第326話 龍襲来?


 キッチンで今日の夕食へとむけて、ブルーフレイムガリトンの研究を続けていると、突然町の中にけたたましい警報音が鳴り響く。


「ん?なんだ?」


「この警報音は……災害級の魔物の襲来を報せる警報音だよ!!」


 ドーナがそう叫んだ次の瞬間、町のいたるところに設置されているスピーカーから、警報音が鳴った原因についての説明がされた。


『レイド周辺半径1km以内に、龍種と思われる超強力な魔力反応が検出されました。レベル80以上の魔物ハンターは速やかに関所へと集合してください。市民の皆様は決して屋外への外出はしないでください。繰り返します…………。』


「龍種?」


「あら、ワタシの知り合いかしら?魔力も隠さずに来るってことは……まぁだいぶ候補は絞られるけど。」


「その候補って……どんなドラゴンがいますか?」


「ん〜、例えば前にヒイラギが鱗を全部剥いだっていうブレアドラゴンでしょ?それと〜、かしらね。あ、ボルトドラゴンっていうのは、ワタシの知り合いの中で唯一のオスのドラゴンよ。」


「そ、そうなんですね。」


 ランさんから情報をもらうと、ドーナがバキバキと指を鳴らしながら、こちらに歩み寄ってくる。


「で、ヒイラギ、どうするんだい?」


「まぁ、できれば穏便に済ませたいし、行ってみようかな。ランさんとルカは、みんなのことを守ってあげてほしいです。」


「はいは〜い、どんなドラゴンだったか、帰ってきたら教えてよね。」


「承知しました。」


 そして宿を出ようとすると、凄まじいスピードでミカミさんが俺の胸ポケットに飛び込んでくる。


「んっふっふ、私はこの特等席で見学させてもらうよ。」


「見せ物じゃないと思うんですけど……ま、まぁ、行きますか。」


 宿を出て、まっすぐに関所へと駆け抜けると、そこには既にナイルさんがいて、集まっていた魔物ハンターへと指示を飛ばしていた。


「ナイル、状況はどうなってんだい?」


「おっ!!ドーナ、ちょうど良かった。今2人を呼びに行こうと思ってたところだった。で、肝心の状況だが……アレを見たほうが早いぜ。」


 ナイルさんがクイッと親指で指差した方向には、全身に真っ赤な炎を纏った見覚えのあるドラゴンが仁王立ちしていた。


「アイツは……ブレアドラゴンっ!!」


「アイツについて知ってんのかドーナ?」


「知ってるも何も、前に1回……ヒイラギが撃退したドラゴンだよ。」


「なんだって!?」


 全身に炎を纏っているブレアドラゴンは、ジッ……と俺に視線を向けてくると、前足を上げてクイクイっと、こっちに近づいてくるように合図してくる。


「どうやらアンタをお呼びのようだぜ?」


「はぁ……じゃあちょっと行ってきます。」


 道を開けてくれた魔物ハンター達に見送られながら、俺は全身に炎を纏っているブレアドラゴンの所に歩み寄っていく。そしてお互いに攻撃を仕掛けられる間合いに入った時、ブレアドラゴンが口を開いた。


「……お前のことはずいぶん探したぞ。強き人間のオス。」


「俺を探してた?もしかして、あの時の復讐をするために?」


「……確かにあの時オレ様は、お前のことが憎くて仕方がなかった。いつかオレ様のことを組み伏せるような、強いオスのために毎日欠かさず磨いていた鱗を全部剥がれたからな。」


 ブレアドラゴンは一部纏っていた炎を消すと、あの時俺に剥がれた鱗はまだ再生していないようで、ピンク色の地肌が見えてしまっていた。


「あの日から数日間は憎しみと復讐心でいっぱいだったが……ふと気付いたんだ。お前はもしかすると、オレ様よりも強ぇんじゃねぇかってな。」


「……で、何が言いたいんだ?」


「正直な話、こんなみっともねぇ姿じゃあ、他の龍種の奴に求愛はできねぇ。龍種のオスは、メスの強さと鱗を見て番いを決めるからな。だが、人間は違うだろ?」


 すると、ブレアドラゴンはニヤリと笑い、ボン……という音とともに、突然人間の子供の姿に変わった。ブレアドラゴンの人間の姿は、ランさんやアリアさんのような大人びた雰囲気とは違って、小さな子供のような姿なんだな。


「あの、その姿は?」


「人間のオスはこういう小さいメスが好きなんだろ?道端に落ちていた本で読んだぞ。あの本ではお前みたいな成熟した人間のオスが、小さいメスに覆いかぶさって……。」


 それ以上言わせまいと、ミカミさんが口を挟む。


「わ〜っ!!す、ストップストップ!!それ以上は言わなくていいよ!!まったくも〜、間違った知識を変な本から取り入れたもんだね。」


「んん?オレ様、なんか間違ってるのか?」


 自分がとんでもない本から、間違った知識を得てしまっている事に気づいていない様子のブレアドラゴンへ、ミカミさんが呆れながら言った。


「……一先ず、服着ようね。うん。柊君、シアちゃん達用の服余ってるよね?」


「まぁ一応。」


「それ貸して。」


「はいはい。」


 ミカミさんはシアの予備の服をブレアドラゴンのところへと持っていくと、目にも留まらぬ速さで着替えさせてしまった。


「お〜、これが服か。体に擦れて変な感じだな〜。」


「一先ず、キミは今のところ戦う意思はないみたいだから、向こうで話そうね。」


 二足歩行に慣れていないブレアドラゴンの手を引いて、俺とミカミさんは関所の方へと足を進めるのだった。

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