわかる建物群の規模に、一体どれぐらいの人が住んでいるのだろうと思う。

王都の人口を比べればアデールはその100分の1ぐらいかもしれなかった。

近づくにつれて、彼らの行く街道が他の道と合流する。

人も物資も、大きく開いた口のような城郭都市へ飲み込まれていくのだ。


「人も物資も桁外れだ」

「そうだな。森と平野の国の中では人口も工業生産高も桁外れにでかい。陸路、運河、王都内には河川もありそこでも輸送が行われている」

「温泉もあるのか?」


アデールを出立してエール国に行く道すがら、温泉付きの旅館に泊まっていた。

そこでロゼリアはすっかり温泉の気持ちよさに味をしめたのだった。

くすりとジルコンは笑う。


一行は馬車と歩道の間を馬で行く。

通常の検問も顔パスである。

城郭をくぐると、歩道を歩く華やかな服装の娘や、傭兵らしき者、荷物を肩で担ぐ若者たちやお母さんたちや、元気な子供たちなどから、「王子さまだ!」と歓声が上がる。

乗合馬車にぎゅうぎゅうに乗った者たちは体を外に乗り出し、馬車が傾きそうになるぐらいである。

通りの騒ぎに道路脇の建物の窓が開き、黒い頭がのぞきだす。



「ジルコン王子と黒騎士たちだ!お帰りなさい!」

「アヤさまもいらっしゃる!」

「ロサンに巨漢のジムだ!」


ジルコンは余裕の表情で軽く手をあげて応えている。

騎乗の騎士たちは、凛と背を伸ばしてまっすぐ前を向いている。

途中で押し付けられた花束は、騎士たちは遠慮をしていたが、王子のすぐ前を行くロサンは、誰かに押されて歩道から転がるように前に踊り出た、明るい栗色の髪のとびっきりの美人が抱えていた早咲きのバラの花束から一輪抜き出して胸に付けた。


それを見た娘たちから悲鳴に似た黄色い声があがる。

当の娘は喜びに卒倒しそうである。


ロゼリアはその人気ぶりにビックリである。

「騎士たちは人気があるんだな!」

ジルコンはキザなロサンをみて、軽く肩をすくめた。


「わたしの騎士たちは独身者ばかりだからな!

ただちょと出かけて王都に帰ってきたのに過ぎないのに、凱旋帰国のように迎えるのは辞めてほしい。黒服の彼らを引き連れていると目立ちすぎて困る。早く落ち着いてもらわないと、うるさくてしょうがない」

「10日ぶりです!お姿を拝見できなくて寂しかったです!!」

沿道から娘の必死な声がかかる。

そのジルコン王子は差し出される色とりどりの花の道を、一本も受け取らずに行く。

受け取ってもらえなくても娘たちは無邪気な笑顔だ。


「金髪のハンサムさん、あなたにもあげるわ!」


そばかすをちらした娘がロゼリアに花束を投げて寄越した。

だがほんの少し届かない。

思わず、片手で掬い上げるようにして受け取ってしまった。


「ありがとう!」

ロゼリアは笑顔を返すと、それはそれでキャーと、歓声が上がる。

ロゼリアも王子に馬を並べていることで、王子の友人の誰か身分のあるものに違いないと注目を浴びてしまっている。


「騎士さま、お名前を教えてください!!」

花束を受け取ってもらえた娘が人混を掻き分け、ぶつかりながらも必死に並走する。

名前を聞き出すまで、諦めなさそうな迫力だった。


「アデールのアンジュだ!」

ロゼリアは歓声に負けぬように大きな声で叫んだのである。



王城に入ると城下の喧騒と切り離され、静かに落ち着いている。

城門をくぐるときに下馬したその馬は馬番が後を引き継いだ。

背後の森の存在のせいか、王城に森の湿度を含み、冷やされた空気が流れ込む。


夏も涼しく快適な、巨大で荘厳なエールの王城であった。

王城内ですれ違う、女官や文官たちは道を避けてお帰りなさいと声を掛け、頭を下げる。

ジルコンたちはまっすぐに王の間にいく。

王の間には、靴音を吸収する赤い絨毯が隙間なく敷き詰められている。

この鮮やかな赤はアデールの赤だった。

これだけの量の赤を染めるとなると、一体どれぐらいの赤の染料を必要としたのかと思う。

アデールの赤は、黄金と等しい価値があるといわれるのだ。

さらに高い天井には、芸術家が描いたのだろう人と神との交流を描く宗教が描かれている。

エール国の建国神話かもしれない。

アデールにも同様の建国神話はいろいろなところにモチーフで現れてくる。



     

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