運命の相手(仮)と憧れの人が修羅場な話。

「あっ、ゆりさんからメッセージだ。えっと、『柚希がそちらに行ってるからよろしく頼む。私もそっちに行きたいが……。こちらも用事があるからすまない。』ですか。

 はは。相変わらず、ゆりさんはこまめに連絡くれますね。えっと……。『了解です。今回は残念ですが、また時間のある時でもご一緒しましょう。』と、いや……。何か文面が堅苦しいから最後は『!』の方がいいのか?」


「…………。」



 引き続き、大橋さんとの昼休み。


 途中から自分の世界に入ってしまった。若干様子のおかしな大橋さんを横目に、俺は昼食を食べ進めていたのだが。


 ちょうど最後のパンに手を伸ばしたタイミングでLINEの通知音が鳴り、その音に反応した大橋さんがスマホ画面に目を向けた為、俺はその相手が先程まで話をしていたゆりさんという事もあって、その内容とそれに対する返信をその場で行ったのだった。


 正直、誰かといるタイミングで連絡を返すのはマナー違反だと聞いた事もあるのだが、流石に(画面を開きっぱなしで)既読が付いたメッセージに間隔を開けて返事するのは、それこそマナー違反だと思ったので、俺は端的にまた少しの社交辞令も込めて返信した。



「(でも、何かLINEだと文面が堅苦しくなるって言うか……。文字と句読点だけの文になっちゃうんだよな。家族に対しては別に構わないんだけど、俺も絵文字とかスタンプとか使っていった方が良かったりするのか?)」



 俺は家族以外と連絡を取り合う事があまり無く、その辺りの良し悪しがよく分からないのでそんな事を考えていると……。シュポ!


 すると、すぐにゆりさんから返信があり、その内容が色んな意味で衝撃的で……。



「…えっ?『じゃあ、明後日の昼休みにでも一緒にどうかな?場所は屋上でよろしく♪』

って、これは……。もう決定事項なのか?

 ま、まあ、別に断る理由はないんだけど。でもあれ?これって俺とゆりさんだけで?」



 文面からは日時と場所が指定されているのみで、最後の『♪』からマイナスな意味合いのお誘いでない事は間違いないのだが……。


 社交辞令のような返答に対して、日時と場所指定で返答されてしまった為、どうにも断り難い状況になってしまっている。


 そして、ゆりさんからの返信に躊躇した俺が若干の間だけ固まっていた所……。



「お、おほん!中峰くん?もし良かったらですけど……。その昼食の会に私も参加しましょうか?い、いきなりでゆりちゃんと二人きりの昼食は厳しいですもんね?ねっ!?」


「えっ?あ、ああ……。そうですかね?」


「そうですよ!で、では!ゆりちゃんには私の方から連絡しておきますね!『明後日は私も一緒です。』と、ふぅ……。これでヨシ!」


「え、えと……。明後日の件はとりあえず了解したんですけど……。それで大橋さんは何の話があったんですか?確か何か話したい事があると先程言ってましたが……。」


「えっ?あ、ああ……。そうですね。うーんと、何を話したかったんでしたっけ?ちょっとド忘れしちゃったので……。もし思い出せたらお話しさせてもらいますね?」


「え?あ、ああ……。はい。」



 それから取り留めのない話を続けながら大橋さんと昼休みを過ごして、途中合流した直輝が大橋さんから冷たい目で見られたり、それに喜ぶ直輝が気持ち悪かったりと色々あったのだが、意外と自分の中でこんな日常もしっくりと来る感覚があって……。


 遠くから憧れていただけであった大橋さんの存在が、何だか身近に感じられたような。そんな不思議な気持ちにさせられた。



 そして、何事もなく昼食が終わり、昼休みが終わる間際。丁度そんなタイミングで。



「あー。中峰ー。昨日やった宿題の続き、アレ今日の夜にもやるから予定空けといて。料理以外の家事は私がやっとくから……。アンタはご飯と課題の準備だけしといて。」


「あっ、小川さん。それは別に構わないんですけど……。先に食べられない物を聞いておいていいですか?昨日まで問題なかったですけど、予め苦手な物とか食べられない物は確認しておきたいので。魚介系の生食はあまり好みではないみたいなのでも大丈夫なので。」


「ん。よく見てんじゃん。まあ、アンタが言う通り、魚は生ではほとんど食べたくない。

 絶対に食べれない訳じゃないけど、極力は焼いてから食べたい感じ。それ以外だとグリーンピースが苦手って位でアレルギーとか特にないから……。そこはアンタに任せる。」


「分かりました。生食の魚介類とグリーンピースは今後食事に入れないようにします。

 でも、良かったです。小川さん、苦手な食べ物が少なくて。野菜も残さずにちゃんと食べてくれましたので安心しました。」


「ふん。アンタは私のママかっての。子供じゃないんだから出された食事は残さず食べるでしょ。普通に。……まあ、食事に関しては感謝してる。意外と味も悪くないし。」


「っ!?そ、そうですか。その……。あ、ありがとうございます。」


「いや、何でアンタもお礼言ってんのさ。普通は作ってもらってる方が言うでしょ。」


「あ、ははは……。そうですよね。でも、そうですね……。今日は小川さんリクエストだったハンバーグにしましょうか。」


「ん。それでよろしく。」



 すると、自身の席に戻ろうとしていた小川さんが徐に声を掛けてきたのだが……。


 意外にも彼女が口にしたのは、勉強のお誘いと俺が作る食事への感謝の言葉であった。


 同居初日から何となくで続けていた料理。その延長線の行いが、このような形で彼女から感謝されるとは思ってもみなかった。



「(……うん。何だか気恥ずかしいような、むず痒いような感覚になるけど……。

 小川さんから少しでも認められたような気持ちになって。ちょっとだけ……。いや、ホントはかなり嬉しいな。うん……。)」



 そして、俺と小川さんは『また後で。』と目と目で挨拶をしてから、そのまま前を向く為に正面に顔を戻してーーえっ?



「え、えっと……。どうされたんですか?そんなフグみたいに頬を膨らませて……?」



 何故だが、俺と小川さんのやりとりを見ていた大橋さんが、全力で頬を膨らませた不機嫌な様子でこちらを睨んでいたのである。


 その姿は宛ら威嚇するハコフグの姿を彷彿とさせ、俺は思わず目の前の彼女が自分の憧れの女性ひとである事を忘れて、ついそんな失言をしてしまうのだった……。

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運命の相手が自分のことを嫌っているクラスメイトだった話。 リン @28118987

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