悪役令嬢に転生したおっさんは貧困に喘ぐ領地の領主になったようです

うさぎ蕎麦

第1話 勢いで領主になったけれど。

「ルチーナ様、温かいお茶が入りました」


 俺が領主になった領土の館、その館の一室にて、

 俺の目の前にオレンジ色の液体が注がれた白いティーカップがそっと置かれる。

 その液体には薄くスライスされたレモンが浮いており、さわやかな匂いを引き立てる役を買っている。 

 

 まぁ、要はその液体は紅茶って奴なんだけど。

 金髪碧眼の悪役令嬢ルチーナ・ファルタジナへと転生する前は、こんな感じでホットレモンティーを堪能した記憶は無い。

 とうぜん、そんな記憶がない以上可愛い女の子が俺の為に入れてくれた、なんて事も無い。

 勿論、カッコイイイケメンが入れてくれた覚えもない、そんな趣味無いからな。

 

 

 そんな俺の為に毎回、わざわざアツアツの紅茶を入れてくれる。

 それだけじゃない、俺が何か飲み物が欲しいなぁと思えば不思議とその10分後には温かいお茶がそっとテーブルに運ばれて来る。

 察する能力も高く気遣い能力も高い、流石はキルミール家令嬢のお嬢様ステラ・キルミールだろう。

 

 

「相変わらず美味しいお茶を有難う、ステラ」 


 俺は自分の為にお茶を煎れてくれたステラ嬢に笑顔を見せながら礼を言う。

 俺の笑顔を見て、ステラ嬢も笑顔で返し俺に向け一礼をする。

 この笑顔を見せられて落ちない男なんて探す方が難しい位、相変わらず殺人的な可愛さだ。

 

 もしも前世に住んでいた日本でステラ嬢みたいな女の子と仲良くなれていたら、それで程々に付き合って30手前になった所でプロポーズの1つでもして無事結婚していたのかもしれない。

 そんな王道幸せルートを辿る事が出来たなら俺だって非正規社員で腐らず正社員の道を歩んでいたのかもしれない。

 

 いやいや、冷静になれ。

 ここまで素敵な女性は数多のライバルがいるに決まっている。

 仮に社会人の時に出会ったとしても俺が選ばれるどころか人間として扱われるか分からない。

 

 ステラ嬢なんて美しい女の子と仲良くなれたのは転生したお陰と割り切るしか無いか。

 

 俺は、ステラ嬢の整った顔立ちを見ながらレモンティーを一口すする。

 肩に掛かる位長さでブラウンカラーのふわっとした髪に琥珀色の瞳。

 何度見ても美人だなぁと思うし可愛いとも思えてしまう。

 

「勿体無いお言葉です、ルチーナ様。では、わたくしは自室に戻ります」

 

 俺が掛けた言葉が嬉しかったのだろうか? ステラ嬢は改めて俺に向かってお辞儀をすると少しばかり頬を赤らめながら退出した。

 正直なところしょうもない話を振りながら、もっとステラ嬢を見つめながらニヤニヤし続けたい訳だけど今の俺はそんなそんな訳にはいかない。

 悪の領主を捕らえた報酬として、国王様からこの領土を貰って領主となった俺はとにかく忙しい。

 これが、順風満帆な領土ならいざ知らず、悪の領主に散々搾取されボロボロであるこの領土ではやる事が多過ぎる、と言うか無理ゲーじゃねぇのこれ!?

 それ対し父上も母上も賛成、俺も悪を討伐し舞い上がっていた以上冷静な判断力を失っていた事もありニコニコ笑顔でそれを受け入れた訳だ。

 

 そもそも、14歳の少女が領主になるなんてちゃんちゃら可笑しい話とも思える。

 はぁ、けれど、両親からすれば将来自分の領を継ぐ為の経験値稼ぎと考え俺を送り出したと考えれば可笑しくもないのか。

 くそう。

 まぁ良い、俺は日本で35年生きて来ている。

 この世界での14年生きているなら実質49歳だからな。

 49歳の人間が領主になる事は、特にこの世界における人間の平均寿命を考えたら普通&普通。

 珍しくも何も無い普通なのだ。

 と、俺は無理矢理前向きな考えをするが。


「なんで俺は安請け合いしたし!?」


 そんな事は無理だった。

 誰も居ない室内であるのを良い事に思わず大きめの声を上げてしまった。

 

 はぁ、そんな事言っても仕方無いな。

 仕方無いよな? 仕方が無い……。

 

 くそう、まぁ、あれだ、この領館はよくある金持ちの豪邸みたいな感じなんだよ。

 決して、公民館みたいな少ない税金で最善を尽くした、訳で無く手持ちのお金を後先考えず豪勢に使った、みたいなね。

 だから、この領館も滅茶苦茶豪勢なんだ。

 部屋も沢山あるし、その上でそれぞれの部屋も大体広い。

 それがこの領館に勤めているお偉いさんの部屋なんだよね、しかも現在進行形で。

 広いだけなら良いんだけどさ、豪華な装飾品だの絵画だのなんだの、どれだけのお金使ったんだよと頭抱えたくなる位に凄い煌びやかだったりする訳だ。


 で、今俺がいる部屋にだって何故だか分からないが指輪が10はある。

 普通に考えて1つで良くね? それともなんだ? 全ての指に嵌めていたのか? 前の領主は。

 しかも1個1個がすんげー豪勢でやんの。

 金色のリングに、ダイヤモンドだのエメラルドだのサファイヤだのルビーだのオパールだのとどれもこれも高価そうとしか思えない指輪が勢揃いしている。

 更に指輪だけじゃなくネックレス迄ある始末で当然これも金と宝石で作られて、この領主は下らないアクセサリーにどれだけの金を継ぎ込んだんだよと思わせてくれる。

 

 通路は通路で一々絵画が飾ってある。

 合計で何十枚あるんだよって位にどう考えても買い過ぎだろとしか思えない。

 が、俺がここに領主として赴任した時、領主には及ばないがかなり地位が高そうな人から、この絵画は別に国の名画家が描いた素晴らしい作品と俺に対し得意気に説明していたな

 

 そんなムダ金使うからこの領地が貧困に喘ぐ羽目になったんだと内心思っていたが、赴任早々荒波を立てるのもどうかと思ったので黙って自慢話を聞いていたのだが。

 

 また、この館にも宝物庫があり、当然豪華さを重視した物で埋め尽くされている。

 剣身が金や銀で作られている片手持ちの剣に両手持ちの剣。

 鉄や鋼に比べ硬さで劣る上に製造コストが掛かる金や銀が実戦で武器として使われる事は皆無に等しくこれもただの観賞用、よく言って換金用なのだろう。

 鎧や兜と言った防具も似たような感じで、金や銀で作られていたり無意味に宝石が散りばめられていたりしている。

 後は袋詰めされた金貨や宝石がぎっしりと詰まった小さな木箱も多数見受けられた。

 

 多数の金貨もある事から、一応この領地での貯金とも考えられるからその点最悪ではないと考えざるを得ない。

 誰かが横領して空っぽよりは、マシだ。

 

 この領館だけ見れば非常に潤っていると勘違いしてしていまうが、この領地は土地が全体的に痩せていて作物の収穫が乏しいとの事だ。

 金銀ダイヤモンドと言った貴重な鉱石があるかと言われれてもあまり埋蔵されていない様子でそこから大きな収入を得ている訳でもない。

 

 どう考えてもここの領民は貧困に喘いで居る。

 実際、俺に対して前領主をどうにかして欲しいと頼んだレジスタンスの人達は総じて古い布を何度も継ぎ接ぎして着続けている如何にも貧相な衣服に身を纏い、髪だってロクに湯浴みが出来ないのか手入れも殆ど出来ずぼさぼさだった。 

 身体だって細く、食べ物すら満足に食べられているとは到底思えなかった。

 

 領館無いが極めて豪勢である事を考慮するとそれだけ前の領主が領民から富を搾取したのだ事が伺える。

 

「ステラたんが入れた紅茶美味しいなぁ」

 

 俺は天井をぼーっと眺めながらぽつりと呟く。

 そう言えば、この領地は日本に存在していた多数の会社と似た様な状況に思える。

 労働者から巻き上げた金で経営陣の人間達は贅沢三昧に過ごす、みたいな。

 だからと言って会社の為に声を上げた所で何かが良くなる事は無かったし、良くなったとしても俺が報われる事は無かった。

 その時はただの契約社員で権力も何も無かったからだ。

 

 まぁ、その時に比べれば今の俺はこの領地の領主である訳だからその時に比べて自分が持っている権限は滅茶苦茶強い。

 それだけでなく、このタルティア国の第4王子であるエリウッド・タルティア・アスモフが俺の味方に付いている。

 何故彼が俺の味方をしているかと言えば、俺が悪役令嬢としての定石を打った際、俺をこの世界へ転生させた張本人女神クリスティーネから貰った惚れ薬を使った結果、彼が俺に対してべたべたのメロメロになった事が理由なんだけど。

 理由はどうあれ、男の俺に対して踏み込んで来る気持ち悪い男と言うデメリットにさえ目を瞑れば王子である彼が味方に付いているメリットの方が大きい。

 

 いや、今の俺は見た目が金髪碧眼の美少女である手前、第三者から見たら金髪イケメン王子と金髪碧眼美少女の俺のカップリングは何とも羨ましく思えるだろう。

 

 何気に、その惚れ薬はステラ嬢も服用している。

 実はステラ嬢も俺にメロメロだったりするのだが、俺が露骨に応えてしまうと世間体が宜しくなくなる。

 だって第三者から見えれば女同士で仲良くしているのだから。


「はぁ」


 下らないな事を考えたな、と思いながらも声に出る程の溜息を一つ。

 

 問題が山積みなこの領地。何処から改善していけば良いのやら。

 俺は机の上に散乱している書物とにらめっこしながら俺はあーでもないこーでも無いと頭を回転させその答えを紡ぎ出そうとしている。

 

(随分税率が高いな)


 どうやらこの領地には大体70%と滅茶苦茶な税を掛けられている。

 金持ち向けの数字かと思えばそうで無く、明日の食料に困りそうな貧乏人に対してまで同様の比率で課税されていたのだ。

 

 そりゃー、レジスタンスが立ち上がるのも納得が行く。


 その癖、ここの領館に勤めている人間達からは貧困さを感じない。

 どちらかと言えば裕福な感じだ。

 だからと言って、彼等が有能かと言われたらこの領地の現状況を作っている次点でその可能性は低い。

 俺が赴任してから彼等をそれとなく見ているが、そもそも真面目に仕事しているのかこいつ等? 何て疑問も抱く。

 まるでNPO法人のそれみたいな感じか、政治家のお友達が何もしなくても高い給料が貰える、みたいな。

 

(治安も悪そうだよなぁ)


 またしても大きなため息を一つ。

 ここまで領主からの搾取が酷かったとなると、領民がまともな生活を出来ている訳がない。

 どう考えても、食うに困って他人から略奪をする盗賊が居てそれが組織化した盗賊団があっても不思議では無い。

 

(で、タルティア王国は日本みたいに四季があるのか、せめてオランダみたいに年中温かければ良いのに)

 

 一年内に寒暖差がある。

 それは生産する農作物に大きな影響を与える訳だ。

 不幸中の幸いか、ここの農民達は寒い季節でもライ麦やジャガイモを育てる事が可能で寒い時期でも何かしらの収穫物はある様だ。

 一方で暑い季節には暑さに耐性のある麦や、ブドウ、レモンと言った果物の栽培が行われている。

 どうやら、アジア中心に発展している米は作られていない様だ。

 まぁ、どうしても米が食べたくなった時はクリスティーネにお願いして神々ネットワークで取り寄せて貰う事にしよう。

 

 また、農業に従事していない物は、傘や履物衣類と言った何かしら物作りをして生計を立てている様子だ。

 で、それ等の売り上げ金から7割もの税金が徴収される訳だからたまったものじゃない。

 当然、脱税をする者も出てくれる訳だが、この腐った領地でも脱税者に対して厳しい罰が与えられているみたいだ。

 大体、脱税した金額の5倍が課せられ、支払えないならその分強制労働が強いられている。

 若い娘が居る家庭ならばその娘を奪い取り前領主達への貢ぎ物にされたとか。


(一先ず減税は必須だろうな)


 俺は部屋に散りばめられている宝石やアクセサリーをぼんやりと眺めながら呟く。

 少なくともこの様な無駄なものに金を突っ込む余裕があるならば、庶民から徴収する税を軽くする事が出来るだろう。

 確か、俺の両親が領主を務めるファルタジナ領の税率は30%位だ。

 その数字でも俺は不自由な生活を送った覚えはない。

 勿論ここの館みたいに金銀財宝で溢れる事も無いがそんなモノは必要ない。

 

「はぁぁぁ、何処の国会議員だよ、全くよぉ」


 続いて、この館に勤める人間達の給料を眺めて見たのだが、そのあまりにも高給振りに対し大きな独り言を発してしまう。

 それもそのはずで、この領館に勤める人間の内、領主側近クラスの年収が日本円に換算すると大体5000万位。

 父が話していた事があるが、ファルタジナ領内では領主側近クラスの年収は大体1000-2000万円の範囲内である事を考えると無駄に高いと思う。

 

 最高の給料を貰っている奴がその数字でそれ以外にも2200万-3000万クラスの人間がゴロゴロいるし、末端だって800万クラスが多い。

 こんなにも無駄な人件費を掛けているなか税率30%にしたらまず赤字になるだろう。

 

(どうすんだ、これ?)


 だからと言って彼等の能力を100%把握している訳じゃない。

 パッと見仕事していなさそうに見えて実は裏で大きな貢献をしている、なんて有り得る。

 少なくとも領地運営自体出来ている以上、何処かに有能な人材がいると考えるべきだしその人材までお払い箱にしてしまったらこの領地の運営に行き詰まる可能性は十分ある。

 

 しっかし、側近共を見る限りどいつもこいつも絵にかいた様な無能にしかみえねぇんだよな。

 俺に対する政治能力だけは高いだけでさ。

 

 いつかどこかで彼等の給料を最善な額まで落としたい所だけど、今やったら反逆される危険もある以上迂闊にやるべきでは無いか。

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