埋まらない亀裂
「こんな早くに呼び出して、二人で私をボコボコにしたかったの?」
「まぁね」
「水色ちゃん、紋章が金ってことは生徒会の人?」
「そうだけど」
「はぁー......ちょっと話そ」
「......は?」
花梨は校舎裏にある、武道館から出るための四段しかないコンクリートの階段に座り、いきなり喧嘩がスタートすると思っていた乃愛と瑠奈は不思議そうに顔を見合わせた。
「二人も座りなよ」
「う、うん」
花梨の隣に乃愛が座り、乃愛の隣に瑠奈が座った。
「なんで私を狙ったわけ?」
「雫と蓮を傷つけたから」
「蓮?」
「私の幼馴染み!なんで蓮にも手を出したの!」
「大きい声出さなくても聞こえるって。悪いけど、その蓮って人は知らないし何もしてない」
「したでしょ。ガラスで頬が切れて、石が頭に当たった」
「昨日生徒会室にいたの?それなら私は会長だけを狙って石を投げたつもり。蓮って人には後で謝るよ」
「アンタ......なに考えてるの?」
「私、こんなんだけど弱い者いじめしないから」
「私弱くないんだけど」
「私も!」
「水色ちゃんは強いかもね、目がビビってないもん。でもそっちのチビは弱い」
「あ?なんて言った?」
「弱い。目がキョロキョロしすぎ」
「私が怒ってるのそこじゃない」
「もしかして身長気にしてた?ごめん。普通に可愛いと思うけどな」
「許す」
瑠奈は一人じゃ花梨に勝てないと本能で感じ、怒っていたがあっさり許した。あと可愛いと言われて内心喜んだ。
「ありがとう!」
花梨は可愛らしくニコッと笑い、そのギャップに二人は唖然とした。
「ボコボコにされるって分かって来て、なんでそんな余裕なの?」
「私、喧嘩は多分強い。容赦ない分、武器だって平気で使うし。だから多分、二人にも勝てる。でもね、別に二人のこと嫌いじゃないし、ちょっと話してみたくなったから」
「雫のことは嫌いなの?」
「嫌いっていうか、この学校で一番目立つ人じゃん?だから、あの人に手を出すのが問題を起こして捕まったりするには1番早いかなって思ったの」
「でも、雫先輩は逮捕させる気なかったみたいだよ?」
「本当、なんであの人ってあんなお節介なの?そういうとこはウザい......あ、水色ちゃん」
「なに?」
「思い出したんだけど、私の背中殴ったよね。髪掴んだし」
「当たり前でしょ。アンタが暴れるのが悪い」
「......」
一気に緊迫した空気が流れ、瑠奈は逃げることだけを考えていた。
「まぁいいや」
「はぁ〜......」
「瑠奈?どうしたの?」
「いつ殴り合いが始まるかって、ヒヤヒヤだよ」
「大丈夫大丈夫!私から話そって言ったんだから、その時はちゃんと殺ろ?って言うよ」
「なんか、嫌な漢字が頭に浮かんだ」
「私はカタカナが浮かんだ」
「乃愛先輩、よくこの状況で下ネタ言えるね」
「あはは!とにかくさ、私は会長にしか手を出さないから安心して」
「雫にもダメ。許さない」
花梨は立ち上がり、座る乃愛を見下ろした。
「んじゃ、やっぱり敵ってことで」
「そうだね」
「どーん」
「......ん?」
花梨は乃愛の頬にゆっくりつま先を当て、口元だけニコッと笑った。
「睨み合うならすぐ立たなきゃ。私が今本気だったら、歯折れてたよ」
「なんで本気でやらなかったの?」
「だーかーらー、弱い者いじめはしないんだって。じゃあね」
花梨が去っていき、乃愛と瑠奈は体の力が抜けた。
「なんかさー、花梨って本当に悪い人?」
「蓮の怪我もたまたまだったしねー」
「でも、雫を傷つけたら私と花梨は喧嘩することになるなー」
「勝てる?」
「私達生徒会って身を守りながら、いかに相手にダメージを与えないで動きを止めるかってことには長けてるけど、喧嘩に関しては完全自己流だからねー」
「でも花梨は雫先輩を強い人って思ってるみたいだよ?」
「雫は強いと思うよ?護身術以外にも練習してるもん。あの淑やかな風貌からは想像できないぐらい強いと思う」
「私も雫先輩に戦い方教わろうかな」
「やめときな。私達も校内に入ろう」
「はーい」
その頃、窓が段ボールに変わり、薄暗くなった生徒会室前の廊下では、花梨と雫が一定の距離を保ちながら話をしていた。
「このダンボールはなに?」
「貴方がガラスを割らないようによ」
「なら燃やしてあげる」
「それなら、窓をコンクリートで埋める必要があるわね」
「どうしてそこまでするの?」
「貴方がどれだけ悪いことをしようと、私はそれをできないようにしていく。いずれ貴方はなにもできなくなるわよ」
「あ、雫先輩おはようございま......す」
「蓮くん、おはよう」
なんか来ちゃいけないタイミングで来ちゃった⁉︎
「蓮先輩って君ね。石当たっちゃたみたいでごめんね」
「いえいえ......し、雫先輩、瑠奈見ませんでした?」
「チビのことなら校舎裏じゃない?水色ちゃんとおチビちゃんに呼び出されて、さっきまで会ってたから」
「会って......なにをしたんですか?」
「二人とも殴りかかって来たからさ、半殺しにしちゃった。もしかしたら死んでるかも?」
それを聞いた僕と雫先輩は校舎裏に向かおうとしたが、花梨さんは雫先輩に彫刻刀を向けて雫先輩の足を止めた。
「蓮くん、行きなさい」
「蓮せんぱーい、どうする?戻って来たときには会長もズタボロかもよ?」
(蓮先輩の行動で決める。会長の言葉を信じるか......信じないか‼︎いや......それはまだ早い)
僕はゆっくり花梨さんに近づいた。
「それ、捨ててください」
「やめなさい蓮くん」
「僕は雫先輩を守るって約束しましたから」
「どうして会長を守るの?この人は色んな人を傷つけてるはず。先輩も被害者なんじゃないの?」
「雫先輩は酷いことするけど、そこにはちゃんと愛がある!花梨さんもいつか分かるよ。だから彫刻刀を床に置いて」
「......黙れ。お前も殺すぞ!」
「花梨‼︎もうやめて‼︎」
そう大きな声で言ったのは千華先輩だった。
「あー‼︎‼︎‼︎‼︎」
「瑠奈⁉︎」
「とうっ‼︎」
何故か瑠奈は廊下の奥から走って来て、花梨さんにドロップキックをし、受け身を取れずに瑠奈も痛々しく床に落ちた。
「ぐへっ」
「瑠奈!なにやってんの⁉︎て、てか生きてるー!」
僕は反射的に瑠奈を抱きしめて喜んでしまった。
「れ、蓮⁉︎」
「生きてるじゃん!」
「あ、当たり前でしょ⁉︎」
「おいチビ。さっき見逃してやったのを無駄にしたいわけ?って、なにイチャイチャしてんだ‼︎」
「だって!瑠奈が死んだかと思って!」
その時、千華先輩は花梨さんの腕を掴んで涙を流した。
「やめて......私が悪かったから......」
「瑠奈、怪我は?」
「大丈夫!」
抱き合う二人と、張り詰めた空気の義理の姉妹を見て、雫は小さな声で呟いた。
「......カオス」
「千華先輩、花梨さん。一度二人で話してみたらどうですか?今までろくに会話もしてこなかったなら、話せば分かることもあると思いますよ!」
「蓮くんの言う通りね。花梨さん、彫刻刀を渡しなさい」
花梨さんは素直に彫刻刀を渡し、千華先輩を睨みつけた。
「生徒会室を使っていいわ」
二人が生徒会室に入って数秒後、すぐにマグカップなどが割れる音が激しく鳴り、雫先輩は慌てて生徒会室を開けた。
すると花梨さんと千華先輩は胸ぐらを掴んで睨み合っていて、まだまだ和解には時間がかかりそうだった。
「離しなさい。花梨さんは教室へ、千華さんはここに残りなさい。蓮くん達はいつまでイチャイチャしているの?教室に戻りなさい」
「は、はい」
瑠奈と一緒に教室に戻ると、林太郎くんが黒板を掃除していた。
「おはよう」
「おっ、さっき見てたんだけどさ、お前ら友達で居続けるーとか言った後の方が幼馴染みらしいっていうか、ラブラブだよな」
「そんなことないと思うけど」
「そうだよ」
(ありありなんだよ‼︎蓮は馬鹿なの⁉︎天然でやってるの⁉︎私で遊んで楽しんでる⁉︎)
「でも、瑠奈は変わったよね!独占欲とか嫉妬とかなくなったみたいだし!」
「まぁね!」
(だーかーら‼︎ありありなんだよ〜‼︎迷惑かけないように必死なだけ‼︎ここ最近で部屋に6箇所も穴開けちゃったよ‼︎嫉妬しまくりだっての‼︎)
「バカ‼︎」
「ふぇ⁉︎」
瑠奈は急に頬を膨らませて教室を出て行った。
「り、林太郎くん、瑠奈はどうしちゃったの?」
「さぁ?」
「そういえば乃愛先輩‼︎」
「どうした?乃愛先輩ならさっき、自販機でジュース買ってたぞ」
「怪我してなかった⁉︎」
「全然してなかったな。自販機の下にお金落として、必死に手伸ばしてたけど」
「良かったー」
「それより俺は不安だ」
林太郎くんは真剣な表情で黒板消しを置いた。
「な、なに?」
「さっき、瑠奈は花梨にドロップキックをしただろ?これは任務失敗か?プロテインは貰えないのか?」
「あぁ......聞いてくるよ」
「頼む」
生徒会室に行くと、千華先輩が泣きながら椅子に座っていて、雫先輩は普通に書類を眺めていた。
「大丈夫ですかー?」
「ごめんね蓮、話すチャンスくれたのに......」
「いえ、僕は大丈夫です。雫先輩」
「なにかしら」
「さっき瑠奈が花梨さんにドロップキックしたじゃないですか、それって任務失敗ですか?」
「当然じゃない。それで、もちろん今も林太郎くんは瑠奈さんを見張っているのよね」
ん?なんかヤバイ予感。
「......千華先輩!泣かないでくださいよ〜!」
「だって〜......」
「蓮くん、私の目を見なさい」
「はい......」
「見張っているわよね?」
「そ、それが......いきなり教室から出て行ったので......」
「見張るなんて簡単な仕事もできないなんて、どういうこと?蓮くんはもう一年は生徒会に居るわよね」
「す、すみませんでした‼︎」
「林太郎くんを連れて体育館に来なさい。任務の失敗は私の命令を聞かなかったのと同じことよ。覚悟しなさい」
「千華先輩、替わりに罰を受けてください」
「よく泣いてる人に言えるな!血も涙もないじゃん!」
「血は通ってますし涙も出ます......僕も千華先輩と同じ人間なんです!信じてください‼︎」
「いきなり話のスケール大きくなったけど、早く体育館行きな。雫が怖い」
雫先輩を見ると、無表情で僕を見つめていたが、雫先輩に関してはその無表情がなにより怖い。
「い、行きまーす」
それから林太郎くんを連れて体育館に行くと、既に雫先輩はステージに上がっていた。
「来なさい」
「はい‼︎」
林太郎くんは雫先輩からの呼び出しにビビりまくっている......
ステージに上がると、雫先輩はマジックペンで僕達の鼻の下に髭を書き、ステージ上でスクワットをさせた。
「今から全校集会があるわ。終わるまでスクワットしていなさい」
「絶対続きませんよ!」
「途中でやめたら、貴方達のクラス全員でやってもらうわ。はい、スタート」
地獄だ‼︎肉体的苦痛と精神的苦痛......最初にどっちが限界くるだろうか。
それから続々と生徒達が集まって来て、瑠奈が雫先輩を睨んでいるのが分かる。
二人がスクワットをしているのを見て、梨央奈は他の生徒会メンバーに話しかけた。
「いやー、今年も始まったねー」
「なんで蓮があんな目に!」
「乃愛、止めちゃダメだよ?絶対飛び火するから」
「分かってるけどさ......」
全校生徒が集まると、雫先輩は1年生に恐怖を植え付けるように一人一人の目を見た後、マイクのスイッチを入れた。
「一年生が全員集まるまで10分18秒。集合の呼びかけは7時50分にあったわよね。全校集会は8時からと知っていたはずよ?五分前に体育館に居ないどころか18秒の遅刻。情けないわね」
一年生は花梨さんを除いて、誰一人ステージを見ようとしない。
雫先輩が怖いのか、僕達を見て笑うのを回避しているのか......
その時、花梨さんが口を開いた。
「私は五分前に居たんだけど、なんで一緒に説教されなきゃいけないわけ?」
「貴方のクラスは三組よね。三組の生徒の中にも五分前行動ができていない生徒はいたわよ?何故早く行こうと声をかけてあげなかったのかしら」
「私は私。他は他じゃん」
「それは間違いよ。学校はクラスという括りで行動するようになっているの、クラスに問題児が居れば、そのクラスの評判は下がるし、連帯責任もクラスごとに与えられることがほとんどよ」
「悪くない生徒が可哀想でしょ」
「悪い生徒がその考えに至ればいいわね」
「てか、横の二人はなに?」
「そうだよ!なんで蓮が辱めを受けてるの!」
あー、瑠奈も出しゃばっちゃった。
「この二人には私の命令に逆らった罰を与えているのよ」
失敗が逆らったことになるとか何時代だよ‼︎
「ガリガリの方、足プルプルしてるよ」
「誰がガリガリじゃー‼︎」
「林太郎くん‼︎止めちゃダメだって‼︎」
「れ、蓮も......」
「二年一組の生徒は全員、ステージの前に横一列で整列しなさい」
みんな......ごめん‼︎
僕達のクラスは、全校生徒の前でスクワットを始め、それを見た一年生がドン引きしているのが分かる。
「一年生は今日から部活の見学が始まりますが、各部活に迷惑がかからないよう。しっかりとした態度で見学に参加するように」
「おらぁー‼︎‼︎」
瑠奈に我慢の限界がきて、ステージに上がろうとするが、何回かジャンプしてやっとステージに上がった。
「話している途中なのだけれど、なにかしら」
「蓮をいじめて楽しいか‼︎」
「楽しいわよ」
「くらえー‼︎えっ、ちょっと」
瑠奈は雫先輩に殴りかかろうとしたが、雫先輩は容赦なく瑠奈を背負い投げし、みんなの前で瑠奈の背中を踏みつけた。
「騒がしくなってしまったわね。とにかく一年生の皆さん、楽しい高校生活を送りましょうね......あら?何故誰も返事をしないのかしら」
「は、はい‼︎」
今日で大半の生徒が気づいただろう。この学校が普通じゃないことに。
一年生が全力の返事をする中、花梨は雫がどんな人間なのか分析していた。
(会長の考えが分からない......鬼か、天使か......悪魔か)
「それでは、解散」
教室に戻ると、瑠奈は僕の席にやってきて横にしゃがんだ。
「脚出して」
「え?」
「いいから」
「ほい」
ズボンをまくり上げて脚を出すと、瑠奈は僕のふくらはぎをマッサージし始めた。
「最近まともになってきたと思ってたのに、会長はやっぱり鬼」
「まぁ、僕が悪いし」
「蓮にあんなことするとか許せない。私の蓮に......」
「る、瑠奈?」
「だってそうでしょ?恋人でも友達でも関係ない、蓮は私の蓮。違う?そうだよね、違わないよね」
「まだなにも言ってないけどね。それより大丈夫?背負い投げされてたけど」
「落ちる時、私の頭の下に足を入れてきたの、だから頭打たずに済んだ」
「優しいじゃん」
「優しい?雫先輩が?まさか、蓮は雫先輩に毒されて......」
「とにかく、花梨さんには近づかないこと。これは瑠奈が大切だから言ってるんだからね?」
「え、う、うん!約束する!うへ♡」
「うへ〜」
「今馬鹿にした?」
「してない」
そして昼休み、今年も学校のルールを知らない一年生達が売店や食堂を使って注意されているのを見ていると、予想通り花梨さんは堂々とパンを買っても、誰にも注意されていなかった。
そして放課後、生徒会室に行くと、雫先輩はいきなり2万円を渡してきた。
「......え〜⁉︎なんですか⁉︎2万円あげるから学校辞めててきなやつですか⁉︎次は任務成功させるので許してください‼︎」
「マグカップが割れてなくなってしまったわ。帰りに千華さんと買い出しに行ってちょうだい」
「あー、分かりました」
「わ、私が蓮と行く!」
「乃愛さんと結愛さんは部活の見回り、梨央奈さんは私と書類をまとめてちょうだい」
「え〜......」
「次に何か買い出しをお願いする時は、蓮くんと乃愛さんに頼むわ」
「絶対?」
「絶対よ」
「分かった〜、結愛、行こ」
「うん」
「千華先輩、僕達も行きますか」
「そうだね」
四人が生徒会室を出て行くと、梨央奈は雫をニコニコしながら見つめた。
「蓮くんと千華を選んだの、わざとでしょ」
「たまたまよ」
僕は千華先輩と教室に戻り、瑠奈に一緒に帰れないことを伝えに行った。
「瑠奈、今日は生徒会の買い出しあるから一緒に帰れない」
「千華先輩と?」
「うん」
「千華先輩」
「ん?」
「蓮に指一本も触れちゃダメ、分かった?」
「どうしようかな〜」
「林太郎‼︎」
「なんだー?」
「尾行するよ‼︎」
「そんな堂々と尾行宣言する奴がいるか‼︎」
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