第54話 会社設立

「船酔いはつらいよ」

 そう思いながら、転移門をくぐり抜け木造のこの世界での拠点へと到着した。

 ちょっと船酔いの身体を休めつつ、この世界の事を考える。


 この世界って、本当にラノベで見るような世界のまんまだよね。

 でも、そうだとしてラノベのテンプレを作り上げて行った作家さん達って、実在するこの世界の事が少なからず知識であったのかな?


 それとも、誰かの意思で実在するような世界を、創造物だと認識させられながら無意識で表現したとか?


 どうなんだろ? 総司爺ちゃんに聞いたら答えてくれるのかな?

 まぁいいか! 一人で考えるよりは、総司お爺ちゃんに聞いてみたほうがきっと早いよね。


 ちょっと体も楽になってきたので、青い扉をくぐって地下室へと戻った。


「戻ったか香織」

「お爺ちゃんただいま。ねぇちょっと聞いてもいいかな?」


「なんじゃ?」

「お爺ちゃんもラノベ読んでるって言ってたよね」


「そうじゃな」

「この世界で出回ってる異世界の設定って、基本扉の向こうの世界に似すぎて無い?」


「ほー、気付いたか。派生的な最近のラノベは違う展開や違う世界も多いが、元になる世界は、今お主らが行っている世界で間違いはないのぅ」

「なんで?」


「最初に異世界物のラノベを流行らせたのが、わしの仲間じゃったからじゃよ」

「ちょっとお爺ちゃん、その話って俊樹兄ちゃんとか知ってるの?」


「聞かないから別に伝えて無いが、隠してる訳でも無いぞ。わしは向こうの世界に居る時に四人パーティで召喚されておったんじゃ。そやつらもわしと共にこの世界に戻ってきておる。当然それぞれにとうに寿命を迎えておるが、わしがこの部屋で実体化出来るように、あ奴らはそれぞれ、子孫の身体を依り代にして行動しておるな」

「なんかそれって凄いよね。じゃぁその人たちは百五十年も前からこの世界で力を使いながら、過ごせているの?」


「いや、力は使おうと思えば全く使えない訳ではないが、この世界には魔素が存在せぬから、魂を削りながら使う事になる。余程のことがなければ、依り代の子孫に対してアドバイスを送る程度じゃ」

「そうなんだね。私達がこの世界で面倒な事に巻き込まれる可能性はあるのかな?」


「無いとは言えんが、今の俊樹と香織であれば自力で十分乗り切れるじゃろう」

「本当?」


「まぁ手に負えないときは、わしに相談すればよい。何とかしてやる」

「絶対だよ?」


「のう、香織よ。マリアに写真を撮影させるときにもう少し扇情的な写真も撮影できんのか? マリアのお風呂の光景とかが有ればよいのう」

「このエロ爺。基本的に十八禁になりそうなのは私が削除してるから駄目だよ?」


「なんと勿体ない事を……」


 ◇◆◇◆ 


 私は土蔵から自分の部屋に戻ると、スマホで司法書士事務所を調べて電話をしてみた。

 すぐにでも時間を取れるという事だったので、まだ夕方と言うには少し早いから早速出かける事にした。


 リビングのテーブルに置いてある鍵を目にして、そう言えば新しい車届いたんだよね。

 どんなのだろ? と思いながら鍵を手にする。

 あ……これって……ポルシェのエンブレムだよね?


 一緒に置いてあった、シャッターのカギらしき物を持って倉庫ガレージに向かう。

 シャッターを開けると、真っ白に輝くポルシェ992ターボSが停まっていた。


「すごーーい。メチャカッコいいじゃん。これ幌トップって事は、オープン車なんだよね?」


 早速乗ってみる事にした。

 ナビの使い方は、ちょっと良く解らないから、スマホで司法書士事務所の住所をセットして走り出した。


 小倉城の側にある司法書士事務所が入っているビルまでは車で二十分程だった。

 信号で止まるたびに、周りの視線がこの車と私に集中しているのが分かる。


 なんていうか……だよ。


 ナビ通りに到着して赤城司法書士事務所と書かれたドアを開ける。


「先程お電話を差し上げた相田と申します。赤城先生はいらっしゃいますか?」


 受付に出て来た女性に尋ねた。


「はい伺っております。こちらへどうぞ」


 と応接室へと案内される。


 三十代半ばのちょっとがっちりした中々イケメンの先生だった。

 名刺を渡されたので、私もフリーアナウンサーとしての名刺を差し出した。


「相田さんって、もしかしてカオリンさんですか? いつも番組楽しく聞かせて貰っていますよ」

「あ、リスナーの方だったんですね。ありがとうございます」


 最初の印象って大事だよね、その挨拶で緊張はほぐれ、後は随分スムーズに話は進んだ。


「法人設立と言うお話でしたが、事業内容と本社所在地、代表者と会社の形式はお決まりでしょうか?」

「はい、事業内容はタレントと創作作家のマネージメント及び、各種事業のコンサルティング業務です」


「本社は決めておりませんので手ごろな所をご紹介いただけませんか? 従業員を雇う予定もないので、本社として登録が出来れば、場所にあまりこだわりはありません」

「なるほど、会社の形態はおきめですか? 個人事業主か、合同会社か、株式会社になりますが」


「法人としての立場が欲しいので、合同会社でお願いします。株式は必要ないと思いますから」

「了解です。それなら本社はレンタルオフィスに設定されるのがおすすめですよ。比較的料金も割安ですし、ミーティングを行う部屋も簡単に用意できます。インターネットやコピーなどもすぐに利用できますから、便利は良いです」


「それでお願いしたいと思います。出来るだけ早く設立したいのですが?」

「そうですね、会社の印鑑が用意出来れば最短一日で設立可能です。税務関係などはどうされるご予定ですか? うちは税理士事務所も兼ねておりますので、うちでご契約いただければ、会社設立費用は実費だけにさせて頂きますよ?」


「それもお願いします。では今から印鑑を作成しておきますので、出来次第連絡させて頂きます」

「これからよろしくお願いしますね相田さん。相田社長とお呼びした方が良いですね」


「赤城先生、カオリンでお願いします」


 早速用件は片付いたので、印鑑屋さんに法人の印鑑を頼みに行った。

 会社名は、『合同会社T&R』テネブルとリュミエルにしたよ。

 私の肩書は代表社員。


 合同会社では、株式会社の代表取締役を代表社員って表現するんだけど、なんか労働組合の委員長みたいだよね?


 レンタルオフィスは明日の午前中に赤城先生が、案内してくれることになったよ。


 しかしこの車凄いなぁ。

 町中の視線を独り占めな気分だよ。


 そのまま俊樹兄ちゃんに頼まれていた、お弁当のネギ、ニンニク抜きバージョンを五十食と、普通のお弁当を色々な種類で百個ほど頼んだ。前回も頼んだ所なので怪しまれたりは無かったよ? 


 時間がかかるので、その間にカジュアルな衣料品店で、シンプル系デザインの下着も結構大量に仕入れて置いたよ。


 車までは、手に持って運んで、車に着いてからインベントリに仕舞っておいた。


 ◇◆◇◆ 


 翌朝、再びポルシェで赤城司法書士事務所に向かった。

 ビルの下から電話で到着を伝えると、赤城先生が降りて来た。


「おはようございます赤城先生」


 車から降りて赤城先生に挨拶をすると、「カオリン? これってカオリンの車なの? 凄いね最新の992でしょ? しかもコンバーチブルとか、やっぱりアナウンサーって収入いいんですか?」


「これは従兄の車ですよ。地方局に週一で番組持ってる程度のフリーアナウンサー何て収入は学生アルバイト並みですよ?」

「そうなんですか、私の車で行こうと思ってたんですが、少しこの車に乗せて貰っても良いですか?」


「いいですよ」


 二人で992に乗り込み、小倉の駅前にあるオフィスビルへと向かった。

 スペースを何か所か見せて貰い、デスクと椅子が二つづつある窓際のスペースに決めた。


 確かにここならマンションを借りて、事務所スペースとして体裁を整える事を考えると随分リーズナブルだ。

 また番組で使えるネタが増えたよね!


 赤城先生が担当する会社もこのオフィス内には三社入っていて、月一程度は情報交換会と言う、飲み会も開催していると言っていた。


「都合が合えば参加させて頂きます」


 って無難に返事して置いたよ。

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