第278話 セイレーン?


 その後もミカミさんと一緒にハガネガゼをせっせと収獲……コホン、駆除していると、背後からツンツンと太ももを誰かに突かれた。


「あれ、ミカミ……さん?」


 後ろを振り返ってみると、そこには1人の子供……あ、いや……普通の人間の子供じゃなくて、手足に魚のような鱗や、指先には水掻きのようなものがついている子供だった。よく見れば、腰のところから魚のような大きな尻尾も生えているな。


「……………んっ!!」


 その子供は、俺が手にしていたハガネガゼの可食部分である生殖腺を指差して、ちょうだいと両手を差し出してきた。


「こ、これ?」


 一応確認してみると、その子供は何度も頷いた。よく見れば口元からよだれが垂れそうになっている。


「はい、どうぞ。」


 醤油を少しつけて手渡すと、その子供は大きく口を開けて、一口でそれを食べてしまった。そしてじっくりと味わって飲み込んだ後、よほど美味しかったのか、もっとくれとねだってきた。


「う、う〜ん、この子ってもしかして……。」


 その子に食べさせながら思考を巡らせていると、こちらにミカミさんが飛んでくる。


「ありゃ?柊君、その子は?」


「あ、ミカミさん。なんかハガネガゼの身が食べたかったみたいで、近づいてきたんです。」


「ほむほむ……。う〜ん?人魚っていうよりも、どっちかっていうと魚人っぽい?でもまぁ子供らしく美味しそうに食べてるね。」

 

 その子を観察していると、海の方から女性の声が聞こえてきた。


?どこ行っちゃったのペルー!!」


 すると、その声にこの子が反応して声をあげた。


「お姉ちゃん!!こっちこっち!!」


「ペルー、陸にいるの?陸は人間がいるから危ないってあれほど…………。」


 少し呆れた声が聞こえてきたかと思えば、俺達のすぐ近くの海面から、この子と同じような特徴を持つ女性が顔を出した。


「ってぇぇぇぇっ!?い、言ったそばから、ににに、人間がっ!!ペ、ペルーを返しなさいッ!!」


「わわっ!?」


 彼女は海から弓矢のようなものを取り出して、こちらに狙いを定め、ギリリと引き絞る。


「お姉ちゃん、違う違う。この人間、食べ物くれた。優しい。しかも、ハガネガゼ倒せる。」


「………………。」


 彼女は弓を引き絞ったまま、空っぽになって積み重なったハガネガゼに目を向けた。


「あなた達、ハガネガゼを食べてるの?」


「あ、こ、これは……あんまりにも美味しかったので……よ、良かったら1つどうですか?」


 少し醤油をつけたハガネガゼの身を、ペルーと呼ばれていた子供に手渡して、女性に渡してもらった。


「毒は……クンクン、入ってなさそう。」


「食べ物に対してそんな冒涜的なことしませんよ。神に誓います。」


「…………あむっ。」


 少しこちらを信用してくれたのか、彼女はハガネガゼの身に一口かぶり付く……。すると、驚きで目を丸くした。


「は、ハガネガゼって……こ、こんなに美味しいの!?」


 あっという間に彼女も食べ尽くしてしまうと、ザバッと海から出てきてこちらに詰め寄ってきた。


「ねぇ、どうやってハガネガゼを食べられるようにするの?今私達、すっごくハガネガゼに困ってて、食べられる資源にできるなら教えてほしいんだけど……。」


「もちろん構わないよ?」


「ほ、ホント!?」


「でも1つ交換条件があるよ。セイレーンについて情報をくれないかな?」


「セイレーンって……それ、私達のよ。」


「「えっ?」」


 思わず俺とミカミさんは2人して聞き返してしまうと、彼女はセイレーンという存在と自分達のことについて教えてくれた。


「お母様は私達の祖。私達マーリンズは、セイレーンのお母様の血と、人間の血が入った混血種なの。」


「ほへぇ〜、だから人間みたいに、ちゃんと足があるんだ……。」


「……お母様に会いたいなら、特別に私達の国に連れて行ってあげても良いわよ。私達を悩ませてるハガネガゼの事についても知ってもらいたいし。」


「あ、じゃあもう1人だけ、一緒に連れて行ってくれませんか?」


「それってもしかして、向こうの岩場の方にいる人間のこと?」


 彼女はドーナが探しに向かった岩場の方を指差した。


「そうです。」


「……まぁ、良いわ。あなた達は腐った魚みたいに目が濁ってないし、信用してあげる。」


「あははっ、まさか魚と一緒の目利きをされるとはね。」


「お母様が言ってたの。腐りかけの魚みたいに、目が濁ってる人間には絶対に近づくなって。」


「なるほどね。」


 そして俺はドーナの事を呼びに行き、彼女の事を連れて浜辺まで戻ってきた。


「アタシが見たセイレーンとは姿形がやっぱり違うねぇ……。」


「私達はマーリンズ。セイレーンがお母様なのよ。それと、自己紹介が遅れたわね。私は。この子は妹のペルーよ。」


「ヒイラギです。」


「ミカミだよ〜。」


「アタシはドーナ。」


「じゃあこれから私達の国に連れて行ってあげるけど……くれぐれも、私からはぐれないようにね。もしはぐれたら、命の保証はしないわ。」


「……ところでスターちゃん。私達、どうやってキミ達の国に行くの?多分……海の中だよね?」


「あ、そっか……人間ってエラ呼吸できないのよね。ん〜しょうがないわね。」


 スターさんはこちらに手をスッと翳すと、魔法を唱えた。


。」


 その魔法が発動すると、俺とミカミさん、そしてドーナの体の周りに薄っすらと半透明の膜が張られた。


。……っと、これで大丈夫だと思うわ。海に入ってみて。」


 促されるがまま海に入ってみると、驚くことに地上と同じようにちゃんと呼吸ができる。


「すごっ!?海の中でもちゃんと呼吸できるよ〜!!」


「な、なんか不思議な感覚だねぇ……。」


「さてっ、人間の泳ぎじゃ何時間かかるか分からないし、私とペルーが引っ張ってあげるから、下手に水の抵抗受けるような事しないでよね。」


 俺とミカミさんはスターさんに……ドーナはペルーに手を引かれて、彼女達の国へと案内されることとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る