第49話 マリエラの街

 この世界に来て初めてのピンチらしいピンチが、まさか玉ねぎによってもたらせられるとか想像もしなかったぜ。

 

 夜が明けると朝食を食べた後で隊列を整え、海辺の街を目指して出発をした。

 海辺の街かぁ新鮮な海の魚を食べる事が出来そうだな。


 楽しみだぜ!


 予定通りに、昼前には海辺の街『マリエラ』に到着した。

 サンチェスさん達商会のメンバーは、この街の商業ギルドでの納品や打ち合わせで忙しそうだ。


 俺とマリアはチュールちゃんを連れて、今日宿泊する宿にチェックインだけ済ませてから冒険者ギルドへと立ち寄った。

 相変わらず大量に倒した魔物素材の納品の為だ。


 いつもの様に、納品が大量なので保管庫での納品をお願いした。

 今回は百二十匹分程の納品だぜ。


 六十万ゴールド程の買取価格を受け取ると、爺ちゃんにミスリルとオリハルコンを頼まれてたのを思い出して、近くにある商業ギルドへと向かう。


 チュールちゃんの後ろを付いて歩くと、しっぽが揺れるので、とても飛びつきたい衝動が抑えられなくなるぜ。

 俺の顔が尻尾の揺れに合わせて、ゆらゆらしてるのを見てマリアが笑ってた。

 商業ギルドの前には、まだサンチェスさん達の馬車は止まっていた。


 俺達が中に入るとサンチェスさんが声をかけて来た。

「おお、丁度良かった。テネブルに預けてる方の荷物の中に、ここで必要な親書が入っておったんじゃ。今呼びに行かそうと思ってたところじゃった」


 そう言われて俺はインベントリから手紙類の束を取り出し、サンチェスさんに渡した。

 必要な物以外の返却を受けて再び仕舞い込むと、マリアに頼んでミスリルとオリハルコンの事を聞いて貰う事になった。

「サンチェスさんテネブルがミスリルとオリハルコンを手に入れたいそうですけど、ここで買えますか? って言ってます」

「ほう、なんに使うんじゃ? かなりレベルの高い鍛冶師で無いととても扱えるような素材では無いぞ?」


「魔道具を作ってみるそうですよ?」

「テネブルが作れるのか? まぁテネブルなら今更何をしても不思議はないかの。どれくらいいるのかな? 安くはないぞ」


「えーと、今私の持っているお金が一千万ゴールド程なのでそれで手に入る量だけお願いします」

「解った。すぐに用意させよう」


 そう言って、サンチェスさんが用意してくれたのは、ミスリルが二キログラムとオリハルコンが五百グラムほどだった。


「本来ならその半分の量なんじゃが、わしが利用すると言う事で仕入れ価格での譲渡じゃ」

「ありがとうございますサンチェスさん」


「良い物が出来たらわしにも見せて欲しいぞ」

 俺は「了解です」と返事したけど当然「ンニャァ」としか聞こえなかったぜ。


「マリアお金は王都に行ったら返すから」

「いいよそんなの。元々テネブルが倒した魔物の素材売ったお金なんだし気にしないでね」


「それでもちゃんと返すからね!」

「解ったよ」


 お昼過ぎになったので、チュールとマリアと三人で食堂に入った。

 予想通りに新鮮な魚介を使ったお料理が豊富だった。


 俺は無性に生魚が食べたくなったから、マリアに頼んで魚の切り身を生で貰ったぜ。

 猫人属のチュールもちょっと興味深そうに見てたけど、マリアと同じ魚のソテーした料理を食べてた。

 まあこの世界の獣人さんって、殆ど普通の人間の身体に元の獣の特徴が現れてるだけだから、女の子が生魚かじってたらちょっとホラーな感じするぜ。


 戦闘に長けてる獣人は、獣化や身体強化が使える人が多いらしいけど、そのうち戦う機会もあるかもな。


 ご飯を食べながら、これから先の旅の日程を聞いてみた。


「マリア、こっからはどうやって王都に向かうの?」

「ちょっと待ってね、私も初めての王都行だから、日程表見ないとよく分かんないから」


 そう言いながら日程表を取り出した。


「ここからは、船に乗って二日で到着する『リスポール』の街から、川沿いに上って山脈を超えたところが王都だよ」

「へぇ、それって結構不便な所なんじゃないの?」


「うーん。こっちから行ったらそう感じるけど、逆方向にこの国よりも大きな帝国が有るから、帝国に行くにはずっと平地が続くんだよね」

「ああ、そうなんだね。王都に到着するまでに難所はあるの?」


「山脈はドラゴンの谷まで続いているけど距離は結構離れてるから道が険しい以外は大丈夫かな?」

「ドラゴンの谷ってそのまんまドラゴンが住んでるの?」


「私は見た事無いから解らないけど、そんな名前だし居るんじゃないのかな?」


 マリアと話していると、香織から念話が入った。


『俊樹兄ちゃんもどったよお』

『お帰り香織、二分後に潜ってくれ』


『解ったぁ』


 俺はマリアに香織が戻って来たから迎えに行くことを伝えて、食堂の横の建物の間に入り転移門を広げた。


 扉をくぐって出てきた香織が、ちょっとかわいらしい薄い桜色の防具を纏っていた。


「お、香織その防具どうしたんだ?」

「お爺ちゃんに頼んでたの。よく考えたら私大型化した時に普通の服とかだと、破れてとんでもないことになりそうだし」


「……ちょっとそのシーンを想像してしまったぜ、巨大なパグが破れた布切れを身体に張り付けてる図って結構くるなぁ」

「でしょー、これは武器と同じミスリル製だから、私の大きさに応じてフィットするんだって」


「へー優れものだな。俺もなんか防具用意した方が良いのかな?」

「俊樹兄ちゃんは敏捷高めてよけるタイプだから、急所のガードだけしてくれるようなのが良いのかな?」


「ちょっと爺ちゃんと相談してみるぜ。俺はこの後、向こうに戻ってまた小説の書き貯めしてくるな。あ、そうそう俺さ昨日死にかけたんだ」

「えぇ? 一体何が起きたの?」


 香織にも食べ物の注意事項を伝えたりしておいた。

「それとさ、まだ言って無かったけど車買ったから明日納車なんだ」

「え? いつの間に? 結局どんなの買ったの?」


「種類は、そうだな次に戻った時に車庫で確認してくれ。きっと香織も気に入るぞ」

「じゃぁ楽しみにしておくね。あ、そうそう。私の番組全国ネットになるんだよ。この間の俊樹兄ちゃんの小説を題材にした放送が凄い高評価で、その投稿サイトがメインスポンサーのラノベ紹介番組なんだよ」


「そりゃ凄いな。おめでとう」

「俊樹兄ちゃんのお陰だよ、毎週ゲストで作家さんも招いたりしたいらしいから、俊樹兄ちゃんもそのうちゲストで来てね?」


「そりゃ恥ずかしくて俺には無理かもだな」

「ラジオだから顔なんか出ないし平気だよ」


 俺達はマリアの元に戻った。

 香織がまたマリアとチュール用の服を準備して来たみたいで、早速宿に戻って着替えをしてみるそうだ。


 マリボさんや女性従者の人達用の比較的安い下着類も用意して来たから、みんなで下着の試着会するって言ってたぜ。

 俺は激しく見たいと思ったが、マリアに出来るだけ写真に撮ってくれるように頼むだけにしておいた。


 リュミエルがジト目で見てくるから……だって見たいんだもん……

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