暗殺者として育てられ、殺すこと以外の生き方を知らない少女・時雨。
命を賭して女帝ゼルディアへ挑んだ彼女を待っていたのは、予想もしなかった日々でした。
温かな食事。
安心して眠れる部屋。
美しい街並み。
任務のためではなく、ただ楽しむために読む本。
人生で初めて満腹になるまで食べ、暮らしの中にある小さな喜びを知っていく時雨。
その姿を通して、彼女がこれまで与えられずにきたものの大きさが、静かに胸へ迫ります。
そんな時雨へ、ゼルディアは惜しみなく手を差し伸べます。
安全も、居場所も、欲しい物も。
過去も罪も受け入れ、傷つけるものから守り、どんな姿になっても愛し続けると告げる。
けれど、愛を知らずに生きてきた時雨にとって、そのあまりにも強く深い想いは、簡単に理解できるものではありません。
なぜ、そこまで自分を求めるのか。
なぜ、何も持たない自分へ与え続けるのか。
そして、ゼルディアが差し出す愛を受け入れた先に、何が待っているのか。
生まれた国や世界が違えば、当たり前とされる価値観も変わる。
幸福も、自由も、誰かを愛する方法さえ、同じ形になるとは限りません。
時雨が初めて触れる日常の温かさに安堵しながらも、予測できないゼルディアの言動と、少しずつ変化していく二人の距離から目を離せませんでした。
これは救いなのか。
それとも、まだ名付けることのできない何かなのか。
ゼルディアの愛が時雨をどこへ連れていくのか。
最後の最後まで気を抜かず、見届けていただきたい物語です。