第二十四話 狩り勝負
「……それで、騎士団が『冒険者のキリハさん』に対して決闘を申し込んできた、と?」
「そうなんだよ、ササラちゃん。騎士団と冒険者で、モンスターの討伐数を競い合おうってな」
王都冒険者ギルドの受け付け。
猫耳獣人受付嬢のササラに、冒険者スタイルのキリハが困ったもんだと肩をすくめた。
「あたしにあっさり負けたことでますます引っ込みがつかなくなったらしい。かといって改めて決闘を吹っ掛けるのはみっともないから、冒険者って大きな括りにしてギャフンと言わせようって魂胆だね」
「……ただでさえ冒険者と騎士団の関係がギスギスしてギルド職員は大変な思いをしているのに、あなたって人は……」
「あたしは被害者なんだけどね?」
「トラブルメイカーに被害者ぶる権利はありません!」
ササラはカウンターをばんばんと叩いてキリハを睨む。
すると、キリハのすぐ隣に立っているジェラルドが、うんうんと勢いよく頷いた。
「分かります。トラブルメイカーはトラブルが寄ってくるのだから自分には責任がないって顔をします。けど、トラブルを大事にするのは常にトラブルメイカーです」
「分かってくれますか、執事さん……」
「ええ、分かりますとも、受け付けさん……」
ジェラルドとササラががっしりと手を握り締めあった。
「ここ最近は騎士団側の嫌味がすごくて……なんどこの仕事辞めてやると思ったことか……!」
冒険者と騎士団は魔物の討伐で問題を起こしがちで、ギルドの職員はそれらの問題を冒険者の代理として解決に導くのも仕事の一つだ。
だがササラの鬱憤ぶりから察するに、最近はいろいろと無理難題が伸し掛かってきていたようだ。
「いろいろ大変みたいだねぇ」
「ええ、大変なんです。ですからこれ以上大事にしないでくださいね、キリハさん」
「そうですよ、キリハ様。お願いですから大事にしないでください」
ササラとジェラルド、二人とも最後は懇願するような口調だったが、残念ながら約束はできない。
王都冒険者ギルドには、多くの冒険者たちが詰めかけていた。ササラに頼んで、今日この時間に集まれる者は集まって欲しいと頼んでおいたのだ。
冒険者たちには、キリハの身分も周知してある。
彼らは王都冒険者ギルドに颯爽と現れた新人冒険者が公爵令嬢と知って、上手くものが噛めないような顔をしていた。
キリハは長ドスの鞘で「ドンッ!」と床を突き、集まった冒険者たちを見回す。
「――近頃、何か妙な噂が広がっているらしい。その噂で騎士団の連中がイライラしているのは皆も知ってるだろう」
冒険者たちが頷く。
騎士団は自分たちが王国を守っていると誇りを持っているし、冒険者たちは騎士団が後回しにした人々を助けているという自負がある。
噂がなくても、もともと互いに『気に入らない』といがみ合う間柄なのだ。
「騎士団の連中は、あたしに狩り勝負を挑んできた。王都の騎士団と、王都の冒険者たちとでね。けど、元々はあたしが騎士を殴り付けたのが切っ掛けだ。アンタたちが付き合う必要はない」
「何を言うんだ姫姐さん!?」
叫んだのは、魔族の冒険者だ。
「俺は姫姐さんに付き合うぞ! もともと姫姐さんは俺の代わりに騎士を殴ってくれたんだ! 姐さんが要らないって言っても着いてくからな!」
「右に同じ!」
「左に同じ!」
「……(こくこく)!」
魔族の男のパーティメンバーたちも参加を希望する。
キリハは勢い込む彼らに対し、ゆるゆると首を振った。
「気持ちは嬉しいが、アンタたちは冒険者だ。冒険者はタダで仕事をしちゃいけない。自分を安売りする真似は、絶対にしちゃあならない」
「……姫姐さん……」
「それに根本にあるのは、あたしの身分にも関係してくる。どうやらあたしが気に入らない連中がいるらしくてね。まぁ王子様に大恥掻かせたんだから無理もない。権力争いに巻き込まれるのは自由な冒険者にはご法度だ。ますますあたしを助けるのは慎むべきだ」
『…………』
魔族の男とその仲間の女性冒険者たちが泣きそうな顔になる。
冒険者は自由だが、自由だからこそ自分と仲間は独力で守らなければいけない。
冒険者たちは不満顔になりながらも頷いた。
キリハの言っていることは冒険者たちの鉄則だ。頷かざるを得ない。
「――だからね。アンタたちには報酬を払わなきゃならない。納得した報酬に命をかけるのが、冒険者って商売だからね」
キリハは冒険者たちを見回し、一際大きく『ドンッ!』と床を叩く。
「あたしが支払う報酬は、ビール一杯だ! ただのビールじゃないぞ? 偉ぶった騎士団をこてんぱんに叩きのめした後の最高にうまいビールだ! それで良ければ、あたしに手を貸してくれ!!」
『……………………』
しん……とギルド内が静まり返った。
一瞬後、ギルド内で笑い声が爆発した。
「そりゃいい! 最高のご褒美だ!」
「そんな報酬を用意されちゃ、参加しないわけにはいかねぇな!」
「俺はやるぞ! スカした騎士団にはいい加減頭にきてたんだ!」
「私もよ! あんなタマ無しどもに馬鹿にされて黙ってられないわ!」
「オレも!」
「ワタシも!」
ベテランも、新人も、冒険者という冒険者が参加の声を上げる。
キリハがにやりと笑うと、彼らもニヤリと笑い返した。
「馬鹿どもが! アンタたちは本当に馬鹿だな!」
『応よ!』
「ビール一杯で命を賭ける馬鹿どもだ!」
『応よ!!』
「よし、馬鹿ども! 命を捨てに行くぞ!」
『おおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ――――ぉぉおおおっっ!!!』
荒くれ者の冒険者たちが、まるで子供のように無邪気に吠える。
自由を信条にし、自分の身は自分で守らねばならない無頼だからこそ、彼らは本能的に頼り甲斐のある存在を求めている。そして何より、自分たちに生き甲斐を与えてくれる存在を求めている。
キリハには、荒くれ者たちが『一緒に馬鹿をやりたい』と思わせる不思議な魅力があった。
狂喜乱舞する冒険者たちを眺めて頷くと、キリハは受付カウンターへ戻った。
ジェラルドとササラが、キリハに煽られて気炎を上げる冒険者たちを見て、この世の終わりみたいな顔をしている。
「……大事にしないでって言ったじゃないですか!?」
「程々に負ければ騎士団も矛を収めるのに、煽ってどうするんですか!?」
「荒くれ家業は舐められたら終わりなんだよ。売られた喧嘩を倍値で買う覚悟がなくて自由に生きれるもんか。そうだろう、お前ら!?」
『おおおおおぉぉおおおおおおおっっ!!』
冒険者たちは拳を振り上げて雄叫びを上げる。
ギルドを満たす興奮は、いつまでも冷めやらぬことがなさそうだった。
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