第20話:彼の誤解

昼休み、私は、会長といのりちゃんと三人で生徒会室でご飯と食べていた。

軽く世間話をした後、私は会長に生徒手帳のことと昨日、発生したオウムのことを聞こうとしていた。


昨日、会長は手帳をどこかへ落とした。そしてその中に魔術協会のカードを入れていたことが原因で支部長に説教されていた。その辺のドタバタがあり、なんとオウムの発生に気づかず、対応が遅れてしまった。魔術師としてあるまじき失態だ。

しかし、発生したオウムの反応は私たちが気づいて現場に向かった時には既に消失していた。しかも二件とも。現場に残されていたのは、ひび割れた地面や砕けた塀だけだった。


「会長、それで結局、手帳はどうしたんですか?」


私が聞きたかったことをいのりちゃんが聞いてくれた。


「ああ、学校中を全て探し回ったんだがね...。もしかしたら誰かが既に拾ってしまったのかもしれない...。」


「ええ、それじゃあまだ見つかっていないんですか?それに昨日のことだって...。」


やっぱり見つかってなかったようだ。その事もあるし、昨日のことも話し合わなければならない。


「ああ、本当にすまない。昨日ことはまた放課後、皆が集まった時に話そうと思う。対処が遅れたのは間違い無く私のせいだ。」


「そんなことないですよ!支部長があそこまで怒っていなければ大丈夫だったはずです!」


コンコン。

いのりちゃんが会長をフォローしたところで、ノックの音が聞こえた。

まずい、今の会話を聞かれてなかったかな。聞かれたところで核心をついた内容は言ってないので大丈夫だと思うけど...。

それにしても昼休みに生徒会に誰が何の用なのかな。


「失礼します。」


開けられたそのドアの向こうにいたのは、この間私が振った、三波君だった。


「三波君!?」


まさか三波君だとは思わずに、彼の登場に焦って名前を呼んでしまった。


「や、やあ。こんにちは、高崎さん。」


「き、君は...この前の!君が三波君だったか。」


そして会長はその後、続け様に先ほどの会話を外から聞いていたのか確認した。

どうやら彼は聞いていたようではあるが、話の内容は理解していないようだった。

よかった、と一息ついたのも束の間。彼がここへ来た目的は、生徒会長の手帳だった。

私たち三人に緊張が走る。


「な、中身は見たのか...?」


「...い、いえ、その...。」


ああ、最悪だ。この反応はきっと見たに違いない。

魔術師の存在を知ってしまっては、彼の記憶を消さないといけない。そういう規定になっている。


すると会長に詰められた彼は、会長を連れて出て行ってしまった。

私たちの視線が耐えられなかったのだろうか。確かに私と彼は振った、振られたの関係だ。視線が気になるのも仕方ないのかもしれない。




しばらくすると話を終えたのか会長が戻って来た。

大丈夫だったのかな。彼の記憶は消さなくてもよさそうかな。その心配ばかりが募っていた。


「会長!結局、三波君は大丈夫だったんですか?」


「いや、その...。私は彼に完璧に誤解されてしまったかもしれない...。」


誤解?会長が心なしか元気がないように見える。何かショックなことでも言われたのかな。そうだとしたら私は少し三波君を軽蔑してしまうかもしれない。


「それで会長は何を言われたんですか?」


可愛らしい声でいのりちゃんが尋ねなおした。


「彼は、その私のことを、ちゅうに?と言っていた。ちょっと意味はわからないのだがなんだが言ってはいけないことを言ったような顔をしてたのでな...。少し気になってしまって...。」


え?それって!?


「あっははははっははははは!」


いのりちゃんが爆笑している。こんなに笑ういのりちゃんは初めて見たかもしれない。それにしても会長が三波君に厨二って思われて...。


「ぷっ!ふふ。」


だ、だめだ。笑っちゃダメだ。堪えるんだ...。


「い、いのりちゃんそんなに笑ったら...ふふふ。」


「な、なんだ!?何を笑ってるんだ!?何がそんなにおかしいんだ!?」


会長は意味も分からず、笑う私たちににじり寄ってくる。

頭に未だにハテナを浮かべている会長に、私といのりちゃんから説明を行う。


「な、なんてことだ...。なんでそうなる!?私は...。」


会長は顔を真っ赤にしながら、半べそをかいている。

こんな会長を見るのも珍しい。少しかわいい。


「でもよかったじゃないですか。勘違いされてる方が好都合ですよ、厨二病の会長!」


い、いのりちゃん。それ以上いじったら...。


「うわあああああああああああん。」


ついに泣き出してしまった。

滅多に泣かない会長だが、私の前以外でこうなる会長を見るのは、いのりちゃんが初めてかもしれない。

そして珍しいからこそ、こうなると泣き止むまでが長い。


その後どうにか会長を慰めた後、各自教室へ戻った。


戻る最後までいのりちゃんは会長のことをいじっていた。


「これからは三波先輩の前では厨二を演じなくてはいけないですね!ふっ、私の右目が疼くぜ!」


まるで水を得た魚のようだった。

会長はもちろん泣いた。

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