第41話 気のない元カノ
二人は、駅地下にあるコーヒーチェーン店に入り、二人用の席に向かい合って座っている。
琢磨がアイスコーヒー。沙也加はアイスティーを注文して、それぞれ腰かける。
「杉本は、今何の仕事してるの?」
「まあ普通にインターネットの回線の営業だよ」
「へぇー。なんかめっちゃつまらなさそう」
「ま、まあな……」
本当に興味が無いようで、つまらなさそうな反応を返す沙也加。
琢磨は場を誤魔化すようにしてストローでアイスコーヒーを飲む。
沙也加は琢磨に興味なさそうにして脚を組みながら、スマートフォンを操作している。
久々に元カレ再開したというのに、今の琢磨には全く興味を示していないことが受け取れた。
「それで、その仕事が杉本の今やりたい仕事なの?」
スマートフォンから視線を琢磨に向けて、試すような視線を向けてくる沙也加。
「えっ? あっ、いやっ、それは……」
琢磨は口ごもってしまう。
それはそうだ。
先ほどまで、自分の将来について友人に相談していたところなのに、今の仕事が琢磨にとってやりたいことかどうかなんてわからない。
琢磨の様子を見て悟ったのか、沙也加は呆れたようなため息を吐いた。
「あんたも相変わらずだよね」
「……」
何も言返せなかった。そんな自分が情けなくて仕方ない。
「昔から何も変わってないね。自分の夢を追いかけてるのに、すぐに違うって気づいたら、最後は他人に依存して自分を見失う」
「……」
「結局、今の会社で働いてるもの、気になってる女性がいるとかそういう感じなんでしょ? 自分のやりがいなんて関係なしに、その人のために働く」
「……」
その通りで何も言えない。
彼女は、周りから見れば女優を目指している一人の若者。
会社にも所属せず、アルバイトで生計を立てながら一人夢に向かって輝いている。
けれど、彼女はそれを苦だとも思わずに人生を謳歌していた。
自分の夢に向かって、やりたいことをやるために、どんな苦難でも乗り越えてやろうという熱意を彼女からはいつも感じる。
「今も、まだ続けてるのか?」
少し気になって沙也加に尋ねてみた。
沙也加は少し眉間にしわを寄せたが、一つ息を吐いて答えた。
「当たり前でしょ。私は安定とかいらないの。自分の好きなことができればそれでいい」
「そうか……」
やっぱり彼女の信念は強かった。
折れることのない金属バットのように固く、意思が強い。
それに比べて琢磨はどうだろうか?
少しでもくじけそうになると、簡単にへし折れるボロボロの木製バットの方に脆くて、簡単に砕けてしまう。
それどころか、バットに巻き付けるグリップのように、他の人に依存する。
そんな弱い意志で、将来の夢など語る資格はない。
俯いて落ち込んでいると、不意に沙也加が椅子を引く。
「付き合ってくれてありがと。私、そろそろ連れ来るから行くね」
「お、おう……わかった」
沙也加はハンドバッグを肩にかけて、残っているアイスティーの紙カップを手に持ち、席を立つ。
踵を返して、沙也加は去っていこうとするが、不意に立ち止まり、ちらりと琢磨を見つめた。
「杉本も早く、自分の新しい夢見つけなよ。それじゃ」
そう言い残して、今度こそ沙也加は去っていった。
嵐のように去っていった元カノ。
琢磨は残された席で、一人背中を丸くしてため息を吐いた。
「早く、夢を見つけろか……」
今の自分に、そう簡単にできるだろうか?
自分の目標を飄々と翻して、他人に依存してしまうというのに、自信をもってこれがやりたいと言えることがそう簡単に見つけられるとは、琢磨自身難しいと思った。
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