14.覚醒

 頭がよじれるような強い痛みに目を開く。眼球が飛び出すような痛みが頭の奥を何度も巡る。

「ぐうぅっ……」

 まともに立てない。意識がもうろうとする。吐き気とめまいで最悪の気分だ。私は床にへたり込む。

 時間を確認すると、私がこの部屋にきてから数分もたっていない。恐らく、装置をつけてからは数秒も。

 父さんの記憶。そんなレベルではない。あの数日をそのまま体験したようなリアリティ。アレに遭遇した時の恐怖や、ここが稼働していた時の空気のにおいまで鮮明に体験した。

 終わっている状態の体と逆に、頭は信じられないくらいに冴え渡っていた。


 体を落ち着けた私は部屋を後にした。散らばった残骸をよけるように、ほとんど廃墟となった研究所を歩く。目指すは私の艇が泊めてある、入ってきた第二ゲート。


「ここ、なんで閉じてるんだろ……」

 私が見つめているのは、所員の個人部屋と研究棟をつなぐドア。その壁に耐圧シャッターが下りている。というかここだけでなく、定期的に閉じたシャッターを見かける。情報を得たかったからこっちも一応見ておきたかったけど……しょうがない、寄らずに行こう。


 第二ゲートまで戻ってきた私はハッチを開け、艇に乗り込んだ。メインシステムを起動すると艇内が青白く照らされる。私は簡単に操作を行い目的地を設定した。

 比較的近くにある、もう一つのステーション。父さんがあの後どうなったのか、情報を集めないと。

 わからないことばかりだけど、まだ希望はある。父さんが残してくれた記憶が、私に深海での身の振り方を教えてくれる。

 艇が駆動音とともに静かに水中に潜る。ゆっくりと内部扉が開いていくのを見ながら、私は操縦桿を握りこんだ。掌がじっとりと濡れている。


 外部扉が閉じる音が低く響く。ステーションからの光が遮断され、私は深淵の海底に放り出される。フロントライトを点けて前に進むと、水中を舞うマリンスノーが後ろへと流れていく。

 突如、唸るような激しい鳴き声が潜水艇を揺らした。高い音と低い音が混ざり合う、不安を煽るようなこの声を私は聞いたことがある。


 いや、私じゃない。


 いや、父さんでもない。


 私?


 目の奥がズキンと痛んだ。さっき経験したばかりのめまいを再び覚えて私は

「ああ……あ……っ」

 私は思い出した。

「あっ、あっ、あああ」

 ここに来るのは初めてじゃない。

 3回目だ。

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新廻魚 North @NaoNorth

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