好きにしていいよ♡


土曜日の昼

これから梨央奈先輩と、近くの図書館で待ち合わせだ。


待ち合わせ時間の13時ピッタリに合わせて図書館に向かうと、梨央奈先輩は図書館の入り口で小さく手を振ってくれた。

梨央奈先輩は白ベースの爽やかな服を着ていて、とてつもなく可愛かった。

制服もスカートだけど、私服のスカートはまた一味違う。


風よ吹け‼︎......僕はなにを願ってるんだろ。


「お待たせしました」

「私も今着いたとこ!」


なにこの会話!デートみたい!


「図書館で話すんですか?」

「そんな非常識じゃないよ?ゲームセンターでも行く?」

「え、話をするんですよね」

「いきなり話を始めるのもなんだし、生徒会メンバー同士、もっと仲良くなろうよ!」

「は、はい」


二人でゲームセンターに向かい、ゾンビを撃つゲームで遊ぶことになった。


「僕、これ苦手なんですよね」

「私なんか初めてだよ!」

「んじゃ、なんでこれ選んだんですか」

「目に入ったから!」


ゲーム機の中に入り、黒いカーテンを閉めた。


「このメガネ掛けるの?」

「そうみたいですね」


今時は3Dメガネを着けてやるんだ。怖さ増すじゃん......


「よし!スタート!」

「ゾンビ来ましたよ」

「あ!倒せた!」


何体かゾンビを倒していると、巨大な蜘蛛が現れた。


「キャー‼︎」

「うわ!ビックリした!」

「無理無理!やだ!」

「梨央奈先輩⁉︎」


梨央奈先輩はゲームを放棄して、僕の左腕にしがみついて、画面を見ないようにした。


「早く倒して!」

「無理だって!二人でやるゲームなのに!」

「倒した⁉︎ねぇ!倒した⁉︎」

「僕達が倒されたよ」

「早く出よ!」

「うん」


ゲーム機を出ると、梨央奈先輩はニコッと笑った。


「途中から敬語忘れてたよ」

「ご、ごめんなさい!」

「やっぱり、遊ぶとすぐ打ち解けるでしょ?」

「そうですね」


梨央奈先輩、なんだかいつもの笑顔と違う気がするな。


「次はなにする?」

「んー、メダルゲームでもします?」

「あれは指が黒くなるから嫌なの」

「へー、したことあるなんて意外です」

「一年生の時に雫と......なーんでもナッシング‼︎」

「雫先輩ってゲームとかするんですか⁉︎」

「なんでもないって言ったでしょ?空気読みなさい!」

「あ、はい」


雫先輩がゲーム......想像つかね〜‼︎「このメダル10枚を投資する時間に、教材の文字を何文字読めると思ってあるのかしら。無駄なのよ、ゲームなんて」とか言いそうじゃん‼︎いや、絶対言うじゃん‼︎


「んじゃタンバリンの達人でもします?」

「あー!昔流行った音ゲーね!やろっか!」

「はい!」


その後も、普段やらないようなゲームを遊び尽くし、気づけば17時を過ぎていた。


「梨央奈先輩、もう6時なりますよ。話す時間無くなりません?」

「んじゃ、蓮くんの家でゆっくり話そう!」

「僕の家ですか⁉︎」

「千華も行ったんでしょ?私がダメな理由はないよね?」

「ま、まぁ......」


蓮と梨央奈が二人で蓮の家に向かう途中、買い物帰りの瑠奈は、たまたま二人が一緒に歩く姿を見てしまった。


「蓮......」


瑠奈は二人と距離を取りながら尾行し、蓮に電話をかけた。


「あ、瑠奈からです。もしもし」

「今、なにしてる?」

「えーっと......」


梨央奈先輩と二人とか言ったら面倒なことになりそうだな......


「お母さんと買い物して、今帰ってるとこ」

「そっか」


瑠奈は電話を切った。


「なんの電話だったの?」

「よく分かりません。いつもの構ってちゃんだと思います」

「瑠奈ちゃん、蓮くんのこと好きなんだね!」

「ま、まぁ......そうみたいですね」


そして二人で蓮の家に入ると、瑠奈は血が出るほどの強さで下唇を噛んだ。


「ただいまー」

「おじゃまします!」

「お帰り!あら、また違う女の子」

「お母さん、変な言い方しないでよ。生徒会の梨央奈先輩」

「いつも蓮がお世話になってます!」

「こちらこそ!蓮くんとは仲良くさせていただいてます!」


挨拶を済ませて、梨央奈先輩は僕の部屋に入ると、いきなり僕のベッドにダイブした。


「気持ちい〜!」

「梨央奈先輩、いきなり男子のベッドにダイブとか、勘違いしますよ?」

「勘違いしてみる?」

「本気にしますよ?」

「さて、話しようか!」


やんわり断られた僕の気持ちは一旦置いておこう。


梨央奈先輩はベッドに座り、僕は床に座った。


「話ってなんですか?」

「雫のこと、実はいい人かもって言ってたでしょ?」

「はい」

「雫の積み上げてきた物を考えると、私が真実を伝えることはできないけど、ヒントその1」

「ヒント?」

「雫の行動には全て意味がある!」

「答えみたいなヒントですね。意味分かりませんけど」

「瑠奈ちゃんに厳しくするのも、千華を一度生徒会から外してまた入れたのにも、勿論蓮くんを生徒会に入れたのにも意味があるの」

「どんな意味ですか?」

「それは言えないよ!」

「んじゃ、昨日の涙の理由はなんですか?」


ずっと気になっていたことを聞くと、梨央奈先輩は暗い表情をして俯いてしまった。


いつもニコニコしてる人がそんな顔しないでよ......胸が苦しいよ。


「私が泣いたこと、絶対に誰にも言わないで」

「言うつもりないですよ。でも、もう作り笑いは辞めたらどうですか?」

「え?」

「今日一日遊んで確信しました。梨央奈先輩、遊んでる時、凄い楽しそうに笑ってました」

「作り笑いを辞めるなんてダメだよ......雫の前で笑ってる人が居ないと、雫が可哀想だから」

「可哀想なのは梨央奈先輩です。無理に笑って、よく分からないですけど、色んな物を背負ってる気がします」

「......」

「誰にも言わないので、僕の前だけでは素直な梨央奈先輩でいてくださいよ。梨央奈先輩が背負ってる物、僕が半分背負います」


梨央奈先輩は顔を上げると涙を流していて、いきなり僕に抱きつき、声を出して泣き出した。


「り、梨央奈先輩?」

「なに?」

「今日仲良くなったばっかりで抱きつかれたら......緊張しちゃいます」

「離れたくない......」

「え⁉︎」

「明日も来ていい?」

「え、えっと、ゲーセンに居る時に千華先輩からメッセージが来て、明日は千華先輩と遊ぶことに......」

「やだ!私と居て......」


これは......これは〜⁉︎⁉︎⁉︎


その時、僕の携帯のリズミカルな着信音が鳴った。


「せ、先輩、電話鳴ってるので、一回離れてくれませんか?」

「このままでも電話はできる」

「は、はい」


ん?非通信だ。


「もしもし」


誰も喋らないぞ?


「もしもーし。もしもし?......あ、切られました」

「誰から?」

「非通信でした。あ、またかかってきました。もしもし、誰ですか?......切られました」

「イタズラかな?」

「わっ!またです!」


それから50回は連続で非通信からの無言電話がかかってきて。いつの間にか、梨央奈先輩に抱きつかれている状況にも慣れていた。


その頃瑠奈は、蓮の家の前の電信柱の裏で、千華に電信をかけていた。


「もしもし」

「あれ?瑠奈ちゃん?なんで番号知ってるの?」

「前に蓮の携帯を勝手に見た」

「なにそれ怖い」

「今から5分後に、梨央奈先輩に電話して」

「なんでー?」

「大事な話があるみたい」

「分かった」


そして5分後。


「まーた電話きましたよ。もしもし?」


そして梨央奈先輩の携帯が鳴った。

梨央奈先輩は、僕にしがみついたまま電話に出た。


「もしもし?」

「大事な話って?」

「なにそれ、なにもないよ?」

「あれ?おかしなー。まぁいいや!バイバイ!」


梨央奈先輩がポケットに携帯をしまって僕に強くしがみついた瞬間、電話の相手が喋った。


「随分近い距離から梨央奈先輩の声がしたけど、なにしてるの?」

「え?瑠奈⁉︎なんで非通信でイタズラとかするんだよ!」


ピンポーン


家のチャイムが鳴り、携帯からお母さんの声が聞こえてきた。


「あら瑠奈ちゃん!蓮に会いにきたの?」

「はい」

「上がって上がって!」

「お邪魔します」


僕は咄嗟に梨央奈先輩を突き放そうとした。


「せ、先輩!離れてください!」

「なんで?なんでいきなり突き放そうとするの?」


ガチャ


部屋のドアが開き、恐る恐る振り返ると、虚な目をした瑠奈が立っていた。

瑠奈は手に持っていたエコバッグを梨央奈先輩の顔に投げつけ、梨央奈先輩の髪を掴んで床に押し倒した。


「瑠奈‼︎なにやってんの⁉︎」

「殺さなきゃ......こいつ殺さなきゃさ、蓮が汚れちゃう」

「何言ってるの‼︎」

「気づいたんだよ。千華先輩ともそうだけどさ、護身術使えるからなに?不意を突いてこうすれば、何もできない女の子じゃん」

「私、この状態からでも瑠奈ちゃんのこと倒せるよ?」

「これでも?」


瑠奈は梨央奈先輩の首にカッターを当てた。


「瑠奈⁉︎辞めなってば‼︎」

「蓮、動かないで?最初は梨央奈先輩。次は千華先輩。別に、ライバルごっこする必要なんてなかったんだよ。私馬鹿みたい。早くこうして、蓮と二人っきりなればよかった」

「どうしちゃったんだよ......」

「もう我慢できないの‼︎蓮が......私の蓮が他の女といるのが許せない‼︎頭おかしくなりそう‼︎」


もうおかしい。絶対おかしい。


「梨央奈先輩さ、謝ってよ。蓮を汚したこと。謝った後に殺してあげるから」

「謝らない。蓮くんは瑠奈ちゃんだけのものじゃない」


梨央奈先輩は不意を突いて瑠奈の腕を掴むが、瑠奈も力を入れて、本気で梨央奈先輩の首を切ろうとしている。


「る、瑠奈‼︎」


僕が瑠奈の腕を掴むと、瑠奈は急に大人しく梨央奈先輩から離れ、部屋のゴミ箱を逆さまにして頭からゴミをかぶり、ゴミ箱を梨央奈先輩に投げつけた。


「え、なにしてるの?」

「私は蓮の全てを愛してる。切られた爪だって、使用済みティッシュだって」 


鼻噛んだだけだって、今すぐ大声で叫びたい。


「髪の毛一本だって、全部愛してるの。梨央奈先輩は、そこまで蓮を愛せるの?」


梨央奈先輩はニコッと不気味に微笑み、瑠奈にゆっくり近づいた。


「く、来るな‼︎」

「私も気づいたの。私には蓮くんが必要......私には蓮くんしかいないって。私達の愛を邪魔しないでもらえるかな」


待ってください梨央奈先輩。なんだか瑠奈と同じ匂いがします。嘘だと言ってください。


「は?でも、蓮が梨央奈先輩を好きなはずない」

「そんなの関係ないの。私達は運命で、出会うべくして出会ったんだから。蓮くんも、すぐに私のことが好きって気づくよ」


実はさっき、ちょっと好きかもとか思ってました。はい。


「なに言ってるの‼︎私は昔からずっと一緒に居た‼︎誰よりも好きな時間は長い‼︎蓮と運命で繋がってるのは私‼︎」

「大事なのは長さじゃなくて......」


梨央奈先輩は僕に抱きつき、軽くキスをした。


「濃さだよね♡蓮くん♡」

「は......はい」


ぬあ〜‼︎こんな可愛い先輩とキスしちゃった〜‼︎‼︎なんでだ、千華先輩の時もドキドキしたけど、梨央奈先輩はもっとヤバイ‼︎


瑠奈がカッターを力強く握って、梨央奈先輩の背中目掛けて動こうとした時、部屋のドアが勢いよく開いて、瑠奈にぶつかった。


「ぐなっ‼︎」

「ぐな?あれ?瑠奈ちゃんの声もしてなかったか?」

「お父さん......瑠奈ならドアの裏で、顔押さえながらもがいてるよ」

「あー!ごめんね瑠奈ちゃん!」

「だ、大丈夫」

「そうか!さっきから聞いてれば蓮の取り合いか?蓮もハッキリしてやれよ」


瑠奈と梨央奈先輩は僕を見つめて黙っている。


「そ、そんなすぐ決められないよ」 

「んじゃ、君!今日泊まっていきなさい!」

「え⁉︎いいんですか⁉︎」

「お父さん⁉︎」

「んで、明日は瑠奈ちゃんが泊まる!それでどっちか決めろ!」

「なんで私が今日じゃないわけ⁉︎そんなの不公平‼︎」

「運命で繋がってるなら大丈夫だろ!そんなことより瑠奈ちゃん。早くヘルメット返してくれ」

「あれ、邪魔だから売りました」

「なっ.......なんだと......俺の小遣いで頑張って買ったヘルメット〜‼︎」


お父さんは涙ぐみながら自分の部屋へ帰っていった。


「......あのー、本当に泊まるんですか?」

「泊まりたい!」

「る、瑠奈は?」

「いいよ。蓮のお父さんが言ってたように、運命で繋がってるから明日でいい」

「今日中に私の男にするから、明日は無いよ」

「馬鹿言わないで。今日は帰ってあげるけど、夜に電話するから」


瑠奈は梨央奈先輩をガッツリ睨んで帰って行った。


これは面倒くさいことになった。


「蓮くん」

「はい?」

「明日、瑠奈ちゃんとお泊まりできないよ」

「なんでですか?」

「私、明日も泊まるから」


なんで僕の周りの女性は、こんなにも自分勝手なんだろうか......

でも、僕は確実に梨央奈先輩に惹かれてる。なんか、支えてあげたくなる。


それからみんなでご飯を食べ、僕が先にお風呂に入り、次に梨央奈先輩がお風呂に入った。


「お風呂ありがとう!」

「いえいえ......は⁉︎」

「なに?」


梨央奈先輩は、体にタオルを巻いただけの格好で戻ってきたのだ。


「ふ、服着てくださいよ!」

「だって、着替えないんだもん」

「僕のジャージ着てください!」

「ありがとう!あっち向いてて!」


僕は壁を見つめ、梨央奈先輩がジャージを着るのを待った。


「いいよ!」

「ぶかぶかですね」

「なんか、ノーパンでノーブラだとソワソワするね」

「想像しちゃうので言わないでください!」

「それ〜!」

「うわっ!」


梨央奈先輩は、ベッドに座る僕を押し倒すと、耳元で吐息混じりに囁いた。


「想像じゃなくて、自分の目で確かめてもいいんだよ♡」

「そ、それは......」

「恥ずかしいけど......蓮くんだけ特別♡」


初めての状況に、思春期の僕は爆発寸前だ。


「早く♡好きにしていいよ♡」

(うーん。勇気が無いのかな?私も経験無いけど、蓮くんのためにリードしなきゃ!)


「うっ」


梨央奈先輩は僕の首を叩き、気絶させた。


「気絶してる間にってのは可哀想だったかな?でも、結果が同じなら問題ないよね......蓮くん♡」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る