84.目的地まであとすこし

 親密さをアピールし牽制してきた。そう考えた騎士達はこっそり会議を行う。そこで様々な取り決めがなされた。


 リアトリス殿下のお体に気安く触れない。話しかけるときはセージ殿がいる場に限る。お2人のテントに近づかない。但し、緊急時を除く。


 付き従う彼らは自らの身の安全と精神的な安定を求め、互いに行動を戒めることで話し合いを終えた。見張りを残し、少し距離を置いて設置したテントに入る。本来はテント同士を近づけて設置が常道だが、ここは自分たちの安眠を確保する目的で意図的に離した。変な声が聞こえたら、朝まで眠れなくなる。


 魔物や魔獣に襲われる可能性がある森で、眠れなければ明日の命が危うかった。その夜の見張りは、火の番をしながら数匹の小型魔獣を倒す。世間知らずのリアトリスに解体を見せるのは気の毒だ。気を使った騎士は、夜の間に肉の状態まで捌いた。眠い目を擦りながら起きたセージはその肉を見て、大喜びする。


 旅に使うバッグの中からハーブ塩を選び、肉に塗して焼き始めた。残りの内臓の処理に困った騎士は埋めるつもりで穴を掘っている。


「ちょっと待て。それは使うぞ」


「肝には毒が……」


「ああ、これとこれは使える」


 器用に毒のある部位を避けて、手にした内臓をすり潰して団子にする。硬い筋がある部分の肉と混ぜ合わせ、骨で出汁をとった鍋に放り込んだ。毒消しの薬草も追加で煮る。これは乾燥させて常備するリッピア男爵家の秘蔵品だった。実はリキマシアの小さな屋敷の野菜畑の脇で育てている。雑草に見えるが、役立つハーブだった。


 乾燥すると極端に量が減るのに、湯で戻せば元のカサに戻る。重い野菜を持ち歩けない旅に最適だった。


「これでよし」


 出汁の骨を遠くへ放り投げ、肉団子に火が通ったのを確認して、テントに声をかけた。


「リアトリス、飯が出来たぞ」


 その呼びかけに、文句のひとつもなく顔を見せる元王太子殿下。間違いなく恋人の距離感だ。目を逸らした騎士の側まで歩いてきたリアトリスは、くんと鼻をひくつかせた。


「肉か?」


「ああ、見張りの騎士によく礼を言え。倒してくれた」


 丁寧に騎士達を労う王子をよそに、手際よく調理を終えたセージが器を並べる。焼いた肉を硬いパンに挟み、出汁を取った肉団子スープを差し出した。温かく量も質も満足できる食事を終えた彼らは、大急ぎでその場を後にする。


 解体した魔獣の残された部位を狙って、他の魔物が夜営跡地を襲ったのは、彼らが旅立って1時間も経っていなかった。


 険しくなる道を馬から降りて歩く。厳しい道のりの途中で、一行は湖のほとりで休憩を取った。


「おい! あれが魔王城じゃないか?」


 騎士の1人が指さしたのは、夕日が沈む方角だ。塔の先端が木々の上から覗いていた。やっと魔王城が見えたことで、彼らの士気は一気に高まる。明日にはたどり着ける。その余裕から、彼らは魔王城に近い湖のほとりで夜営をした。


 奇しくもその夜は聖女脱走騒動があり、彼らの頭上に竜が飛来したのは、その夜のことである。

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