第57話「【タイマー】は、制する」

「馬鹿な……ごふっ、時空魔法の使い手が二人───だと」


 ドサッ……。


 ボタボタと腹から血を流し、黒衣の女が膝をつき、斃れた。

 そして、ドサリという音が広大な空間に静かに響き、そのあとを継ぐようにレイナの荒い息が流れる。


「は……は……はぁ……」


 両手を真っ赤に染めたレイナ。

 その色と同じものが白い床をジワジワと染めていく。


「わ、私が……?」

「いい。見るな───大丈夫。大丈夫だから」


 きっとレイナは初めて人を刺したのだろう。

 勢いでやったとはいえ、よく踏みこめたものだ。


「……レイナのおかげで助かったよ」


 彼女の顔を掻き抱き、頭をポンポンと撫でてやる。

 今さら震えが来たのかナイフを取り落としたレイナがブルブルと震えている。



「あ…………………」



 そして、ポツリとレイナが零す。

 ルビンの体越しに黒衣の女を覗き見て───……驚愕に目を見開く! 


「お兄さん!」

「なっ!」


 振りむいたルビンも驚く。

 思わずレイナを背後に庇い、彼女が取り落としたナイフと自分のナイフを合わせて二手に構える。


「馬鹿な……致命傷だぞ?!」


「ゴフゴフッ…………アハハ」


 ペッと、血反吐をはいた女がニヤリと笑う。

 起き上がった時のような無感情なそれとは明らかに異なる。


 まるで、好敵手を見つけた剣闘士のごとく不適な笑みを浮かべると、傷口を押さえていた手をのける。


まさかねオフカィネンフェイルしてやられたわグゥシャア───」


 ヒュッと振り抜いた手にはこびり付いた血。

 明らかに致命傷だと分かるソレだというのに、黒衣の女は既に何事もなかったかのようだ。


 ゴキゴキと首をならすと、

油断ウングルヒィン大敵ティファインド本調子ニヒト じゃないグゥタァ とはいえファファソゥン───まさかオフカィネンフェイル混血のワズエンソルダード兵にやられるミヒトグッシュンなんてトゥンワァダァト


 うっすらと宣い。

 のけたての下には敗れた黒衣と、美しい肌が……。


「き、傷が……!?」

「そ、そんな?!」 


 ルビンとレイナが驚愕しているのを実に面白そうに眺める女。


あらオゥ? 見るのはイスティス初めてデェンマィツゥジン───? 傷だけじゃあニヒトノォないわよ カッヅァ


 そういって軽く手を翳すと、

 バチバチバチバチ……と手先が放電し、周囲を瞬かせる。


 そして、

「嘘、だろ?」

「ど、どーなってるの?!」


 破れていたはずの黒衣まで。


さぁワズどうなってるのかしらイスト ロォスト?」

 ニヤリ。

お嬢ちゃんには見えてザァ アゥスオゥスいたんじゃないかしウィェ パァ……───……らぁぁあああズゥンン!」


 ガチャキ!!


 突如獰猛な雰囲気を全身に纏った黒衣の女。

 懐に手を潜り込ませたかと思うと、二手に鉄の塊を握りしめていた。


エルフ如きがイッヒグロゥブンアタシをどうこうニヒト ダスイスできると思うなよゾォエルフジィンカン───!! ガンネルガンネルっっ」


 女の叫びに応じるように、フワフワと浮いていた球体が意思を持った彼のように直線的な動きに転じた。

 そして、突き出す筒をルビンたちに向けると、


飽和ゼッティゴン攻撃アングリフ

奴らを灰にマァズイッシュしろぉぉぉおおアッシャァァァア!」


「「「「「了解ッヤボール」」」」」


 女の声で球体が一斉にルビンを指向する。

 それはまるで女の意志が乗り映ったかのようだ。


「違うよ! 本当に乗り移ったんだよ!!」


 レイナがルビンに抱えられつつもそう叫ぶ。

「はぁ?! 乗り移った……何を言って」


逃がすものかニヒトローズラァスン──────! 裏切り者ぉぉおヴァリタァァアア

「「「「「エルフにシャアドゥン連なる害悪どもフュデンエルフ」」」」」」


 すぅぅ……!


「「「「「「撃てッフォイエル」」」」」」


 ジャジャキジャキジャジャッジャアッジャジャキン!


「へ?」

「あぅ?!」


 バババババババババババババババババババババババババッ!

 バババババババババババババババババババババババババッ!


「うわぁあ!!」

「きゃああ!!」


 叫ぶルビンたち目掛けて大量の火箭が迸る。

 それらが床に壁に天井を削って全方位に発射される。


 一発一発が強力な何かが発射されているらしい。

 恐らくは火魔法の何か───……!


ハァス外したイス エスト?!…………ちぃシャイセ! 調整が不十分シュレクトアングレィなのねシュテェイト?! まるであたりゃエストイストニヒトしないわウィッ」


 キィィ! とヒステリーを犯したかのように頭を掻きむしる女は、不意にその手を止めると、


「……だったらダン、」


 苦々しく顔を歪める。

 そして、


だったらダァン 接近してシースン仕留めるッッッオゥ シーズン!」



 死ねぇぇぇえええええステェェァアアアブン!!



「ちょ!! レイナ離れてッ」

「ひゃああ!!」


 レイナをぶん投げると、ルビンはナイフを構えて黒衣の女を迎撃する。

 相変わらず球体がフラリフワリと中空を舞いながらけたたましく吼えているが、どうやら見た目だけのこけおどしらしい。


舐めんじゃなわよイッヒクレイニヒトッ!!」


 ジャキンッ!!


 二手に構えた鉄の塊!………………それが、


「それがどうしたぁぁああああ!!」


 チンケな武器でルビンに効くはずもない。

 こう見えてドラゴンを食らった男───。


 ドラゴンスレイヤーでもあるルビンだ!! 


それをマッハこうするぅぅぅぅううゾォォォオオオオオウ!!」


 うわぁぁぁああああ!!


 パンパンパンパンパンパンパンパンパンッッ!


「うがっ!」


 女の武器が火を噴いたかと思うと、ルビンにそいつが命中し、肩の肉がえぐり取られる。

 その衝撃たるや!!


痛いでビディズしょぉぉおおイィトトゥウン! これでミットディズン、」


「ぐ……」

 体中に力が抜けるようにして、ルビンが斃れる。


 そこに駆け付けた女がルビンの額に鉄の塊を押し付けると、


「───これで終わりダスイスダス エンデよ!」


 ゴリリと押し付けたれる感触を覚えつつ、

 ルビンがひざ下から崩れ落ちる───。


「────ここで、『タイム』だ」


なッワズ!」



 カチ―ン!



「いってー……。だけど、うまくいった。接近してくるのを待ってたんだよ。……これだけ近ければ、球体も手を出せまいあの武器も使えまい!!」


 激痛を差し置いてルビンは立ち上がる。

 そのまま、女の顔面を鷲掴みすると──────……!




「父ちゃん、母ちゃんに言われなかったのか───一発殴られたら……」



 すぅ、




「百万倍返しにしてやれってなぁぁぁああああ!!」

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