第117話 アサシンギルドの長と対面


 襲いかかってくるアサシンを、全てスキルによるカウンターの急所攻撃で沈めると、俺の目の前にレベルアップの通知画面が表示された。


『レベルアップに必要な経験値を満たしたためレベルが上昇し、レベル54になりました。レベルアップしたためステータス情報が更新されます。』


「あ、レベルアップしましたね。」


「54かぁ〜……な〜んか思ってたより経験値少ないなぁ。」


 ミカミさんはもっとレベルアップすると予想していたらしいが、その予想に反して4しかレベルが上がらなかったことに、ため息を吐きながら落胆している。


「ま、まぁまぁレベルが上がらないよりは全然……。」


「まぁね〜。あ、そうだそうだ、忘れる前に彼等からも迷惑料を徴収しとこ〜っと。ルカちゃ〜ん、お仕事の時間だよ〜。」


「かしこまりました。」


 すぐに気持ちを切り替えたミカミさんは、ルカに声をかけて、周りで股間を押さえて気絶しているアサシン達の懐から金目の物を抜き取っていく。


 その光景を傍目で眺めていると、驚きで全く声を発せていなかったリタが、ようやく声を絞り出した


「す、凄いですわ……。」


「え?」


 そう声を絞り出したリタは、まるで子供のようにキラキラと目を輝かせながら、俺の手を両手でギュッと握ってくる。


「い、今のは何かの格闘術ですの!?一切の無駄がない動きで攻撃を躱し、一撃で相手を仕留めるあの動き……凄く美しかったですわ!!」


「え、あ、ありがとう。」


「よ、良ければ参考に何という名前の格闘術をお使いなのか、教えて頂きたいですわ!!」


「い、いや、これは……。」


 答えに迷っていると、金目の物を抜き終えたミカミさんがこちらに飛んできて、助け舟を出してくれた。


「リタちゃん。柊君の戦闘技術は、ぜ〜んぶ私が仕込んだんだよ。」


「貴女がお師匠様だったんですの!?」


「そのと〜り、凄いでしょ〜?」


 リタの顔の前で胸を張るミカミさん。その様子に思わず苦笑いを浮かべていると、ルカがたくさんのお金と武器などを手にこちらに歩み寄ってくる。


「ご主人様、お納めください。」


「ありがとうルカ。」


「武器の価値はあまりわかりませんが、集めた硬貨だけでも白金貨一枚分ほど集まったかと思われます。」


「おぉ、意外と集まったな。」


「どうやら今のアサシンギルドは私が所属していた頃より、多少金払いが良くなったのかと。」


「それか、ルカが逆らえなかったのをいいことに、他の人にはある程度お金は払ってて、ルカだけから搾取し続けていたか……って感じだな。」


 俺の言葉を聞いた後に、ルカはムッとした表情を浮かべると、奥にある扉に視線を向けた。その扉の向こうからは、ガサガサと異音が聞こえてきている。


「重役たちはあの扉の向こう側にいます。」


「わかった。引き続きシア達のことを頼むな。」


「かしこまりました。」


 ルカがまたシア達の護衛につくと、リタと話し終えたミカミさんがこちらに戻ってきて俺の肩に腰掛けた。


「さてと、じゃあ本命の重役たちとご対面といこう。」


「はい。」


 警戒しながらその扉を開けたと同時、俺の頭を目がけて矢が飛んで来た。それをすんでのところで掴み取ると、奥でクロスボウのような武器を手にしていた初老の男が驚き、狼狽えながらもこちらに質問を投げかけてきた。


「き、貴様ら……こんなことをしでかして何のつもりだっ!!ここはアサシンギルドだぞ!?どうなるのかわかってるのかッ!!」


 ミカミさんはニヤリと笑いながら言葉を返す。


?そんなものは無いよ。だって、アサシンギルドは今日で壊滅するんだからね。」


「ぐっ……。」


 こちらにも聞こえてくるほど、ギリリと強く歯ぎしりをしたその男は、俺達の背後にいたルカの姿を見るなり、表情を一変させた。


「お、お前はルカだな!?いいところに戻ってきたぞ。さぁ、今すぐこいつらを殺せ!!」


 一縷の希望に縋る男を、ルカは冷徹に見下ろしながら一言だけ告げた。


。」


「なっ……何故だ!?我らがお前を拾い、育ててやった恩を忘れたのか!?」


「恩はもうすでに散々返したし、私をこのギルドから追い出したのは長……あなた自身の判断だった。……それに、仮にこのギルドに戻ってきていたとしても、もうあんなはした金で働くつもりはない。」


「ぐっ……な、ならは一つの依頼につき、大量の報酬を用意する。こ、これならどうだ?」


?今から潰れるこのギルドにそんなものがあるとでも?」


 ルカの説得が無駄だとわかった途端、男はクロスボウのような武器を捨てて、最後の抵抗とばかりに腰に差していたククリナイフのような形状のナイフで襲い掛かってくる。


「老いぼれたとはいえ、このオレも元一匹狼だ。ただでは死なんぞォッ!!」


 そういうスキルなのか、何もない空間を足場にするように蹴って、不規則で素早い動きでこちらに迫ってくる男。彼の手にしていたナイフが振るわれた瞬間、俺の体はぐるりと回転し、遠心力のかかった足で男の股間を蹴り抜いていた。


 とんでもない衝撃だったらしく、悲鳴すらも上げることができずに、男は自分の股間を押さえるようにして気絶してしまった。


「うわぉ……今のは今日一番えぐかったね。」


「俺の意思じゃないんですけどね……。」


 男ならだれでも、あの勢いで股間を蹴られたら失神するだろう。無残にも股間を押さえながら、うずくまるようにして気絶している彼を見て、思わず俺も股のあたりを冷たいものが駆け抜けていった。


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