万を越える妄執とただ一つの願い4





「っ!! トーカ!!!」



「りょーかい!」



瞬間、視界が数m後方へとズレ、目の前に2つの大質量が叩きつけられます。



「……トーカ、助かった」



「トーカさん、有り難うございます!」



「これが転移か……苦手な人は苦手そうだね」



「……うっぷ」



よし、なんとか全員無事ですね。ぺぺさんは若干転移酔いしているようですが、頑張っていただきましょう。


さて、この場合は……



「トーカ、ロンチーノさんは分身のヘイトを持ってください! おそらく倒すことのできる性能では無いので耐久してくれれば結構です。マイカは私と一緒に本体、流石に本体が倒せない性能ってことはないと思うから攻めてくよ! ぺぺさんはマイカへのスキルクールダウンを中心に全員にバフをお願いします。ラピスは戦線の維持に努めて!」



「「了解!」です!」



「……りょーかい」



即座に返事をし、配置についてくれたのはトーカ、ラピス、マイカの3人。

ぺぺさんとロンチーノさんは……何故か硬直しています。



「ぺぺさんとロンチーノさん、早く動いて下さい!」



「っ! ごめん、ちょっと放心してた。」



「お前作戦立てるの早すぎんだろ!? 硬直しちまったじゃねぇか!」



「並列思考なら後でいくらでも教えてあげますから、今は戦闘に集中して下さい!」



まったく、目の前の事柄の優先順位を考えて欲しいものです。


さて指示が通るまで攻撃してこなかったエイブラハムですが、律儀にこちらを待っていた……というわけではなく、どうやら叩きつけた腕同士でフレンドリーファイアしただけのようです。



「やるよマイカ、私たちがコイツをぶっ飛ばさないとトーカ達に顔向けできないからね」



「……当然っ!」



自爆で変形した腕を直し終えた本体がこちらに向き直ります。初手で抑制剤を使われていたらキツかったですが、何かしら条件があるのか使ってきません。

前回は軟泥撃破が条件だったと思うのですが……今回はそうではなさそうですしね。



「……! 来る!」



「〈肉腐吹(ニクフブキ)〉」



エイブラハムがそう呟いた瞬間、腐肉の波が私たちに襲いかかります。しかもその速度が尋常じゃありません。が……




「はっ!」



「……ふっ!」



誓約のポイントを機動力にガン振りした甲斐がありましたね。なんとかギリギリ避けることができました。もちろん、私が避けられた以上マイカは余裕で避けています。



「思ったより早いね。とりあえずは行動の検証から入ろうか」



「……同意。それにしても、当たりたく無い攻撃」



「全くその通り!」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



5分ほど避け続けて、行動のパターンが大凡掴めました。


〈肉腐吹(ニクフブキ)〉は正面に向けて放たれる腐肉の奔流です。発動までが異様に早いですが、正面にしか放たれないため不意を突かれなければ回避は可能です。当たれば死ぬ。


〈怨哮(オンコウ)〉は言ってしまえばただの叫び声です。どうやら発狂しない程度の狂気効果があるようですが、私の場合は白無垢の仮面のお陰で無問題です。ただ、マイカの場合は一瞬身体が硬直するため、続けて〈肉腐吹〉を撃たれると辛いものがあります。


〈膿旋病旋(ウミセンヤマセン)〉は旋回しながら腐液を周囲に撒き散らします。旋回する本体に当たればもちろん即死、腐液に当たっても確率で発症する状態異常:死病により一定時間後に死亡します。



〈地苦喪(ジグモ)〉は腐肉製の小さな蜘蛛の群れが地中から奇襲を仕掛けてくるスキルです。例のごとく当たれば即死です。


〈蟻獄陣(アリゴクジン)〉は〈地苦喪〉とニコイチのスキルです。役目を終えて形を崩した蜘蛛の群れが、広範囲の地面を溶かして相手を飲み込みます。しばらくすると元のように固まりますが、飲み込まれた人は即死です。



「マイカ、これだいぶキツくない?」



「……ん、キツイ。もう、3デスしてる」



「私も3デスだよ。ラピスに感謝だね」



そう、何故私がこれらのスキルが即死技だと分かったのか。その答えは簡単、実際に私若しくはマイカが受けて死亡したからです。


では何故リスポーンしていないかというと……



「……! マイカ危ない!」



「……っ! あぅっ!」



〈怨哮〉の硬直に合わせて放たれた〈肉腐吹〉を受け、マイカのHPが0になります。そのまま光になりかけるマイカでしたが、デス時の光とは別種の光に包まれると体力半分で蘇生しました。


完璧なタイミングで蘇生を終えたラピスが得意げに言います。



「私がいる限り、誰も脱落はさせません!」





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