第41話:教団の関係者
先ほどの辛勝により、自分たちが生きていることを実感した真白たちだったが、今は疲労感、そして悲壮感に溢れていた。
その理由はもちろん、戦闘による疲労とそして相良を失ったことによるものだ。彼は真白たちを守るために前に立ち、その身を呈してくれたのだ。
ましてや彼らは魔術が使えるとはいえ、まだ二十歳にも満たない年齢だ。
少しの間だったとはいえ、お世話になった人の死に少なからずショックを受けるのは当然のことだった。
喪失感が漂うこの雰囲気の中、リーダーでもある凛は、自分がしっかりしなければと我に返り声をかけた。
「このことは私から、支部長に報告しよう。みなも疲労感があるだろうが、あたりを少し調査して支部に戻ろう」
無言で頷き、立ち上がる真白たち。
今回のオウムの一件は、明らかに教団が絡んでいると言っていい。真白たちや凛たちの対峙したオウムの話をまとめるとどれも特殊と言っていいほどの相手だった。
誰かが意図的に、あるいは作為的にオウムに干渉しているとしか思えなかった。
「結局、これを仕掛けた教団の関係者って誰だったんすかね......」
「分からない。まだ、潜んでいるかもしれない。警戒を怠るな......と言いたいところだが、今はここにいるメンバー以外の気配を感じない。関係者についてはおいおい考えることにしよう。今日は、犠牲があったとはいえ、上位種を3体も倒したんだ。成果としてはそれで十分だろう」
疲れ混じりに悠馬の問いに答える凛。
いつもクールな会長でもやはりこんな弱り切った姿も見せるんだなと悠馬は心の中で思った。
真白は凛からの指示のもと、重い腰をあげると相良の遺品が少しでもないか探すため、分断されたオウムの元へ駆け寄った。
だが、そこには残酷な現実が待ち受けているだけだった。
「っ......!」
相良の遺品を見つけることはできず、視界に入ったのはオウムの口から伸びる牙に引っかかっていた、ひらひらと風に靡いている彼の来ていたスーツの切れ端。
それを見て、彼女は死がどういうものなのかを思い出し、涙が出そうになった。
「大丈夫かい?真白?」
光輝が真白に近づき、慰める。そんな様子をなんともいえない表情で見ている深春がいた。
彼女も協会の使者である相良が亡くなったことはショックではあったが、今日初めて会った上に誰よりも付き合いが浅かった。ゆえにそこまでの感情を引き出せずにいた。
そんな彼女は、オウムを倒してから光輝をずっと視線で追っていた。そのため、彼女は真白に近寄った光輝、真白。そして側で朽ち果てている死体になったオウム全体を俯瞰して見ることができていた。
そこに違和感が生じる。オウムの死体が残っている?
オウムは倒せば、粒子となり消えていくはずだ。
つまり......あのオウムはまだ生きている!?
「こうちゃん!!いますぐそいつから離れて!!!」
光輝と真白にその声が届く頃には既に二人は後ろからの大きな圧力に吹き飛ばされていた。
「な、なんだこれは!?」
「なにが起こってるんですか!?」
先ほどまで死体だったそれは、突然、雷鳴の如く光り輝き真白と光輝を吹き飛ばすと徐々に収束していった。
光は収束すると人の形へと変化した。
凛たちはあまりの眩しさに顔を腕で覆っていたが、収まっていった光の先にあるその正体を見極めようとどうにか目を凝らした。
「な!?」
「え......?」
そしてその瞳には信じられないものが映っていた。
「さ......が...らさん?」
目の前にいる人物は誰がみても、先ほどまで自分たちと一緒にオウムと戦っていた、相良さんだ。凛は目の前の光景を未だ、処理できずにいる。
しかし、顔は相良でもその姿形はまるでオウムのように白い肌で覆われている。
「ふふふ、協会の連中も思ったよりやるものですねぇ。まさか、私が作り上げた三体が負けてしまうとは。いやはや、保険を掛けておいてよかったというものです」
「な、何を言っているんですか?あなたは一体.......?」
凛たちは突拍子もなく変わってしまった様子の相良に困惑していた。
「はあ。察しが悪いですねぇ。これだからケツの青いガキは嫌いなんですよお。いいですか?あなた達は見事に罠にハマったんですよ。私があなた達を皆殺しにするための罠にね」
彼から聞こえてくるのはどれも普段聴いていた温厚なものとは真逆の殺気のこもった言葉だった。
「じゃあ!さ、相良さんが教団の関係者だったんですか!?それにその姿は......?」
「正解ですよ。いのりさん。そしてこの姿は私が用意したオウムを取り込んだ姿ですよ。オウムとの融合により私は、奴らが住んでいると言われる外の世界の力に干渉できるようになったのです。それにより特急魔術師以上の力を手に入れたのですよ。では正解したご褒美にまず、あなたから殺してあげますよ」
「なっ!」
相良はそう言うとゆっくりといのりの方に向かって歩を進める。
凛達は相良から発せられる尋常でない濃厚な殺気により、その場で動けなくなっていた。
「に、逃げろ!いのり!」
「うぁ......」
どうにか声を搾り出すことのできた凛の叫びも虚しく、いのりはその場から一歩も動けずにいる。
そして悪魔が目の前まで迫る。
「や、やめろおおおおお!」
だが、殺気にくらんでいた悠馬がどうにか殺気を振り切り、相良に自らの武器である大剣を振りかざした。
「だめですよお。悠馬くん。君は後でちゃんと殺してあげますからね?」
「がっ!」
本当であればその一撃は相良の肉を引きちぎり、一刀両断していたはずだったが、その一撃は相良の左手によっていとも容易く受け止められていた。
そして受け止められた方とは反対の手で悠馬の腹に一発。
まるで打ち返された野球ボールのように跳ね飛ばされた悠馬は大剣を手放し、木を三本へし折ったところでその場に留まった。
そしてその間にも悠馬の奮闘により、凛と誠、深春もどうにか殺気を振り切り、背後から相良に襲いかかる。
しかし、相良はその3人の奇襲でさえもまるで意にも介さず、最低限の動作で攻撃を避け、それぞれに一撃をお見舞いした。誠はその一撃により気を失ってしまった。凛と深春に関してはどうにか意識を保つことができた。
「みなさん、後でゆっくり殺してあげるのにどうしてそんなに急いで殺されにくるんですかねぇ?あなたもですよ?光輝くん」
いつの間にか相良に迫っていた光輝が解放した神器の光の一太刀を相良に浴びせる。
相良はその動きを読んでいたようで大きな光を両手で受け止めようとした。
「くっ!ふふ、この程度ですか?」
「なっ!?」
まさか両手で簡単に受け止められるとは思っていなかった光輝は目を見開いた。そして余裕を見せる相良。チリチリと刀とそれを受け止める手の間から魔力衝突による音が鳴る。
光輝の神器の力は確かに強力であるが、今の相良には受け止めきれないこともない。相良はまともに食らわなければ大丈夫だと油断していた。
しかしそこに全く別方向からの追撃が迫る。
光輝と一緒に吹き飛ばされた真白が魔力で作り上げた3本の矢を放ち、見事相良の腕を射抜いたのだ。
「ぐっ!真白さんですか!」
「はあああああ!」
腕の力が弱まったと感じた光輝は最後の力を振り絞り、全力を込めた。
「ぐおおおおお!バカな!?まさかこれほどとは......」
「はっ!」
腕にダメージを負ったことによりバランスを崩した相良は光輝から向けられる光の波動に包み込まれ、吹き飛ばされていった。
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