第57話 香織の憂鬱
本社も決定して赤城先生とランチを食べた後に司法書士事務所まで送り届け、私は家へと戻った。
そろそろ戻ろうかな?
時刻は十四時過ぎだ。
でもさぁこの車って、俊樹兄ちゃんが乗って出歩いたりしちゃうと絶対メチャもてちゃうよね?
そうなったら私捨てられちゃうかな?
まだ付き合っても無いのに、心配するなんて私らしくないかな?
「ハー……でも心配だよね」
でもこっちを振り向かす為には、やっぱり側にいて必要と思って貰えるように頑張るしかないか! 頑張れ香織!!
◇◆◇◆
「総司爺ちゃん。あのね私は魔法適性があるんだけど、今はまだ風魔法しか使えないんだよね」
「ふむ、それは小説でも書かれているから知っておるぞ」
「総司お爺ちゃんって賢者だったんだよね?」
「うむ、そうじゃ」
「俊樹兄ちゃんをサポートするような能力って、何か良いのないのかな?」
「ほー、自分が強くなりたいとかじゃ無くて、サポートが良いのか?」
「うん! その方が絶対私に向いてると思うんだよね」
「そうか、まぁ香織がそうしたいのであれば、それも良かろうて」
「補助魔法みたいなのって、どうやったら覚えれるのかな?」
「そうじゃな、戦闘中に常にテネブルやマリアの動きを注意して、二人が動きやすいように気を使う事を心がけておれば、高確率で習得できるぞ。思いが大切じゃ」
「解ったよ。頑張ってみるね」
「期待しておるぞ」
◇◆◇◆
『俊樹兄ちゃん、戻ったよ』
『お帰り、香織ちょっと待ってくれな五分後くらいで頼む』
『解った。何だか忙しそうね』
『あーちょっとだけな』
一体何してるんだろ? と思いながら五分後に転移門をくぐると船の中にあるお風呂場の脱衣場だった。
「悪い悪いリュミエル、マリアやマリボさん達とお風呂に入ってたんだ。シャンプーで泡まみれだったから時間かかっちまった」
「なんだか幸せそうだね……」
「チュールちゃんの頭を洗ってる時にしっぽが揺れてさ、思わず飛び掛かりそうになるから結構大変だったよ」
「だんだん猫の本能が強くなってるよね? それって大丈夫なのかな? もしかして向こうの世界に戻っても人間に戻れなくなっちゃったりとかしないの?」
「え? まさか? そんな事無いよな?」
「香織はどうなんだ? 向こうでも行動が犬っぽくなったりとかしてるとか?」
「自分じゃ自覚は無いけど、どうなんだろうね? 少し総司爺ちゃんに聞いた方が良いかもしれないよ」
「そうだな」
確かに最近行動がどんどん猫っぽくなって来てる実感はあるけど、日本では流石に自覚は無いな。ちょっと痩せてきて、運動神経とかが良くなってるのは実感してるけど、それはレベルアップの影響だと思うし。
「そう言えば昨日な、香織が帰ってから大変だったんだぞ」
「何が有ったの?」
俺は香織に昨日のクラーケン騒動を説明した。
香織は心配してくれたけど、怪我をした人もマリアが治療をして実害は無かったことや、チュールちゃんの潜在能力が薬師に向いている事等を聞くと、ちょっと元気がなくなった感じがした。
「どうしたんだ? 香織」
「みんな凄いテネブルの役に立つような能力を持ってるんだなぁって、私はまだあんまり役に立ててないような気がして、ちょっとジェラっちゃったかな?」
「そんな事無いぞ、香織の能力なんて俺と同じでめっちゃチートなんだから、この先この世界での目的を見つけてクリアしようと思ったら、香織無しでは考えられないぜ」
「そうかな? 私役に立てるかな?」
「ああ、何よりも一緒に居てくれるだけで俺が嬉しいからな」
「ホント?」
その言葉でやっと普段の元気な香織に戻った気がした。
そんな話をしてると、やっとマリア達がお風呂から出て来た。
「あ、リュミエルおかえりー、ねぇ下着ってもっとあるのかな? マーブルさん達が私と同じ様な下着が欲しいんだって」
「うんあるよ! ちょっとサイズ計らせて貰ってもいいかな?」
そう言ってマリアにメジャーを渡して、マーブルさんとマリボさんのアンダーとトップを測定した。
当然俺はその様子をガン見してたけどね!
マーブルさんが75のBで、マリボさんは70のCだね。
計った数字を基にそのサイズの下着を何種類か出して、上下のセット物をみんな裸のまま色やデザインを吟味して決めてた。
マリボさんはチョットセクシーな黒を選んで、マーブルさんは紫色のを選んでた。
しっかり脳内シャッターには収めたぜ!
お風呂上りは船長が昨日のお礼にと、航海中の飲食やお風呂などの施設利用は、昨日のクラーケン退治に参加した冒険者は全員無料にしてくれる事になったので、チェダーさん達と合流して、みんなでお腹いっぱい食べた。
船室に戻るとマリアとチュールちゃんに挟まれてぐっすりと睡眠をとった。今日はリュミエルも一緒にベッドの上で寝たよ。
体勢的に俺と抱き合うような感じのポジションになったから、なんか照れ臭かったけどね。
翌朝リュミエルは妙に元気だった。
朝一から舌を出してハァハァしながら、しっぽがブルンブルン揺れてたよ。
「ねぇ俊樹兄ちゃん。ちょっと聞いても良いかな?」
「どうした香織?」
「この船の航路って大体決まった航路を通ってるんだよね?」
「確認してる訳じゃないから、はっきりとは言えないけど定期航路だから、そうだと思うぞ」
「そんな航路に、クラーケンが出るとかおかしくないのかな?」
「そう言われてみればそうだな、ちょっとマリアに頼んで確認してみるか」
俺達はマリアと共にサンチェスさんの元へ向かった。
「……と言う事で、サンチェスさんはどう思いますか?」
「そうじゃな、遠洋航路では不思議ではないが、この船の様な定期航路では確かに聞いた事がない。何か異変が起こっているのじゃ無ければよいがな、船長に少し聞いて見よう」
「そうですね、クラーケンの出現情報は全く無い訳では無いですが、ここ十年の間では起こっていないはずです。ここから二百キロメートル程離れた無人島の付近では頻繁に現れる情報があるのですが、もしかしたらその島の方で異変が起こっているのかもしれませんね」
「帰りが心配じゃな」
「クラーケンはテネブルが退治してくれたから、大丈夫ですよ」
「そうだといいんじゃがの」
昼前には『リスポール』の港に到着して、俺達は船長や船の乗員に感謝されながら下船した。
「今日中に、山脈の麓にある『ドーラ』の街まで移動して、明日は一番の難所の山越えになるからの、みんな頼むぞ」
「「「はい」」」
サンチェスさんの言葉で、商隊はドーラへ向けて進んだ。
荷物が少なければ、ドーラまでは川沿いに上る船でも行けるらしいけど、川底が浅くて、馬車クラスの荷物は無理なんだって。
相変わらず街道沿いの魔物を順調に狩りながら進み、夕方には無事に到着した。
馬車の中では、マリアとリュミエルによるお化粧講座が順調に行われてサンチェスさんの女性従者である二人は、もう普通にお化粧を施せるようになっていた。
いよいよ明日の晩には、王都へ到着する。
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