手を繋いで歩きたい


学園祭当日。


「蓮!おはよう!」

「おはよう!」

「なんかテンション高いね」 

「高校の学園祭は楽しみだったから!」

「でも1日しかないって寂しいよねー」

「だから1日で楽しみ尽くすんだよ!」

「他の学校の女子高生に鼻の下伸ばさないでよね」

「興味なし!多分!」

「今多分って言わなかった?ねぇ、気のせいだよね」

「気のせい」

「とにかく、今日は一緒に楽しもうね!」

「あ、梨央奈先輩と千華先輩と乃愛先輩がデートチケット使うらしんだよね」

「私、とりあえずそれ破くのに集中するね」

「学園祭ぐらい大人しくしてよ。時間あったら一緒に楽しもう」

「私はおまけなの?」

「あ!もう沢山の人並んでるじゃん!」

「話流すな!」


校門前は、鷹坂高校の学園祭スタートを待ちわびる行列ができていて、熊の着ぐるみを着た人がパンフレットを配っていた。


「熊!中の人誰?」

「辞めときなって、先輩だったらどうするの」

「中暑くない?」


瑠奈はみんなの前で熊の着ぐるみにダル絡みを始めてしまった。

熊の人は瑠奈にもパンフレットを渡し、行列へのパンフレット配りを再開した。


「瑠奈、早く準備しなきゃ。最初僕達がお化け役なんだから」

「生徒会の奴らが来たら、脅かしまくってチビらせてやる!」

「その掃除、瑠奈がしてね」

「やだ!汚い!」


そんなこんなで学園祭の始まりを知らせる、白い煙が上がる花火のような物が鳴り、一気に校内が騒がしくなった。


僕は安っぽいピエロのメイクをされてピエロの衣装を着せられ、黒く塗られた段ボールの壁の後ろで待機している。

段ボールに開けた穴からいきなり顔を出したり、手を出して驚かすシンプルな演出だ。


次々と入ってくるお客さんを驚かしていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「乃愛、大丈夫?」

「大丈夫!レッツゴー!」


千華先輩と乃愛先輩だ。


「食べちゃうぞ〜」


瑠奈の怖がらせ方は、ギリギリ幼稚園児がビックリするレベルのものだ。


「いててててっ‼︎」


瑠奈が段ボールから両手を出すと千華はその腕をグニっと捻った。


「やっぱり瑠奈ちゃんだ」

「お化けに手出すな!バカ!」

「瑠奈だ」

「乃愛先輩はビックリした?」

「全然」


お化けとお客さんが普通に会話しちゃってるよ......


「二人ともつまんない、早く進みな」

「はーい」


二人が僕のところまで来た瞬間、僕は段ボールから勢いよく顔を出した。


「ばぁ‼︎」


瑠奈は思った。

(蓮の脅かし方はギリギリ幼稚園児が驚くレベルだ)


「あっ!蓮!」

「あ、どうも」


この二人、全然驚かない......


「この後私と周ろ!」

「乃愛⁉︎蓮は私と周るの!」

「蓮が決めて」

「んじゃ、最初は乃愛先輩で、次が千華先輩にしましょう」

「まぁ、2番目でも周ってくれるならいいけど」

「なに逆ナンしてるの?」


瑠奈は自分の持ち場から離れ、僕の元へやってきた。


「とりあえず私達は行くねー」


こんなに緊張感のないお化け屋敷でいいのか......


千華先輩と乃愛先輩の後、無言のお客さんが入ってきて、僕はタイミングよく顔を出した。


「ばぁ‼︎」

「きゃっ!」


そのお客さんは熊の着ぐるみを着ていてた。

てか今の声......


「まさかしずっ⁉︎」


雫先輩の名前を言おうとしたら、モフモフの手でビンタされた。


「なんで⁉︎」


そして熊は無言で全力で逃げて行った。


さすがに雫先輩じゃないか。


僕と瑠奈の担当する時間が終わり、僕はメイクをしたまま瑠奈と一緒に生徒会の出し物、わたあめ屋に行くと梨央奈先輩と結愛先輩がわたあめを作っていた。


「売れてますか?」

「蓮くん⁉︎なにその顔!瑠奈ちゃんは手が真っ白だし」

「メイク落とし無くて」

「あとで貸してあげるよ」

「ありがとうございます!」


すると、結愛先輩が僕にわたあめをくれた。


「何味か当ててみて」

「蓮だけズルい!」

「はい、瑠奈ちゃんの分!」 

「さすが梨央奈!」

「んっ!グレープ味ですね!」

「そう。美味しいでしょ」

「いけますね!瑠奈のは何味だった?」

「ん?私のはー、分かんない」

「一口貰うね。ん!りんごだ!」


瑠奈は僕が食べた部分を見つめ、嬉しそうに梨央奈先輩に話しかけた。


「こ、これ永久保存とかできないの⁉︎」

「腐るよ」

「それより、僕っていつ店番すればいいですか?」

「蓮くんは初めての学園祭だからね、今回は楽しみな!」

「いいんですか⁉︎雫先輩に怒られません?」

「雫なんて、ずっと遊んでるよ?」

「え......あの雫先輩がですか?」

「うん!」


その時、乃愛先輩から電話がかかってきた。


「どこいる?」

「生徒会のわたあめ屋です」

「あ、本当だ。私フランクフルト屋に並んでる」

「本当だ。今行きますね」


瑠奈が梨央奈先輩との会話に夢中になっているうちに、僕は乃愛先輩の元へ向かった。


「フランクフルト食べるんですか?」

「うん!蓮も食べる?」

「せっかくだし食べます!」


一緒にフランクフルトを食べたあと、乃愛先輩の車椅子を押して三年生の教室の的当てゲームをしに行った。


「これならボール投げるだけですから、乃愛先輩もできますよ」

「うん!」

「次の方どうぞ!」


一般生徒も、ニコニコと機嫌のいい乃愛先輩を見て、あまり怯えている様子はない。


「蓮、見てて!」 

「はい!」

「とう!」

「お!倒れましたよ!」

「やったやった!」


乃愛先輩は楽しそうにボールを投げ、ふと隣を見ると、熊もボールを投げていた。


「熊さん!」


乃愛先輩が熊を呼ぶと、熊は乃愛先輩を優しく抱きしめてどこかへ行ってしまった。


「あの熊、いろんなとこに居ますね」

「校門前でパンフレット配ってたよね!」

「さっき、お化け屋敷にも来ましたよ」

「なんか噂になってるよ?一クラスずつ周って楽しんでるみたい」

「へー、友達と行動しないなんて誰なんですかね」

「それより見て!あと一球当てれば景品もらえる!」

「頑張ってください!」

「とりゃ!」

「おめでとうございまーす!」


乃愛先輩はお菓子の詰め合わせを貰って、嬉しそうに目をキラキラさせている。


「写真部でーす!」


写真部の人が僕と乃愛先輩のツーショットを撮ると、乃愛先輩は興奮気味に手に力を入れて立ち上がろうとした。


「その写真貰えるの⁉︎」

「乃愛先輩、座ってください」


乃愛先輩の体を掴んで座らせると、写真部の人が説明してくれた。


「学園祭が終わったら、すべての写真が一枚10円で売られますので楽しみしててください!お声がけしないで撮ってる写真もいっぱいあるので、是非全部の写真を確認してくださいね!」


一枚10円か、結構買えるな。


その後、乃愛先輩とお揃いのビーズのブレスレットを作り、校内をグルグルしている時、乃愛先輩はいきなり悲しそうな声で言った。


「できれば車椅子じゃなくて、手を繋いで歩きたかったな......」

「え......」


こういう時、なんて言えばいいのか僕には分からない。

その時、手にモフっとした感触を感じた。


「あ」


熊が車椅子を握り、無言で僕を見て頷いた。


僕は乃愛先輩の左に立ち、左手を握った。


「え?」

「行きますか!」

「だ、誰が押してるの?」

「熊さんが押してくれてます」

「え!熊さんありがとう!」


熊は乃愛先輩の頭を優しく撫で、ゆっくり車椅子を押してくれた。


それから手を繋いで学園祭を楽しんでいると、千華先輩から電話がかかってきた。


「もしもし」

「そろそろ私とも周ってよ!」

「わ、分かりました」


乃愛先輩は熊の人に任せて、僕は千華先輩がいる美術室へ向かった。


その頃乃愛は、熊にお礼を言っていた。


「もう一人で大丈夫だよ。ありがとうね!」


熊は乃愛の頭をポンポンしてどこかへ消えていった。


「あ!乃愛先輩!蓮見なかった?」

「瑠奈じゃん」

「蓮がいないの!」

「えっとね、屋上」

「屋上か、行ってくる‼︎」


(瑠奈は蓮一直線だなー。今日、屋上は立ち入り禁止で開かないけど)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る