第331話 ヒイラギvsミクモ
激しい稽古の果てに、すっかりボロボロにされてしまったドーナは地面に仰向けに寝転がりながら、息を荒くしていた。
「ぜぇ…ぜぇ……も、もう動けないよ。」
そんなドーナの傍らに、息一つ乱さずに立つミクモさんはくつくつと笑いながら口を開いた。
「ま、最初の稽古にしては粘ったほうだの。最初よりも動きの無駄も無くなってはきたが……点数をつけるとするならば、100点満点中40点といったところか。」
「くっそ……。」
「そう気を落とすことではないぞ?なんせシン坊に妾が初めてつけた点数は
愉快そうにミクモさんは笑うと、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
「さて、ヒイラギ殿。」
「はい、な、なんですか?」
「ドーナはもう動けぬ。ならば、今日の締めとして、見取り稽古をしてやりたい。身体能力強化・絶を完全に使いこなしたのならどうなるのか……実際に見せてやりたいのだ。」
「それってつまり……お、俺が相手になれってことですか?」
「もちろん!!ドーナのためを思うならば……拒否はせぬよなぁ?」
ニヤリと笑みを浮かべているミクモさんの表情を見るに、これは最初から狙っていたことのようだ。
「……わかりました。」
「くっくっく、そうこなくては……のぉっ!!」
ミクモさんの尻尾がポンポンと音を立てながら増え、それと同時に体が妖艶で大人びた姿へと変化していく。
「では、行かせてもらうぞ。」
そう言った直後、ミクモさんは消え、彼女がさっきまで立っていた地面が爆ぜる。それを目視したと同時、危険察知が背後に反応した。
「背中はもらったぞ。」
ミクモさんが攻撃姿勢に入ったと同時に、俺も体を翻しながら、手を伸ばしていた。狙いはもちろん……弱点である
「むっ。」
俺の狙いを察してか、ミクモさんは攻撃をやめて、すぐさま距離を取る。
「まったく、とんでもない反応速度だの。完璧に背後を取ったのだが……逆にこちらの攻撃の手を潰されてしまった。」
そう言いながら、ミクモさんは自身の耳を両手で押さえていた。
「なれば……その反応速度を上回るしかあるまい。」
またしても目の前からパッと消えたミクモさん。しかし今度は辺りを駆け回り始めたようで、彼女が足をついた場所が次々と爆ぜている。肝心の姿は、まったく目で追うことはできない。
「これならどうかの?」
姿を目で追えてはいないが、危険察知が発動し、体が勝手に動く。一歩身を引きながら右手を前に出すと、駆け回る勢いそのままに、こちらに飛び蹴りしてきていたミクモさんの足を掴むことができた。
そしてそのまま、まるでロケットのような威力を殺さずに、流すように……空に向かって放り投げる。
「なんとおぉぉぉぉっ!?」
「あ……。」
凄まじい推進力で、あっという間にミクモさんは空の彼方へと飛んで行ってしまった。もう姿も見えない。
しかしものの数秒後、俺の目の前で突然大きな爆発が起こり、何事もなかったように爆発によって巻き上がった土煙の中から、ミクモさんが姿を現した。
「龍の首をも穿った妾の渾身の一撃が、あぁも簡単に受け流されるとは……。やはりヒイラギ殿の相手はシン坊では務まらんな。」
地面に出来上がった大きなクレーターの真ん中で、うんうんと頷くミクモさん。
「ミクモさん、魔法は使って良いんですか?」
「あぁ、構わぬぞ。といっても……当たればの話だがな。」
ニヤリと笑みを浮かべると、またしてもミクモさんはパッと姿を消した。そして地面を凹ませながら辺りを駆け回る。
(こんなに速く動き回ってる人に、普通の魔法じゃ当たらない。なら……イメージは、
頭の中で、人が踏んだ瞬間に発動する罠のイメージを固めていく。
「魔法を使うと言っていたが、流石に妾の動きを目で追えているわけではないらしいな。」
破壊音の中から、ミクモさんのそんな声が聞こえてくる。その直後、ガチッ……と鍵の閉めるような音が辺りに鳴り響き、何も無かった場所にミクモさんが入った檻が出現した。
「な、なんだ!?」
「あ、上手くいった。」
安堵したのも束の間、ミクモさんはあろうことか簡単に檻をこじ開けて、外に出てきてしまう。
「ふぅ、魔法を直に食らったのは、カリンの魔法包囲を食らった時以来か。あの時は躱す場所がなく、仕方なく受けてしまったが……まさかピンポイントで妾を魔法で捕らえてくるとはの。」
「周りを駆け回ってたみたいなので、ある場所を踏むと発動する魔法を仕掛けていたんです。……こじ開けられるとは思ってませんでしたけど。」
「まぁ、身体能力強化・絶を使っておるからの。」
そう言いながらミクモさんは笑った。多分さっきからずっと身体能力強化・絶ってスキルは使ってると思うんだけど、ドーナのように肉体が耐えきれなくなって出血するみたいなことは、彼女の身には起こっていない。
それを不思議に思っていると、こちらの思考を見抜いたように、ミクモさんが口を開く。
「ドーナは痛みを伴いながらコレを使っているのに、妾が何のデメリットもなく使えているのが不思議そうだの。」
「は、はい……。」
「くく、その答えは後々ドーナから直接聞くが良かろう。」
そう言うと、ミクモさんはぐぐ〜っと背伸びしながら、元の小さい姿へと戻っていく。
「ぷはっ、妾はもう満足だ。久方振りに全力でぶつかれて、気持ちよかったぞヒイラギ殿。」
「それは……よ、良かったです。」
ミクモさんは笑顔のままドーナの方に視線を向けると、明日も稽古することを伝えた。
「ドーナよ、明日明朝からまた稽古だぞ。明日からはもっとビシバシ扱いてやるから、今日は休め。」
「うぐぐ……わ、わかったよ。」
「うむ、では妾は帰るとするかの〜。」
「あ、ミクモさん。せっかくなら夕ご飯食べて行きませんか?」
「お、良いのか?」
「もちろんです。」
「ではその言葉に甘えさせてもらおうかの〜。」
その後俺はドーナのことを背負って、ミクモさんとともに宿へと帰るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます