散歩

しのう、しのうと外を歩いた

散歩道を歩く

しのう、しのうと外を歩く

ある場所にくると

携帯をひらいた

アプリゲームが映り出す

ずっとずっと子供の頃から

愛していた遊び

しのう、しのうと液晶画面をタップする

珍しいのが出てきたので

ああ、しのうと思うから

隣の子供がのぞいていた

みずぼらしい大人のそばに

身なりがいい子供が画面を覗く

その顔は嬉しそうであった

人気の据え置きゲームでシリーズが発売していたなあ

買わなかったけれど

「ねえ、この◯◯◯◯なんていうの?見たことない!」

しのう、しのうと思っていると

いつもこんな目に遭う

「この子たちは昔のシリーズの子だよ」

「じゃあ、今のにはいない?」

「んー、多分、追加されると思うけど」

しのう、しのうと思っていると

すらすらと愛らしい子供に笑いかけることができる

「ケータイはねー、まだもっちゃダメってママが言うんだよ」

「そうだねえ、これは立ち止まったり下を向いたり急に止まったりするから。こうやって端っこ座ってやってるよ」

「ママにそう言えばいいかな?」

「どうだろ、色々……登録しなきゃいけないし、君が携帯を持てないならお母さんのになるから、難しいな」

遊びの話なんて、いつぐらいだろう

そういえば、この間は具合が悪そうなお婆さんが居たからタクシーを呼んだなあ

「……どうすれば分からなけど、お母さんに言ってみるといいよ。自分がやっていたから羨ましいとか言っちゃだめだよ。この携帯ゲームを知ったからやってみたいなって」

お母さんも忙しくて大変だからね

「うん!」

何故、優しいのだろう

馬鹿みたいに、しのう、しのうと散歩して

馬鹿みたいに、光を見てホッとする

まだ、どこかの誰かの人生に少しだけでも関われる

「じゃあね!」

あんな光を見てしまう

ああ、あの時のおばあちゃん、タクシーを呼ぼうと携帯を手にした時、向かい側の道路を走っていたタクシーの運転手さんが顔を出して「すぐそちらに行きますから待っててください!」と声をあげてたなぁ

ほんの数秒か、すぐに来てくれた

優しいなぁ、優しいなぁ、きれいだなぁ

しのう、しのうと散歩をしていると、またに綺麗なものに出会ってしまう

この子たちもかな、と液晶画面の◯◯◯◯を見た

ただのデータに感動してアホらしい

しのう、しのうと散歩をして

明日もしのう、しのうと散歩する

何もしない自分が、しのう、しのうと散歩する

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