第30話「『鉄の拳』は、治療する」
「あの野郎、あの野郎ッッ!!」
「おええええええ、おえおえおええええ!」
治療院の一角で二人の女子が大声で喚き散らしていた。
一方は口汚く誰かを罵り、
一方は何度も何度もえづいている。
「くそ、ルビンがぁぁぁあああああ!」
「くさいよぉ! くさいよぉぉおお!」
「うるせぇえ! サティラ黙ってろボケぇぇぇ!!」
ガッツン!!
と、少女に振るっていい物ではない拳を振り上げ、振り下ろす女は───聖女メイベルだった。
「あぎゃああああああ!! なにすんのよぉぉおお!!」
「うるっせぇぇえんだよぉぉおお!! もう、何回も洗っただろうが!!」
「臭いんだもん! 臭いんだもん!!」
サティラは涙目になりながらも、懸命に訴えメイベルに掴みかかる。
「殴らなくったっていいじゃない!!」
「うるっせぇぇえ! もう一回殴られてぇぇえかぁぁあ!」
ファイティングポーズをとるメイベル。
サティラも負けず劣らず、両手に魔法を顕現させている。
さぁ、女の二人のキャットファイ───……。
「治療院ではお静かにッ!!」
ゴン!!
ガン!!
「はぶぁ!」
「へぼぉ!」
二人して目から星を散らしながら噴き出している。
「ってぇなぁああ! 何すんのよぉ!」
「いったぁぁいい」
早速噛みつくメイベルと、ぷっくり膨れたタンコブを押さえて蹲るサティラ。
二人の抗議の視線の先には白衣を着た妙齢の女性が
「「───何すんの!」じゃありません! ここは治療院だと何度言ったらわかるんですか?!」
「うるさいババアねー。私を誰だと思っているの?! 治療院に貢献したこともある聖女───」
「お静かにッ!」
ガン!!
「───ッッ」
再びブッ叩かれるメイベル。
仮にもSランクだったはずの聖女が随分と簡単にあしらわれている。
「あなた達のお仲間が入院しているんですよ! ちょっとは気遣ったらどうなんです!」
「いったいわねー……! 大げさなのよ、入院だなんて───。私の治療魔法で傷は全快しているんだからん!!」
ホッペをプクーと膨らませてメイベルが反論するも、
「お黙りなさい!───魔法で回復できるのは表面だけ! エリックさんは、内臓が口で言えないくらい───ピー、で酷いことになっていたんですよ?! 魔法で全て元通りになるもんですか!」
そう言ってプリプリ怒って去っていくのは治療院の婦長だった。
「ぶー。何よ、あの女ぁぁ!」
「うー。まだ臭い気がするぅ……」
二人は叩かれた頭をスリスリと撫でながら婦長の去っていった方角に舌をだす。
「ちくしょー覚えてなさい、あの女……! 教会本部に戻ったら献金を停止してやるわ」
「うー。そーいうのやめなよー」
くんくん、と服の匂いや髪の匂いをしきりに嗅ぐサティラは、メイベルの子供じみた仕返しに苦言を呈する。
「なによ、ウチの教会に口出す気?」
「そーいうんじゃないけど、一応お世話になっているわけだし……」
そういってボンヤリと天井を見上げるサティラ。
二人は小さな治療院の待合室でエリックとアルガスの見舞いがてら時間を潰していた。
見舞いと言っても、エリックは面会謝絶。アルガスは全く目を覚まさない。ゆえにやることもないので、二人でボンヤリしていたのだ。
昨日、ルビンの反撃を受けてからまだそれほど時間が経ったわけでもないのに、Sランクパーティ『
まず、エリックは再起不能なまでにダメージを受け、入院治療中。
一応メイベルが高位回復魔法をかけたので一見して全回復しているようにも見えるが、治療院の医者曰く体の中はグ〇ャグ〇ャなのだとか……。
その傷を見た医者は、「殴った人物は相当恨みが籠っていたみたいですね……。死なない程度に最大限のダメージを与えています。殺意はありませんが怒りと恨みがあったと思いますが───心当たりでも?」と、メイベルに問いかけて来たのだが……心当たりだって?
…………あり過ぎて見当もつかない。
そして、アルガス。
エリックのゲロを顔面に一身に受けた時のショックが酷いのか立ったまま気絶し、そのまま即入院。
頭のお医者さんを連れてきて診察してもらったところ、精神的ショックが大き過ぎて、思考がショートしたのだろうということだった。
ようするに、ほっとけば目を覚ますと───明日か10年後かは知らないけど、とそう言っていた。
つまり、『
パーティとして活動は不可能だった。
そして、なによりそれ以上に───……。
ついさっき、ギルドからの思いもよらないお達しがきたのだ。
「はぁ……。まいったわね。『
「ど、どうしよう……。ルビンがいないと試験通らないよ?」
不安そうに書状を見つめるサティラ。
そして、彼女のいうとおりなのだ。
「───ち、ルビンのやつ余計な事を……! でも、大丈夫よ。ギルドマスターにはエリックが話を」
「あ、それ無理。さっき、ギルド憲兵隊がマスター連行してた……」
な?!
「なんですって?! 何でそれを言わないのよ!!」
「言ったけど、メイベル聞いてなかったじゃん───クソ野郎クソ野郎って、怒鳴ってばっかりで……」
「私はそんな下品な言葉を使わないわ!!」
「いや、つかって……」
ギロリと睨むメイベルの表情にサティラは押し黙る。
女同士だからわかることだけど、メイベルはこう見えて腹黒い。
いや、どう見えているか知らないけど、すっごく腹黒い……。
「ふん! どいつもこいつも使えないわねー」
「その代わりと言っては何だけど……」
サティラはギルドから再認定試験のお知らせと共に、ギルド職員からある提案を受けていた。
それをメイベルに教えていいのか悩みつつも、言わないなら言わないであとで何を言われるか分かったものじゃないと思い、ため息交じりに言う。
「何よ?!」
「これ───……エリックが退院するまで、当面の間は別のパーティで活動しないかって?」
そう言ってギルドからの「お知らせ」を見せるとメイベルは露骨に嫌そうな顔をする。
「ふざけてんの?! なんで、Sランクの私が格下相手にパーティなんか組まなきゃいけないわけ?! 一昨日来やがれってのよ!」
そう言ってろくすっぽ中身を読みもしないで、丸めるとサティラに投げ返した。
「あー……。もう───」
メイベルの態度に辟易としたサティラは椅子の上で膝を抱えて一人蹲る。
そして、今さらながら、ルビンにしてきたことを後悔する少女。
悪気はなかったのは事実だけど、それでも苛立ちのあまり心無い言葉をかけていたと今さら気付いたのだ。
【テイマー】ではなく【タイマー】になったのだって、ルビンに落ち度なんてない。
それどころか、被害者なのだ。
それをみんなで寄ってたかって……。
「ごめんね、ルビン」
メイベルに怒鳴られ、婦長に怒られ、そして、守ってくれるパーティが壊滅した今───たった一人で挫けずに努力し続けていたルビンの強さを、サティラはようやく知ったのだ。
「ふん! そのルビンのせいでこうなってるのに、おめでたいガキね」
そうい捨てると、突如ニヤリとわらったメイベルは何かを思いついた様子。
「くふふふふ。いいわぁ。……そうよそうよ、そうなのよ! こんな面倒なことになってるのも、全部ルビンが悪いんじゃない!」
「……メイベル?」
ニヤァと笑ったメイベルは小金の入った革袋をチャラチャラと揺すると、
「くふっ。いいこと思いついちゃったわ。……わたし、ルビンにお灸を据えなくっちゃって思うの。荷物持ちで役立たずのくせに、私達に迷惑をかけたんだもん。だからね───うふふふ」
そう言い捨てると、小金の入った袋をもって治療院を去っていくメイベル。
その足でゴロツキが多数屯している街の一画に向かうのだとか……。
あれでも、教会の聖女なのだ。貧民街には顔が利くらしい。
「はぁ…………。どうしよ、これ───」
メイベルが丸めた羊皮紙を広げるサティラ。
そこには臨時パーティのお知らせと共に、候補者の名前が…………。
「ルビン…………」
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