第3話 水上に連れてこられた場所は


 リムジンに乗り込んでしばらく揺られていると、ガチガチに緊張していた俺を見て、水上さんがケラケラと笑った。


「あっはっは、そんなに緊張しなくてもいいんだよ柊君。」


「き、緊張するなって言う方が無理ですよ。俺みたいなただの料理人が、しゃ、社長と黒井さんが一緒の空間にいるんですから。」


「う~ん、そういうものかな黒井君?」


「柊君の反応が普通ですよ、水上社長。」


「キミも固いなぁ~。でしょ?タメ口使いなよ~。」


「えっ?黒井さんと水上さんが……ど、同級生!?」


 衝撃の事実に俺は思わず聞き返してしまった。黒井さんは前に話した時、歳は40を超えてるって言ってたのを覚えてる。それで俺もそのぐらいの年齢になったら、黒井さんみたいに髪型をバチッとオールバックでキメたイケおじになりたいと思ったんだ。


 でも水上さんは確か初めて挨拶を交わした時に20代って言っていたような……。い、言っちゃ悪いんだろうけど、正直20代にすら見えないぐらい子供っぽい見た目なんだよなぁ。髪型もツインテールだし、身長も1メートルとちょっとぐらいしかないと思う。


「あ、その反応ってことは私が最初の自己紹介でピッチピチの20代で~す。って言ったの覚えてくれてた?」


「い、一応……。」


「いやぁ~、じゃあそのことでも謝んなきゃいけないね。」


 ケタケタと愉快そうに水上さんは笑うと、俺の目をじっと見つめながら自分の本当の年齢を口にした。


「私は今年でもう46だよ。柊君とはちょうど倍年齢が違うね。」


「え、えぇ!?く、黒井さんこれは……。」


 まるで俺がこんな反応をして、こう聞いてくるのを予期していたように黒井さんは答えた。


「本当だよ柊君。私と水上社長は同級生で、私も今年で46になった。」


 衝撃的な事実に大口を開けてあんぐりと固まっていると、それをまた水上さんがケタケタと笑っている。


「あっはっは!!みんな私の年齢を聞くとビックリするんだよねぇ。その中でも、柊君はちょっと反応がオーバーで、尚更面白いね。」


 そんな衝撃的なカミングアウトをされている間にリムジンは止まり、自動でドアが開いた。


「おっと着いたみたいだ。さ、柊君下りて下りて~。」


 そして押されるがままにリムジンから降りると、俺の目の前にあったのは居酒屋ではなく、大きな病院だった。


「へ?ここ病院……。」


「酒は百薬の長とは言うけど、怪我人に飲ませるものじゃあないよね?本当はキミを飲みに連れて行きたかったけど、今日蹴られたそのお腹……ずっと痛むんじゃない?」


「な、なんでそれを?」


「さっきシートベルト着けるとき、苦痛で顔が歪んでたよ。多分肋骨が折れてるから、すぐに治療してもらったほうがいい。」


 この人は一体どこまで人を見ているんだろう……。本当に心の奥底まで見透かされているような感じがする。


「あ、治療費のことは考えなくていいよ。この病院、ミカミコーポレーション経営の病院だから。」


「えぇ!?ミカミコーポレーションっていったい……。」


「ま、その辺詳しいことは知りたくなったら調べればいくらでも出てくるよ。入院している間に少し調べてみたらいいさ。それじゃ、完治の報告が来たらまた迎えに来るね~。」


「あ、え!?ちょっと!!」


 言いたいことだけ言って、水上さんと黒井さんはリムジンで走り去ってしまった。それを呆然としながら見送っていると、病院から真っ白な白衣に身を包んだ医者が何人か出てきて俺を取り囲んだ。


「水上社長からあなたの怪我を治すよう命令されていますので、一先ずこちらに横になっていただけますか?」


「あ、は、はい。」


 促されるがまま担架に横になると、レントゲン室やいろんな病院内の施設を連れまわされ、気付けば俺は大きなベッドの上に寝かされていた。


「な、何がどうなっているんだ今日は本当に……。」


 やっと状況を整理しようとしていたところで、コンコンと病室がノックされて、一人の医者が入ってきた。


「柊さん、明日しましょう。」


 そして入ってきて一発目の言葉がこれである。


「しゅ、手術ぅ!?そ、そんなに俺の体は悪いんですか?」


「レントゲンを見てもらえばわかる通り、折れた肋骨が肝臓に刺さりかけています。もう少し強い衝撃が加わっていたら危うく刺さるところでしたよ。」


 レントゲン写真を何枚か提示しながら、医者は俺の折れた肋骨が肝臓に刺さりそうだと言っている。


「明日の手術では、折れた骨の欠片を摘出し、折れた骨を固定する手術を行います。」


「あ、あの手術しないとどうなるんです?」


「折れた肋骨の破片が臓器を傷つける可能性があります。そうなった場合、もっと規模の大きい手術が必要で……。」


「あ、わかりました。手術します。」


「ご理解いただき、ありがとうございます。それでは明日一番に手術の予定を入れておきます。我々全力を尽くして治療させていただきますのでご安心ください。」


「お願いします。」


 こちらに深く一礼すると、その医者は静かに扉を閉めて去っていった。


「脳内の処理が追い付かない。料理長がクビになって、水上さんはミカミコーポレーションの社長で……黒井さんの同級生で……。」


 ダメだ。考えれば考えるほど頭がパンクしそうになる。これ以上考えるのは止めて、一度寝よう。考えることを一度止めて、俺はふかふかの枕に頭を預けて目を閉じた。


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