お疲れ様でした
調理室に来ると、テーブルには大量のホットケーキが置かれ、かなり良い匂いがしていた。
「結構人いるね」
「蓮、見て」
瑠奈が指差す看板には、(一度手をつけたホットケーキは、ちゃんと食べてから皿を確認してね)と書かれていた。
「食べれば、皿にヒントが書いてあるんだ!」
「私が食べる!」
瑠奈は皿と一緒に置かれたナイフとフォークを使って、すごい早さでホットケーキを食べ終え、皿を確認したが何も書いていなかった。
「当たり外れがあるってこと?」
「そんなー......頑張って食べたのにー」
だからみんな苦しんでるのか。
「あれの答えは食べられないパン、ホットケーキだったよね」
「うん」
「もしかしたらだけど、正解のホットケーキはレプリカかなんかなんじゃない?」
「そうかも。蓮、冴えてるね」
「レプリカなら携帯のライトで照らせば、表面がテカッたりするんじゃない?」
「手分けして探そう」
周りの生徒にバレない様にライトを照らして行き、一つ違和感を感じるホットケーキを見つけ、ナイフを入れようとしたがナイフが通らない。
「当たりだ」
周りに見られない様にこっそりレプリカのホットケーキを上げると、一枚のクッキーが置かれてあり、クッキーを取るとその下に(ト)と書かれていた。
そしてよく見ると、ホットケーキの裏に文字が書かれていた。
「瑠奈」
瑠奈を呼んで、一緒に文字を確認した。
「いっぱい食べると喉が乾くね。ホットケーキは甘いから渋い物でも飲みたいな」
「茶道部かな」
「行ってみよう」
一度学校の外に出て、武道館の近くにある茶道部の活動場所に来ると、思った通り、大量のお茶が並べられていた。
「お茶を飲み干せば、コップの底の文字が読めるとかかな。瑠奈が飲みなよ」
「うん!......ぶぇ〜」
「だから出さないでよ!」
「だって苦いんだもん!れ、蓮飲んでよ!」
「なんで少し顔赤いの?」
「べ、別に?」
「もしかして、間接キス?」
「う、うん」
「ごめん、あまり気にして無かった。嫌だったよね」
「え。蓮ってバカなの?」
「ひど。とりあえず飲んで」
すると瑠奈は、不貞腐れた様な表情でお茶を一気に口に含んだ。
「ぶぇ〜」
「結局出すんかい!で、なんか書いてる?」
「の」
「よし!あと三個だ!」
「ふん!」
「どうしたの?」
「別にー」
ピンポンパンポーン
「残り時間20分!」
ピンポンパンポーン
「時間制限あるの⁉︎」
「扇子」
「扇子?」
「あの扇子、違和感ない?」
その扇子は綺麗に飾られているわけではなく、紐で壁に逆さまにぶら下げられていた。
「広げてみようか」
「うん」
扇子を広げると、その違和感はビンゴだった。
「苦い物を飲んだら、甘い飴が舐めたくなってこない?甘い誘惑には気をつけて。だって、どういうこと?」
「千華先輩の飴かな」
「甘い誘惑には気をつけてってのが大事そうだね」
「校舎裏に沢山花咲いてるじゃん。あの花って蜜が甘いんだよね」
「だからって気をつけることあるかな......ミツバチ?」
「だとしたら行くの怖くない?」
「ここまで頑張って諦めたくない!」
「僕もだけど......よし、行こうか」
現場に着くと熊が立っていたが、熊には蜂が群がっていて、とても近づけない。
「蓮!瑠奈ちゃん!助けて!」
やっぱり千華先輩だった。
「無理ですよ!」
「助けてー‼︎」
千華先輩は蜂を連れて僕達の元に走ってきた。
「来ないでー!」
「止まってください!」
「蜂怖いよー!」
「その手に持ってる飴をこっちに投げてください!そしたら助けます!」
「はい!」
千華先輩が投げた飴を拾った瞬間、僕達は再び走りだした。
「よし瑠奈!逃げよう!」
「待って〜‼︎」
どうにか千華先輩を振り切り、飴の包み紙を外すと、包み紙には(ケ)と書いてあった。
「左、2、ポ、あ、長、そ、る、れ、は、ッ、ト、の、ケ。あと一つだ!」
「千華先輩から逃げてきちゃったけど、問題とか出してくれたはずじゃ」
「あの状況じゃ問題どころじゃないよ」
「遠くから大声で言ってもらう?」
「他の生徒に聞かれちゃうよ」
「でも、残り一つなら急げば大丈夫だよ」
「確かにそうだね」
千華先輩の元に戻り、僕は大声で千華先輩に聞いた。
「問題出してくださーい!」
「時計の針は二本!あれ?おかしいなーあぁー‼︎蜂〜‼︎」
時計の針って体育館のことかな。
「蓮!時計の針が三本になってる時計を探そう!」
「そっちか!行こう!」
一つ一つの教室の時計を確認していくと、1年1組の時計の針が三本になっていて、短い針が指す2時の場所が、会という文字になっていた。
「蓮!ヒントのメモ貸して!」
「はい!」
「左、2、ポ、あ、長、そ、る、れ、は、ッ、ト、の、ケ、会......」
「会と長で会長?」
「多分そう。会長のポケット......」
「会長の左ポケットにそれはある!」
「体育館戻ろ!」
走って体育館に戻ると、雫先輩はピアノの椅子に座っていた。
「雫先輩!左ポケットにある物を出してください!」
「はい」
「やった!」
ピンポンパンポーン
「残り10分!」
ピンポンパンポーン
「瑠奈、屋上まで走るよ!」
「まだ走るの⁉︎」
「これで最後だから!」
急いで屋上に向かうと、既に鍵は開いていて、屋上に出ると赤髪の女子生徒が宝箱を持って屋上を出ようとしていた。
「お疲れー。もうちょっと早かったらねー」
屋上の鍵って一つじゃないの⁉︎完全に一番乗りだと思ってた......
「待て」
「......あ?今の私に言ったの?」
「る、瑠奈?」
「私と蓮が頑張って頑張って頑張って!やっと鍵をゲットしたのに!」
「で?」
「その宝箱渡して」
「願いを叶えてもらえるんだよ?渡すわけないじゃん。それに、その男生徒会でしょ?毎日最高の学校生活送ってるならさー、他の生徒に譲りなよー」
「いや、微妙な学校生活送ってます。結構かなり本当に多分」
瑠奈は悔しそうに一度唇を噛んだあと聞いた。
「願いってなに?」
「決まってるじゃん。次の生徒会長、私にしてもらうんだよ」
え、今なんて?
「無理だよ」
「は?」
「雫先輩はクラス対抗って言った。個人の願いは聞かないはず」
「それはどうかなー。雫、鬼の生徒会長とか言われて恐れられてるみたいけど、私の言うことなら聞くんじゃないかなー」
ピンポンパンポーン
「残り五分!」
ピンポンパンポーン
「時間ないし行くね」
雫先輩が会長じゃなくなったら、僕が積み上げてきたものが無駄になる。それに、雫先輩は共に戦おうって言ってくれた......
「瑠奈‼︎アタック‼︎」
「とりゃ‼︎」
「なっ⁉︎」
瑠奈はジャンプするように女子生徒のお腹目掛けて頭をぶつけて、女子生徒は宝箱から手を離してしまった。
「ゲット‼︎」
「なに手出してんだよ‼︎」
「手じゃないも〜ん!頭だも〜ん!」
「あ、宝箱もう一つありますよ」
女子生徒が振り向いた瞬間、僕と瑠奈は校内に入り、屋上の鍵を閉めた。
「早く雫先輩に持って行こう!」
「急げ〜‼︎」
「おい!開けろ!なんで外鍵と内鍵が違うんだよ‼︎」
僕達は体育館に戻り、雫先輩に宝箱を渡した。
「おめでとう。まさか蓮くん達がね」
雫先輩がどこかに電話をかけ、僕達が宝箱を持ってきたことを伝えると、校内放送が流れた。
ピンポンパンポーン
「宝箱をゲットしたのは一年二組!おめでとーう!全員、体育館に集まってください!」
ピンポンパンポーン
その放送を聞いた赤髪の女子生徒は、怒りで屋上のドアを蹴って壊し、校内に戻った。
僕と瑠奈はステージに上げられ、全校生徒に拍手されてお祝いされると同時に、一年二組の皆んなはとても嬉しそうだ。
「さぁ、貴方達の願いは?」
瑠奈が何か言うかなと思い、瑠奈の顔を見ると、瑠奈は何か考えている様子だった。
(今、蓮と付き合いたいって言ったらどうなるんだろう。付き合えたりするのかな)
「僕は、同じクラスのみんなの願いが分からないので、このまま先輩後輩関係なしで、全員で学園祭の打ち上げがしたいです!」
「ちょっと蓮!勝手に願い事言わないでよ!」
「だって、みんなで打ち上げしたら、この学園祭の思い出がもっと深まりそうじゃん!」
クラスメイトも納得している様子だった。
「いいわよ。全員、また1時間後に体育館に集まってちょうだい」
雫は全員が体育館を出ていくのを見届けると、自分の父親に電話をかけた。
「どうした雫」
「体育館を使って、学園祭の打ち上げをしたいの。急遽、シェフを雇ってバイキングのようにできない?」
「雫の頼みなら任せなさい。30分でなんとかしよう」
「ありがとう」
それから雫は、全生徒の保護者に電話をかけ、帰りが遅くなるが、安全に自宅に送ると伝え、心配なら保護者も参加自由とした。
そして1時間後、再び全員が体育館に集まると、スイーツからステーキ、寿司やラーメン。様々な食べ物の出店が立ち並んでいた。
「全て無料で食べ放題、飲み放題よ」
先生含め、生徒達は嬉しそうに好きなものを食べ始めた。
「雫!ピアノ凄かったね!」
「あ、ありがとう」
雫は、同学年の喋ったこともない生徒達に囲まれて、少し困っていた。
「ねぇ、なんか弾いてみてよ!」
「今?」
「うん!」
「いいけど......」
雫が生徒達に囲まれる光景を、生徒会メンバーは唖然とした表情で見ていた。
「蓮!見て見て!」
瑠奈は分厚いステーキを持って現れた。
「なにその肉!」
「分厚いのに、口に入れた瞬間溶けるの!もう2枚目!」
「いや、もっと色んな物食べなよ」
「だって美味しいもん!」
「あ、居た。蓮、これ食べてみな」
結愛先輩は、一口サイズのケーキを持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
「高級レストランのデザートらしいよ」
「うっま‼︎」
「蓮、他の女に貰ったもの食べるとかなんのつもり?そんな汚いもの吐き出して」
「あ、瑠奈」
「なに」
「殺す」
瑠奈はステーキを持ったまま体育館内を逃げ回り、結愛先輩も全力で瑠奈を追いかけ始めた。
「なにしてるんだか......」
「蓮!」
「ん?」
「あーん!」
千華先輩に呼ばれて振り返ると、千華先輩はマスカットを僕の口に入れてきた。
「うま......」
「ね!」
「僕、ぶどうってあまり好きじゃないんですよ」
「え!ごめん!」
「なのに美味しいです!もっと食べたいです!」
「あっちにあるよ!行こ!」
「はい!」
大量のフルーツが置かれた場所に行くと、そこにはまさかの、梨央奈先輩のお父さんがいた。
「久しぶりだね。今は千華さんと付き合っているのかい?」
「付き合ってます!」
「千華先輩⁉︎ち、違います!それよりなぜここに......」
「美味しいものが食べれると聞いてね、雫ちゃんの父親に招待されたんだ。まぁ、その本人は居ないようだが」
「そうですか......失礼しまーす」
「待て」
「はい!」
「梨央奈が迷惑をかけたな。君も辛かっただろうにな。よかったらこれからも仲良くしてやってくれ」
「は、はい」
怒られると思ったのに......意外だ......
「涼風くん!」
「うぉー!」
「え?どうしたの?」
「いや、なんでもないです」
睦美先輩のいきなりのメイド服に、思わず興奮の声が漏れてしまった。
「特別に接客してあげようか?」
「え」
いいのー⁉︎
「待って!蓮くんは私とマスカット食べるの!」
「さっき、あーんしてるの見たよ!」
「もう一回するし!次は、あ〜ん♡って」
「いやらしく言わないでください」
その時、梨央奈先輩が遠くから手招きするのが見えた。
「ちょっと行ってきますね」
千華先輩と睦美先輩は睨み合って、僕どころじゃなくなってるから、一旦ほっとこう。
「呼びました?」
「うん!瑠奈ちゃん見なかった?」
「あそこです」
「え、なんで鬼ごっこしてるの?」
「鬼ごっこじゃなくて殺し合いですね」
「あ!瑠奈ちゃん転んだよ⁉︎大丈夫なの⁉︎」
「ステーキ勿体ないですね......」
「いやいや!結愛にまたがられてるじゃん!私止めてくる!」
「お願いします.......」
その時、雫はピアノを演奏しながら、人混みの中で車椅子を動かせなく、不安そうにキョロキョロする乃愛が目に止まった。
「ごめんなさい。ピアノはこの辺で」
「やっぱり凄いよ!」
「ありがとう」
雫は乃愛の車椅子を握った。
「なに食べたい?」
「雫!えっとね、塩ラーメン!」
「一緒に食べましょうか」
「うん!」
二人がラーメンを出している店の前に行くと、店員さんが雫に話しかけてきた。
「雫さん!久しぶりだね!」
「お久しぶりです」
「お姉ちゃんは元気かい?」
「......はい」
乃愛は何かを感じ取り、ラーメンを注文した。
「塩ラーメン二つ!色んなの食べたいから少なめね!」
「あいよ!」
乃愛は小刻みに振るえる雫の手を優しく握り、心配そうな表情で見つめた。
「雫?」
「......大丈夫よ」
その時、赤髪の女子生徒が雫に声をかけた。
「雫ちゃーん」
「なにかしら」
「一つ言っておこうと思って」
「短めにお願い」
「次の生徒会選挙、女王の座は私が貰うね」
「頑張りなさい」
「チッ、つまんないの」
「雫以外が会長とかあり得ないから」
「お前に関係ないだろ」
「誰に口聞いてんの」
「威張るのは車椅子を卒業してからにしろっての」
その言葉を聞いた雫は立ち上がるが、乃愛に腕を掴まれて、大人しく座った。
「まぁ、選挙が始まるまでは大人しくしといてあげるよ」
そう言い残し、女子生徒は帰っていった。
乃愛は悔しそうにスカートを力強く握りしめ、それを見た雫は悲しい気持ちになった。
「車椅子のお嬢ちゃん」
「はい?」
「さっき雫さんが立ち上がったこと、忘れんなよ」
「え?」
「どんなに辛くても最高の友達がいるってこと忘れんな。ほら!チャーシューおまけしてやったから食え!もちろん雫さんの方が一枚多いけどな!」
「私にももう一枚よこせー!」
雫は自分のチャーシューを一枚、乃愛のラーメンに乗せてあげた。
「食べましょう」
「食べよう!」
その後、みんな満足して、雫の用意したタクシーで帰って行き。
何故か生徒会だけが体育館に残された。
「みんなのおかげで、とてもいい学園祭になったわ。そこで急だけど、今から少しだけ、生徒会の打ち上げをしましょう。今日の学園祭が、生徒会としての最後の仕事だったから」
雫先輩は一人一人にオレンジジュースを手渡ししてくれた。
「乾杯」
オレンジジュースを一口飲むと、雫先輩は睦美先輩を見つめた。
「最近の学校はどうかしら」
「生徒会に入ってよかった。毎日楽しい」
「そう。本当に頑張ったわね」
睦美先輩は涙を我慢しながら話を続けた。
「......うん。まだ、生徒会で頑張りたかった......みんなと仲良くしたかった」
「......お疲れ様でした」
雫先輩が頭を下げると、みんなも頭を下げ、僕も流れで頭を下げた。
「睦美さんは卒業だから、次の選挙が終わっても生徒会には戻れないけれど......その......いつでも雑用しに来なさい」
「うん!ありがとう、会長!」
「明日から生徒会のバッチと紋章を付けることは許されないけど、思い出として持ち帰っていいわよ」
「やった!」
「他の全員は、今私が預かるわ」
ん?もしかして、制服の紋章が金になる前に終わり⁉︎そんなバカな‼︎
「蓮くんも」
「あ、はい」
最後に雫先輩がバッチを外した瞬間、雫先輩は急にフラフラしだし、意識を失い、梨央奈先輩がギリギリで雫先輩の頭を守った。
「千華‼︎救急車‼︎」
「今かけてる‼︎」
「結愛‼︎雫の家に電話‼︎」
「分かった!」
「睦美さんは先生呼んできて!」
「う、うん‼︎」
乃愛先輩は不安のあまり、今にも泣きそうな目をしていた。
「......雫?」
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