第37話 活動! その3

「岸辺さん、これ、どうぞ」


「ありがとう、沢藤君♪」


 俺は買ってきた飲み物を岸辺さんに渡し、自分用の飲み物のペットボトルのふたを開け、勢いよく喉へと流し込む。


「はぁ、助かったぁ」


「あはは。なんかヘトヘトの沢藤君見てるとさ、体験入部の日を思い出しちゃうね」


「あれは苦い思い出です」


「ねぇ一つ聞いてもいいかな?」


「なんでしょう?」


「沢藤君はさ、どうして運動部に入ろうと思ったの?」


「そりゃあ、だって……彼女が欲しいからに決まってるじゃないですか」


「え、ええっ! 彼女!? 沢藤君が?」


「だって、モテる男はスポーツマン多いじゃないですか。仮にレギュラーとか取れなくても、頑張ってれば女子との接点もあるかなぁ~なんて思ってて」


「なんか意外。沢藤君はお姉さんもいるし、女性は特に困ってないと思ってた」


「こう見えてもけっこう寂しい時もあるんですよ」


「むぅ、それは聞き捨てならないなぁ。超絶セクシーキュートガールを目の前にして……私に決めちゃえばいいじゃん」


「性癖に難ありなので、それはちょっと」


「うっ、日本刀並みのキレ味……」


「いや、その……岸辺さんや夏帆姉は友人としてはすごく良いんですが、なんというかこう、恋人にするとなると、なんかこう違う感じがするんですよね」


「どう違うのよ~」


 少しムッとした表情の岸辺さん。


「それは自分でもわかりかねてますが……やはり普通とかけ離れている点ですかねぇ」


「普通ねぇ~。まぁ、いいよ。壁は高ければ高いほど登りがいがあるし。いずれ振りむかせてあげる。こう見えても、クライミングだって少しやってたんだから」


「ははは……」


「しかし、お姉さんは一体なにしてるのよ。沢藤君がこんなになるまでに働かせちゃって」


「まぁ、マイペースな人ですから」


 ふと俺はベンチ横に咲いている花を見つける。それを何気なしに摘み、横で夏帆姉に苛立っている岸辺さんの髪に飾ってみる。


「な、なに?」


「そんなに怒ってちゃ、美しさが半減しちゃいますよ……なんちゃって」


 なんというか、ちょっとしたイタズラ心のつもりだった。


「……」


 なんだか俺をボーっとまっすぐに見つめる岸辺さん。ちょっと反応を試し見るつもりだったのに、思いのほかマズったかも。そういえば、小学校の頃、これを試した同級生(女子)はめちゃくちゃ気味悪がってたなぁ。


「ちょっと、キュンとしちゃったかも……」


「え……」


 あ、あれ? 思いのほか好感触なの、これ?


「す、すいません。ちょっとした悪ふざけのつもりだったんですけど……」


「ううん、嬉しい」


 岸辺さんがそっと俺の腕に抱きつく。


「ちょ、ちょっと岸辺さん!?」


「沢藤君の嘘つき。もう、そういうところだよ……女の子をときめかせちゃうの」


 そ、そうなのだろうか……?


「私、沢藤君好みの普通の子になれるよう努力するね」


「は、はぁ……」


 しばし気まずい時が流れたのであった。成功するにしても失敗するにしても、こういうのはあまり遊びでやるべきではないなぁと、己をいましめる俺であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る