第99話 本が完成したぜ!
俺達はショーウインドウの中に並べられたスーパーカーを目の当たりにしながら、実際の営業内容に関しての打ち合わせに入った。
一応香織が社長の会社の事業として取り組むから、俺と香織が話して決めて置いた事を香織がみんなに伝える形だな。
「まず大前提にあるのは、利益を追求するための商売では無いという事です」
その発言に、遠藤さんが質問をしてきた。
「赤字でも構わないと言う事ですか?」
「ぶっちゃけて言えば、そうですね。赤字でも従業員の方の年収は、保証させて頂きますし、もし黒字営業になれば利益の半額は授業員の方に還元しますよ?」
「それでは、このレンタカーショップの目的と言うのは何処にあるのでしょうか?」
「オーナーが色々な車に乗って見たいけど、どうせ一度に一台しか運転できないし、それなら乗らない車は貸してしまおう! って言う単純な発想です。良い車に乗って見たいけど買うまではちょっとな? って言う方は潜在的には結構多いと思うんですよね。そんな方に、本物と触れ合う機会を提供してあげたいと言うのもあります。維持する事が到底不可能な方々に対してまで、サービスしてしまうと言う発想ではありません」
「具体的には?」
「大手クレジット会社の、ゴールドカード以上の所持者で、支払いもカードでの利用に限定させて頂きます」
「それであれば、信用的には十分だと判断できますね」
「レンタル料金の設定などは、すべて実務を担当される鮎川さんと遠藤さんにお任せしますので、その辺りで内容を詰めて下さい」
「解りました。やりがいはありそうですね」
そんな感じで、緩い取り決めの中でレンタカーショップも動き始めた。
青木や木村さんが顧客満足度という観点で、上質なサービスの提供と言う部分でも話をしてくれて、ショールームで働く女性スタッフに関しても、木村さんがイベントコンパニオンをしていた時の知り合いを紹介してくれる事になった。
「俊樹兄ちゃん? コンパニオン出身者の人とか来ちゃったら、家にいる時間よりこっちに来てる時間の方が長くなったりしないよね?」
「きっと大丈夫だよ」
「香織さん。私がちゃんと見張っててあげるから安心して」
「お願いしますね、鮎川さん」
◇◆◇◆
その日の夜、夕食後に香織と話していた。
「俊樹兄ちゃん、いよいよ明日は東京だね」
「ああ、ちょっと緊張して来たな。晃子がどんな話振って来るかドキドキするぜ」
「なんだか台本通りには行かないドラマティックな展開も私的には有りかな? とか思ってるんだけどね?」
「それ怖いな……例えばどんなパターンが考えられるんだ? 心の準備として聞かせてくれよ」
「それは私は晃子さんじゃ無いから解らないけど、元旦那くらいは言うかもしれないよね」
「そっか、でもそれなら別に作り話でも無いし、甘んじて受け入れよう」
「結構メンタル強いよね、俊樹兄ちゃん」
「飛鳥だっているし、非難するような対談にならないのは解るからな」
「そっか、じゃぁ明日は朝早いし、俊樹兄ちゃんも早く寝なよ?」
「ああ、でも新幹線で寝れるし、少し小説の書きだめや、感想の返信とかしとくよ」
◇◆◇◆
翌朝は七時台の新幹線に乗って、香織と飛鳥の三人で東京へ向かった。
飛鳥も久しぶりに今日は晃子の部屋で一泊する約束をしたらしい。
飛鳥の話では流石に娘の前では男の存在を感じさせるような行動を取った事は無いらしく、マンションに男性が訪ねてきたことなども一度も無いって言う事だった。
意外に公言してるほど自由奔放に性を楽しむと言う感じでも無いのかな? と、ちょっとだけ元嫁の貞操観念に期待をしてしまう俺だった。
いくら元とはいえ、自分の嫁だった女性が他の男に抱かれるシーンは、やっぱり想像したくないしな。
でも、俺が独身生活中に清廉潔癖な生活送ってたわけでも無いから、女性にだけそれを望むのはやっぱり、男のエゴだよな?
「パパ、今晩は私はママと二人で食事する約束してるから。香織姉ちゃんと東京の夜をしっかり楽しんで来てね」
「おう、そう言えば飛鳥、動画の事は晃子には話してるのか?」
「いや、まだだよ。だってママ勘が鋭そうだから、そんな話しちゃうと絶対ばれちゃいそうだしね」
「そうだな。久しぶりだからしっかり甘えて来いよ」
「うん。それじゃぁね」
飛鳥と別れた後は俺は出版社へ、香織はラジオ局へと向かい、夕方に合流する事にした。
「奥田さん、ようこそいらっしゃいました。丁度良かった。今日印刷所から先生の本届いてますよ」
「ええ、本当ですか。 凄い楽しみにしてました。早速見せて頂いて良いですか?」
「はい、どうぞ。まぁテネブル先生の場合はイラストもご自分ですから、目新しさが足らないかも知れないですけど、縦書きの文章で見ると随分感じが違うもんでしょ?」
「そうですね、やっぱり紙媒体で見ると、パソコン上で見るのとは全く違った感動がありますよ。なんだかやっと実感がわいて来たなぁ」
「先生、そう言えば予約が好調過ぎまして、既に三度目の増刷が掛かってますから、書店様向けの直筆サイン本を出来るだけ、たくさん用意して頂きたいので、時間があればお願いしますね」
「今日は夕方までこれと言って予定は無いので、頑張らさせて頂きます!」
「では、今日の所は目標五百部でお願いします」
「了解です」
「そう言えば国立国会図書館の納本とかって、どうなってるんですか?」
「あれは、代金の申請も含めて一括取次機関に代行して貰ってますね」
「そうなんですね、良くネットで納本するのが夢みたいに書いてる人とかいたから、気になって聞いて見ました」
「結構、初めての出版の方は同じ質問されますよ。個人出版のような場合でない限りはほぼ自分で納書する事は無いですね。納本も定価の半額で必ず買って貰えるのが闇になってて、制度を悪用する方とかが居ますから」
「それは、どんな風にですか?」
「定価が一冊十五万円とかの、内容は殆ど無くて装飾だけ立派に見えるような本を無理矢理納本して、買わせる案件が問題視されたりしますね」
「へぇ色々思いつくもんなんですね」
俺は編集室の横の応接室で大量に積み上げられた本へ必死でサインを書いた。
サインはテネブルとカタカナで書くんじゃあまりにも味気なかったので、香織にも協力して貰って、黒猫の顔っぽい簡単なイラストに、フランス語でténèbresと書き込む。結構必死で練習したから、イラスト込みで三十秒もかからずに書けるぜ!
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