第35話 破滅への協奏曲
ピッチに立った瞬間、選手たちは感じていた。
“これは、普段の試合とは違う。”
レアル・マドリーノ。
その白のユニフォームは、ただの布ではない。
威圧、歴史、敬意、そして呪い。
選手紹介が終わっても、
スタジアム全体に漂うのは「希望」ではなかった。
むしろ「耐える覚悟」だった。
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〜ヨハンの奇策 〜
フォーメーションは4-3-3だが、
その実態は明らかに“5-2-3への可変型”だった。
•今回DF経験もあるボランチのデュシャンが守備時には極端に下がり、3CB化
• アンカーのカルロスがボールを持った瞬間、
中村とリューラは“ダミーラン”でライン間を引き裂く
そして最大の策がこの「罠」だった:
ボールを縦に入れるチャレンジ。
それは最大の攻めであり
万が一通らなかった場合でも
罠を張ったのであった。
中盤で一度、スペースへ“投げ込むような”縦パス。
そのカットをレアルが狙った瞬間――
前がかりの彼らの中盤3枚のうち、2枚が置き去りになる構造。
ヨハンが描いたのは
奪われた瞬間に取り返す“二重トランジション”だった。
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〜前半20分 〜
レアルは当然のようにゲームを支配していた。
中盤でボールを受けるナビル・フェルナンデス。
彼が左足で打ったロブは正確無比。
一気に右サイドのバルダーノへ渡る。
だが、ここでレガレスの「準備」が発動する。
• ボランチのデュシャンが前倒しでスライド
• センターのマルクがタックル
• 跳ね返ったボールをリューラがワンタッチで中村へ
「切り替えだ!」
その声とともに、中村が一気に前へ運ぶ。
ヴィセンテがライン間をスプリントし、左足のクロス。
飛び込んだのはリューラだったが、
最後はロドリゴ・ブランコが身体を投げ出した。
惜しい。
だが、狙いは合っている。
⸻
ここまでバルダーノは静かであった。
派手なプレーやスピード、ドリブルに注目されがちだが、
彼はワンタッチのゴールも得意であり
ここぞいう所でストライカーの嗅覚とも呼べるようなポジション取りの上手さも彼の持ち味の一つでもある。
33分。
レアルのカウンター。
中央のダンテが中村から奪い返した瞬間――
バルダーノは“停止”していた。
ライン際で完全にマークを外し、手を上げる。
「来るぞ――!」
誰よりも先に気付いたのはSBの内川だった。
だが、パスは完璧だった。
SBロペスがハーフラインを越えたところまで上がっていて、彼へ渡るとアウトにかけたスルーパス。
まるで水面を滑るようなスピードと軌道。
バルダーノ、トラップ1回、そして右足。
0-1
内川は振り返りながら、苦笑いを浮かべた。
「わかってたのにな…」
⸻
中盤での静かなる争いも
この試合の見ものであった。
中村とナビル。
2人の司令塔は明らかに“対話”をしていた。
ナビルは、あえて中村にプレスに行かない。
逆に中村は、ナビルに“何度も”パスコースを与える。
まるで互いに
“その先”のプレーを見せろとでも言うかのように。
「……相手の方が一歩分早い。」
中村は試合中、何度もそうつぶやいていた。
ナビルのワンタッチ目が常に0.3秒先を読んでいた。
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そして後半。
58分。
ヨハンはヴィセンテを前線へ残し、前がかりにスライドする。
だが――
レアルはそれすらも“情報”に変えた。
一度、わざと左サイドで数的同数を演出。
そこにアドリアン・ロペスが下がりながら顔を出す。
対応するのはマルク。
だが――
ロペスは“4秒間だけ”消えた。
急停止からの斜めの飛び出し。
ナビルのヒールパスが通り、ロペスのクロス。
0-2
決めたのは再びバルダーノだった。
⸻
このままやられたままではと
レガレスも牙を向く。
84分。
ヴィセンテの左足クロスに中村が飛び込む。
逆サイドに走ったリューラがフリック。
「行け!」
ニコラスが左足を振り抜いたが、
ここで立ちはだかったのはアルマンド・リコ。
そのセーブは、絶望の音だった。
⸻
試合終了。
点差は2点差だが
内容はもっと差を感じさせるものであった。
マリオ・カサールは試合終了のホイッスルと同時に立ち上がった。
「いくつか見えたな。
ヨハンはまた同じ過ちは踏まないだろう。しかしこのチームの限界も見えたな。」
隣の男が尋ねる。
「戦術だけでなくチーム力や資本の差だろ?」
マリオは一言。
「フットボールに愛されてるかだ。」
⸻
ヨハンは大きな溜息をついた。
「狙いは悪くなかった。
だが、彼らは“こちらの狙い”すら利用してきた」
試合後のミーティングでヨハンはそう語ると、
ボードの「遷移罠」の文字を静かに消した。
「次の策が要る。
彼らは“勝つこと”を仕事にしていた。」
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