LOVE IS SOMETHING YOU PASSIONATE. 第4話

 今時の高校生ならスマホやパソコンを使えるのは当たり前。どんなに制限や制御を掛けられても、それらを掻い潜って己の欲を満たすことに尽力してしまうのは好奇心故に仕方ないことかもしれない。悠栖のクラスメイトや部活の先輩達も、親や寮のネットワークシステムの閲覧制限をものともせずスマホやパソコンでこっそりアダルトサイトを見ているらしく、知らぬは大人ばかりということだろう。

 そして周囲が最高のオカズだと動画の情報交換を行う中、悠栖はこれまでその手の話題にはあまり加わることなくやり過ごしてきていた。それは自分の性癖を知られることへの羞恥が人より強かったからというのが大半の要因だったわけだが、あまりにも話題に乗ってこないからこの手の話題は苦手、もしくは嫌いなのだろうと周囲に認識され、今ではすっかり『悠栖にエロ話はタブー』と広まってしまっていた。おかげでパソコンで寮のネットワークセキュリティを掻い潜る手法も、親がスマホに施した制御を掻い潜る手法も悠栖は分からないまま今に至る。

 そういった制限を掻い潜ることができないことをこれまでは不便に感じたことは無かった。だが、今まさに悠栖は不便を覚え、今すぐこの制限をどうにかしたいとスマホと睨めっこしていた。

(くっそー! このサイトもダメかっ!! つーか『男同士、セックス、方法』以外にどうやって調べりゃいいんだよ!?)

 もう何度『閲覧が制限されています』という文字を見た事か。悠栖は枕に顔を埋め、ただ方法を知りたいだけなのにと悔しさを噛みしめる。こんなことなら恥ずかしさを堪えて友人達から抜け道を聞いておけばよかった。と。

 その気になれば今からでも友人達に聞くことだってできるのだが、今の今まで話題に入らなかった奴がいきなり抜け道を教えてくれと口にしたら何が起るか分からない程悠栖は馬鹿じゃない。きっと下世話な話題を交えてどういう心境の変化かと根掘り葉掘り尋ねられるに決まっている。そうなれば嘘が苦手な自分は唯哉と付き合っていることも唯哉とエッチしたいことも全部白状してしまうだろう。いくら同性の恋愛に寛容な面々相手だろうがそれは流石にダメだと思うから悠栖は手詰まりになってしまう。

 潔く諦めて唯哉が方法を調べてくれるまで待つのがおそらく今の最善。それは悠栖にも分かる。だが問題は唯哉が行動を起こしてくれるのが『いつか』だ。

 今日の様子から唯哉も自分とエッチしたいと思ってくれていることは分かる。でも、男同士でエッチする方法を調べるノウハウを持っているくせに唯哉はまだはっきりと方法を知らないと言っていた。つまり、調べることは可能だが調べる気が無いということでは? なんて疑問が悠栖の脳裏に浮かんでしまう。

 慌ててマイナス思考を振り払うように首を振る悠栖は寝返りを打って天井を仰ぎ、冷静さを取り戻すべく深く息を吐いた。煩悩まみれの頭だから短絡的に物事を考えてしまっているだけだと自分に言い聞かせて。

(でも、マジでエッチしたいなら普通調べるよな……)

 先の自分のように言葉通り必死に調べるはず。それなのに唯哉は何故調べてくれないのだろう?

(もしかしてエッチは別に俺とじゃなくても良いって思ってるとか?)

 心が愛しているのは悠栖。でも、肉体が愛しているのは女性。

 なんて、そんなことあるわけがないか。と悠栖が自分の考えを笑おうとした時、思い出す。そう言えば何かの本で愛情と性欲がイコールにならない事もあると読んだ気がする。と。

(いやいやいや! ありえねぇー! チカが好きなのは俺! エッチしたい相手も、俺!!)

 弱くなりそうな心に活を入れるべく、自分を鼓舞する。唯哉の想いを疑ってはダメだと必死に。

 互いの親友である上野英彰も言っていた。唯哉は悠栖に振り向いてもらうために手段を選ばなかった。と。たとえ卑怯だと周りに蔑まれることになったとしても、どうしても悠栖の心が欲しかったから一世一代の大芝居を打った大馬鹿野郎だ。と。

 そしてクラスメイト達も言ってくれた。唯哉は悠栖に心底惚れてる。と。悠栖は言葉通り盲目的なまでに愛されている。と。

 そうだ。こんな一過性の不安のために彼らの言葉を疑ってはならない。悠栖は繰り返す深呼吸に冷静さを取り戻し、きっと唯哉も自分と同じ気持ちだと信じることができた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

LOVE IS SOMETHING YOU FALL IN. 鏡由良 @k_yura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ