勝てるといいね
「雫‼︎蓮が倒れた‼︎」
「知ってるわよ」
千華は慌てて生徒会室にやって来たが、雫は冷静に書類に目を通していた。
「なんでそんな冷静なわけ⁉︎同じ生徒会メンバーでしょ⁉︎仲間じゃん‼︎」
「仲間?」
「そうでしょ⁉︎」
「私達全員が、一致団結して何かを成し遂げたことがあったかしら」
「......」
「意識はあるのでしょ?」
「う、うん......」
「水分取らせて、残りの分を走らせなさい」
「......鬼」
「なに?」
「雫は人じゃない‼︎最低だよ‼︎」
千華は生徒会室を出て行き、自販機でスポーツドリンクを買い、タオルを水で濡らして蓮の元に走った。
「梨央奈!蓮は大丈夫⁉︎」
「大丈夫だよ」
「蓮、これ飲んで!」
「ありがとうございます」
濡れたタオルを蓮の首に巻き、蓮は水分補給して落ち着いた。
「蓮......雫は最後まで走れって......」
「はい......頑張ります」
限界だ......歩いてでも100周済ませないと。
僕は早歩きでグラウンドを回り始めた。
「梨央奈......」
「ん?」
「雫はおかしいよ」
「んじゃ、千華が正しいと思うことをしてみたら?」
千華は、梨央奈の言葉を聞き、いつもと変わらない笑みを見て決意した。
「私、雫と戦う」
「勝てるといいね」
その言葉を聞いた後に梨央奈の笑みを見て、千華は全身に鳥肌が立った。
「梨央奈の笑みって、その時々で意味合いが変わる気がして怖いね......」
「私の笑みに意味なんてないよ?」
「んじゃ、なんでいつも笑ってるの?」
「だから、意味なんてないって」
「そっか」
梨央奈は生徒会室を見上げて、グラウンドを見下ろす雫に笑みを見せた。
蓮は100周走り終わり、グラウンドに座り込むと、慌てた瑠奈が駆けつけた。
「蓮‼︎」
「瑠奈、どうして学校に?」
「蓮が倒れたって聞いたから......大丈夫?」
「大丈夫だよ」
「瑠奈ちゃん」
「お前が蓮をいじめたのか‼︎」
「違うよ」
「んじゃ梨央奈‼︎お前か‼︎」
梨央奈先輩はニコニコしながら瑠奈に近づき、瑠奈の髪の毛を掴んだ。
「どうして自分のせいだと思わないのかな?」
「雫先輩も言ってたけど、なんで私のせいなわけ?てか、離してよ」
「みんなはもっと辛い思いしたんだよ?これくらい我慢しなよ」
「なに笑ってるの?......気持ち悪い」
雫先輩は歩いて僕達の元へやってきた。
「梨央奈さん。離してあげなさい」
「分かった」
「蓮くん。明日は走らなくて済むといいわね」
僕は疲れ果てて言葉が出ず、グラウンドに座り込むことしかできなかった。
去って行く雫先輩に向かって、眉間にシワを寄せた瑠奈が走って行くと、瑠奈は梨央奈先輩に背中を殴られて転んでしまった。
「がっ......うぅ〜......」
雫先輩は立ち止まり、苦しむ瑠奈を見下ろした。
「蓮くんを見なさい。あの疲れ切って辛そうな表情。貴方が掃除をサボったから罰を与えたのよ」
「......私がサボったから......」
「明日も貴方がサボれば、蓮くんは同じ苦しみを味わうことになるわよ」
そう言うと、雫先輩と梨央奈先輩は帰って行った。
「瑠奈ちゃん」
「なに?」
「雫、やりすぎだと思わない?」
「思うよ。だからなんだっていうの?」
「私がこの学校を変える。瑠奈ちゃんも手伝って」
「私とアンタはライバルでしょ」
「蓮の為に、今は手を組もう」
千華先輩が瑠奈に手を差し伸べると、瑠奈はその手を握った。
「二人共やめなよ......雫先輩に反抗しても、エスカレートするだけだよ」
「でもこのままじゃ、みんな辛い思いするんだよ?」
「千華先輩と瑠奈も辛い思いをするかもしれないじゃないですか」
「私は大丈夫!瑠奈ちゃんも大丈夫だもんね?」
「うん!蓮の為だもん!」
その後僕は、二人に支えられて帰宅した。
翌日、珍しく一人で登校すると、靴を履き替えている時、先に学校に着いていた林太郎くんが息を切らせて走ってきた。
「蓮!瑠奈と千華先輩が!」
林太郎くんに連れられて体育館に行くと、二人はステージに上がっていて、たくさんの生徒がそれを見ていた。
体育館の後ろには、梨央奈先輩と雫先輩が立っていて、凄まじい緊張感が体育館中を包んでいた。
「私は生徒会の長瀬千華!私は、今の生徒会のやり方を許せない!このまま会長の下で怯えた学校生活を送っていていいの⁉︎みんなも立ち上がろうよ!私はこの学校を変える‼︎」
「私は一年の大槻瑠奈!私は大好きな蓮の為に生徒会を潰す‼︎」
瑠奈〜、こんな場所で勘弁してくれ〜。
「はぁ⁉︎なに抜け駆けして告白してるわけ⁉︎」
「先に言った人の方が蓮のこと大好きなんだよ!千華先輩の負け〜」
「お前〜‼︎」
「なんだやるのか⁉︎」
ダメだあの二人。雫先輩が手を出す前に共倒れだ。
その時、雫先輩は梨央奈先輩からマイクを貰い、ステージ上の二人に話しかけた。
「落ち着きなさい。千華さん、どうやってこの学校を変えるかしら」
「雫を生徒会長の座から引きずり下ろす‼︎」
「いいわよ。千華さんが生徒会長をやってみるといいわ」
「え?」
「どう学校が変わるか見てあげる」
雫先輩はマイクを梨央奈先輩に渡して、体育館を出て行った。
「よし!今日から売店と食堂は全員が使っていい!一年二組はトイレ掃除も無し!瑠奈ちゃんも掃除しなくていい!みんな平等に、明るく楽しい学校生活を送ろーう‼︎」
体育館に居た生徒は、雫先輩からの解放に素直に喜んだ。
もしかして僕が頑張らなくても、千華先輩が居れば快適な高校生活が送れるんじゃないか?......これは、最高の展開だ‼︎
「ふふっ」
梨央奈先輩の笑い声が聞こえた気がして振り向くと、梨央奈先輩は僕の真後ろまで来ていた。
「うわっ!ビックリした......」
「学園生活、楽しもうね」
「は、はい!」
それだけ言い残し、梨央奈先輩は体育館を出て行った。
梨央奈は生徒会室で、自分の私物をまとめる雫に会いに行った。
「予想外の反逆に動揺してる?」
「してないわよ?」
「でも、失敗しちゃったね」
「なにがかしら」
「トイレ掃除も、走らせたのも、全部無駄になっちゃったじゃん。残ったのは罪悪感だけ」
「あまり、不確定な憶測は立てないことね」
「はーい。会長」
その日、千華先輩が会長になって問題はすぐに起きた。
クラスメイトが、瑠奈への不満や悪口を堂々と言うようになったのだ。
「瑠奈、あまり気にしないようにね」
「そうそう。気にすることないぞ」
僕と林太郎くんは、瑠奈が暴れ出さないように落ち着かせていた。
「私がイライラしてるのは、そんなことじゃない」
「んじゃ、なに?」
「一緒に頑張ろうとか言って、生徒会長になったら私は用済みってのが気に食わない‼︎」
そんな話をしていると、千華先輩は飴が大量に入った袋を持って現れた。
「瑠奈ちゃん!これあげるよ!」
「は?」
「一緒に戦うって決めてくれた。瑠奈ちゃんは仲間だから!」
「......千華先輩〜!」
瑠奈はさっきまでの態度が一変し、千華先輩に抱きついて、胸元に顔をスリスリしだした。
「仲良いのか悪いのかハッキリしてくださいよ」
「仲は悪いけど、仲良い時もある!」
「そうそう。千華先輩が蓮を誘惑したら怒るけど、それ以外の時は仲良し!」
「でも私、蓮と付き合いたいんだけど」
僕は気まずくなり、教室を出ようとすると、千華先輩は僕の顎をクイッと上げた。
「私と付き合いなさい。これは生徒会長命令です」
「雫先輩の真似してるんですか?迫力レベル2ですね」
「なーんで!いけると思ったのに〜。雫のレベルは?」
「2億です」
「諦めな。蓮は私と付き合うんだから!」
「えっ。そんなつもりないけど」
瑠奈は僕の目の前に立ち、僕を見上げた。
「大丈夫だよ?私と蓮は運命で繋がってるの。だから大丈夫。今はその気が無くても、いつか私のことが好きなんだって気づけるから。私はずっと待ってるよ?蓮が告白してくれるのを」
「んーまっ♡」
いきなり千華先輩に左頬をキスされて体が熱くなった。
「な、なにするんですか⁉︎」
「私は待てないな♡」
そう言って、僕に抱きついて唇にキスをした。
なななななー⁉︎なんだー⁉︎みんな見てる‼︎無理‼︎恥ずかしい‼︎死ぬ‼︎
「死ね‼︎」
「ふぁー⁉︎」
瑠奈は千華先輩の首目掛けてカッターを振ったが、千華先輩はサラッと避けてみせた。
「る、瑠奈!カッターしまって!」
「ダメだよ。二回も......蓮と二回もキスした......なんで蓮は拒まないの?やっぱり千華先輩が好きなの?ねぇ、私が好きなんじゃないの?違うの?私は蓮が好き。世界一大好き......私達の運命を邪魔する奴なんて.......死んじゃえばいいんだ」
怖い怖い怖い怖い怖い‼︎薄々感づいてたけど、瑠奈ってヤンデレだよね⁉︎病んじゃってるよね⁉︎
普段の気性荒い感じで薄れて見えるけど、根元は病んでますよね⁉︎
「蓮、瑠奈なんだけど、千華先輩を追いかけて行ったぞ?」
「なんで止めないの⁉︎」
「いや、カッター持ってたし」
「千華先輩が殺されちゃうよ⁉︎」
「でも、すぐに瑠奈の苦しそうな声が聞こえたぞ?」
「え?」
廊下を見ると、想像通り瑠奈は倒れていた。
「瑠奈じゃ勝てないって言ってるじゃん」
「......私にも護身術教えて‼︎」
「む、無理だよ」
「これは蓮をあの女から救うためなの。強くならなきゃ......明日、蓮の家行く‼︎」
「分かった分かった。親も瑠奈に会いたがってたし、少しだけね」
「やった!」
(久しぶりに蓮と二人きり⁉︎これは付き合えるチャンスを神様がくれた感じ⁉︎絶対に千華先輩なんかに渡さないんだから‼︎)
そして放課後。
千華先輩から、今日は仕事なしとメッセージが届き、瑠奈と二人で帰宅した。
「んじゃ明日行くからねー!」
「はーい」
翌日
ピンポーン
「はいはーい!今出まーす!」
「はじめまして!長瀬千華です!蓮のお母様ですか?私、蓮の彼女候補です!」
「彼女......候補?......えー⁉︎上がって上がって!蓮、まだ寝てるかもだけど、部屋で起きるの待ってあげて!」
「はーい!」
(ふーん♡寝てるんだ♡)
千華は蓮の部屋に案内され、寝ている蓮のオデコにキスをしている写真を撮った。
「んあ〜」
「あ!起きた?」
「......」
寝起きのボヤけた視界でも分かった。
「千華先輩⁉︎」
「大声出さないの♡」
千華先輩は僕のベッドに潜り込んで抱きついてきた。
「うへへ♡暖か〜い♡」
「は、離してください!てか、なんで家が分かったんですか⁉︎」
「瑠奈ちゃんと蓮を運んできたじゃん」
あれか〜‼︎ちょっと待て......今日って瑠奈も来るよな⁉︎
「ち、千華先輩!帰ってください!」
「や〜だ♡」
ピンポーン
チャイムが鳴って2分程経った時、部屋のドアが開いた。
「蓮!起きて〜!......千華先輩、なにしてんの?」
「羨ましいでしょ♡お泊まりしたんだ♡」
「してませんよね⁉︎」
「昨日の夜、どうしても会いたいって言われて来たら、いきなりベッドに押し倒されて♡初めてだから優しくって言ったのにさ?蓮ったら容赦無くて♡」
瑠奈は恐ろしい形相で僕の本棚から、大量の本を投げつけてきた。
「きゃ〜♡」
「瑠奈!やめてやめて!」
「あれ?蓮、ズボン履いてない〜♡」
「昔から寝るときは履かないんですよ!ちょっ⁉︎触らないでください‼︎」
「離れろ〜‼︎」
蓮の母親は、三人の声と激しい物音を聞いてニヤニヤしながらお茶を飲んでいた。
「修羅場ね〜」
部屋中の物を投げまくり、瑠奈は疲れて大人しくなった。
「瑠奈、千華先輩の言ったことは嘘だからね?」
「でも、同じベッドに入ってるのは事実‼︎」
「そ、そうだ!千華先輩も居るし、護身術教えてもらいなよ!」
「そうだね。絞め技とかも学べたら、蓮を掴んで離さないこともできる。無理矢理真実を吐かせることだって」
「も、目的変わってるよ?」
千華先輩はベッドから出て、格闘技の構えを見せた。
「教えてあげる!でも、瑠奈ちゃんが気絶したら終わり!」
「千華先輩⁉︎部屋でやらないでください!」
「あ、蓮は目瞑っててね。あまり見られたくないから」
すると瑠奈は、突然大声を出した。
「蓮のお父さ〜ん‼︎ヘルメット、プリーズ‼︎」
お父さんは、バイクのフルフェイスヘルメットを持って部屋に入ってきた。
「瑠奈ちゃん久しぶりだね!はい、ヘルメット!」
「ありがとう!」
瑠奈はヘルメットをかぶって、戦闘態勢に入った。
「フルフェイス‼︎」
「瑠奈?そんな発音良く英語っぽく言ってもカッコよくないよ?」
チビがフルフェイス被ると二等身感が......
「蓮!目閉じて!」
「は、はい!」
目を閉じた瞬間、ドンッ!と大きな音が聞こえて目を開けると、瑠奈はヘルメットをかぶったままドアに背中を着いて、完全に気絶していた。
「な、なにしたんですか⁉︎」
「さぁ!邪魔者は死んだし、イチャイチャしよ♡」
「死んだの⁉︎うっ、うぁ〜‼︎」
千華先輩は僕をベッドに押し倒し、何度もキスしてきた。
時々、舌の先端が口に入ってきてエロすぎる......
僕はこんな青春望んでなかった〜‼︎‼︎
キスされすぎて、若干唇が腫れてしまった。
数時間後に瑠奈は目を覚まし、寝ぼけた様子でヘルメットをかぶったまま千華先輩と帰って行った。
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