第10話 冒険者ギルド

 修道院の部屋で十分に休養が取れた。

 今日は何をするかと言えば、お約束通りギルド登録に決まっている。

 この街の新参者として生活していくにもお金は要る。

 職人でも商人でもない者が、すぐに収入に直結出来るのは、何かを採って来て売るか、害獣退治や魔獣退治で賞金を稼ぐ位だろうか、そのために様々な依頼を一手に引き受け、業者を派遣する組織がある。


 その組織の名称が『冒険者ギルド』

 冒険者派遣業者登録をして依頼を受ける。

 依頼を達成出来れば、報酬を受け取る事ができる。

 日雇い労働者向けの仕事斡旋所のような所に似てるのかも。


 だから基本的に誰でも冒険者登録が出来るし、収入を得ることが出来る。

 そんな理由で食い詰め者や、正規の職業に就かない者が冒険者になる。

 当然、冒険者なんて有象無象の連中だから、職業のヒエラルキーじゃ底辺に見られている。


 しかし、仕事次第じゃ一攫千金も夢じゃない可能性がある。

 そんなロマンに惹かれ、冒険者に憧れる者も結構いるようだ。

 命の危険は付き纏うけど、実力を認められた冒険者は、王侯貴族に雇われる道だって開かれるから、あながち悪い話でもなさそうだ。


 そして今の俺に出来そうな事は、冒険者になるしかないという事になる。

 だからまず、冒険者登録をするためにギルドを訪れる事に。




「シスター、冒険者ギルドって何処にあるんですか?」

「冒険者ギルドですか、私はあまり街中に行かないので詳しくは無いのですが、 こういう絵の看板が出ているそうですよ」


 修道女は木板に絵を描いてくれた。


「ありがとう御座います」


 俺は木板に描かれた絵と同じ看板を探す。

 大通りにあるのを比較的簡単に見つける事が出来た。

 ギルドに入り、登録の為にカウンターに向う。


「冒険者登録をしたいんですが」

「冒険者登録ですね、いくつか質問をしますので答えて下さい」


 文盲率が高いのか、カウンターの女性が登録に必要な事項を質問し、俺が答えると書き込んでいく。


【名前】ラーデル

【性別】男性

【出身地】ポルダ村

【冒険者等級】銅ランクFレベル


 必要事項はそれだけだった、明日登録証を兼ねたタグをもらえるらしい。

 依頼を受ける時や成功報酬を受け取る時に、本人確認のためタグの提示をしなければならないとか。


 ……けっこうアバウトだね。


 街の子供も家計を助けるために、冒険者登録をする事が多いらしい。

 だから俺を奇妙な目で見る者はいないし、登録もスムーズにいった。


 冒険者は個人事業主のようなものだから、装備など何処かが貸与してくれる事は無い。

 さすがに丸腰じゃ仕事にならないから、装備を買いに行く。

 俺は駆け出し冒険者だから、最高の装備まではしなくて良いだろう。


 それなりの剣、心臓を護るための革の胸当て、厚手で丈夫な布の服、

 革のハーフブーツ、ナイフと水筒、1~2個の傷薬、小物を入れるポーチ。

 取敢えずは、そんなものかな。





 冒険者ギルド内には出入りの業者がいないから、町に買出しに行く。

 当座の資金は結構あるから、買い物に困る事はないだろう。

 俺は武器屋、防具屋、服屋、雑貨屋、薬屋を巡り、装備を揃えていった。

 あちこち歩き回ったせいか、多少街の地理が解ってくる。


「うん、これで立派な駆け出し冒険者だな」


 この日、後は食事をして修道院に帰るだけだ。

 食事は昨日食べさせてくれた宿屋に行く事にしよう。





「おや、あんた立派に冒険者になれたんだねぇ、

 冒険者の等級が上がったらうち贔屓ひいきにしておくれよ」


 宿の女将さんは愛想を言う。

 冒険者なんて誰だってなれるって。

 どうやら未成年でも、実績があれば宿に泊まれるようだ。

 俺が金を持っている事を知っている女将さんは、昨日よりは良い食事を出してくれる。


「顔見知りになったんだ、あんたの名前教えてくれるかい?」

「ラーデルです」

「ラーデル君ね、冒険者になったご祝儀として初仕事を依頼しようかね」


 女将さんはギルドの初実績をプレゼントしてくれると言う。


「いつも市場から届けてくれる荷物があるんだけど、運んできて欲しいのさ」


 要するにお使いをすれば、ギルドに依頼と達成証明をしてくれるらしい。

 もちろん依頼料も少しだけどもらえるとか。

 冒険者ギルドには、依頼成功ポイントが少し加算される。


「わかりました、依頼受けます」


 食事料金は少しボラれたようだけど、ギルドに支払う分が加算されたのかも。

 その内半分が成功報酬として俺にキャッシュバックされる訳だ。


 お使いクエストのスタートだ。

 市場から運ぶ荷物は、食材が二箱。

 二往復するか、荷車を借りる事が出来るらしい。

 持久力は乏しくても、力があるから二往復する方を選んだ。


「おつかれさん」


 宿の女将さんは俺と一緒に冒険者ギルドへ行って、手続きしてくれた。

 俺へのキャッシュバックは銅貨一枚、明日タグと一緒に受け取れる。

 本当にお使いのお駄賃だ。

 しかし依頼成功ポイントが付いたのは嬉しい体験だった。

 親切にされたんだから、女将さんの宿を贔屓にしなくちゃいけないな。


「初依頼達成おめでとう、これからも頑張ってね」


 受付のお姉さんも応援してくれる。

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