アイスフレンド XV

 機械獣ズヴェーリの鋭利な爪の一撃が人狼アルトに襲い掛かる。しかしその爪がアルトの頭に届く前に、その一撃を大口径の銃弾が挫く。機械獣ズヴェーリは唸り声を上げながらその場から飛びのき距離を取った。

 フリッツ回転式拳銃リボルバーは、およそ携帯式の拳銃に採用するのはナンセンスと思われるような、反動の苛烈な大型の銃弾を放つモデルだ。生身の身体で補助なしで扱うのはほぼ不可能だが、機械ドロイドの身体が連射をも可能にしていた。

 二人と一匹はにらみ合う。仕掛けるタイミングを常に探りながら、ゆっくりと間合いを詰めていく。

 アルトがほんの少し重心を下げた。全速で走るための準備だ。

 「アルト!」

 フリッツの合図でアルトが突っ込む。即座に反応した機械獣ズヴェーリが走り出しかけたその瞬間、フリッツの弾丸がその目を貫いた。獣はうめき声をあげ、後ろにのけぞった。

 すでにアルトは飛びかかっている。4mはあるであろう羆の機械獣ズヴェーリの、顔の高さまで飛び上がり、両足での蹴りを顔面にぶち込んだ。まともに食らった機械獣ズヴェーリはふらふらと後ろによろめく。

 さらにダメ押しでフリッツが拳銃を連射する。5発の弾丸は全て頭に命中し、機械獣ズヴェーリはついに尻餅をついた。

 「効いているな、どうだ?」

 機械獣ズヴェーリは即座に後ろに転がって立ち上がり、怒りの咆哮を上げる。

 「クソ、なかなか隙を見せんな」

 二人の狙いはヤツの足元にあるバックパックだ。これはスコーピオンがもともと持っていたもの、つまり中にはこの階層フロアを丸々吹き飛ばすくらいの威力を持つ爆弾が入っている。

 フリッツは拳銃のシリンダーを外し、空になった薬莢を放り捨て、スピードローダーを使って素早くリロードを行う。二人と一匹は再び睨み合いの態勢へと入った。

 「くそう、いつまでやればいいんだ」アルトは重心を低くし、機械獣ズヴェーリを牽制し続ける。ほんの一瞬の隙を生み出すために、神経をすり減らし続ける必要があるのだ。

 「怯むな。このまま押し続ければいずれは勝機が見えるはずだ」

 今度は機械獣ズヴェーリの方から突っかけた。フリッツは素早く反応し、再び拳銃を連射する。だが、機械獣ズヴェーリは大口径の弾丸を受けながらも、速度を落とさずに突っ込んできた。

 え?本物の羆を撃ち殺せる銃だよコレ?気合いで耐えられるものなの?二人が一瞬、呆気に取られている間にも機械獣ズヴェーリは走っている。

 銃弾をも超えそうなスピードで頭めがけて繰り出された機械獣ズヴェーリ噛みつきバイトを、間一髪のところでアルトは躱すことができた。生暖かい息が顔にかかり、無残に殺された子供たちの返り血の匂いが漂ってきた。

 攻撃はかわしたが、しかしアルトはバランスを崩し仰向けに地面に倒れた。このままでは次の攻撃をまともに食らってしまう。フリッツの銃は弾切れだ。しかも、今から走り出しても間に合わない距離だ。万事休すか…!刹那、閃光の速度で、もう一人の乱入者が現れた。

 「おりゃッ!」

 フリッツの後方から加速しながら飛びかかったアリサが、機械獣ズヴェーリの脇腹を蹴り飛ばす。最高速の一撃を脾に受けた機械獣ズヴェーリは悶えながら転がった。アズサは蹴りの勢いで後方に宙返りして着地した。

 「ナイスキックだ、アズサ」

 「ありがとう!ってフリッツさんじゃん!なんで?」

 「こっちのセリフだ。こんなところにガキだけで来たら危ないぞ」

 アルトが体勢を立て直す。三人まで増えた相手に、流石の機械獣ズヴェーリも不利を感じているようだった。先ほどまでの怒りに身を任せた雰囲気はなくなり、慎重にアルト達の様子を伺っている。

 「オレグも居ただろ、どうした?」フリッツが拳銃を構えたまま聞いた。

 「離脱させた。ホテルからは出たって聞いたよ」

 ≪ダナ、どうだ?≫

 ≪その娘の言う通りだよ。もう一人の男の子はホテルから離脱した。今、電車乗ってる≫

 「なるほどな…。よし、三人なら行けるか。アズサ、アイツの足元にバックパックが見えるだろ?アレは——」

 フリッツと視界を共有しているダナは、アズサに釘付けになっている。この娘も良いな…ちょっと若いが、それゆえにしなやかで、健康的な身体…この娘に罵倒されると考えたら…

 「いかん、仕事中なのに興奮してきた」

 煩悩を振り払って、ダナは集中しようとする。それにしても、これがフリッツの視界だというのが惜しい。公衆の監視カメラだったらハックして録画をもらうところだが、人の視界ではそうもいかない。どっちだろうと犯罪ではあるのだが、公共のカメラ映像を勝手に拝借してもほとんどばれることはないし、軍警ごときが私の尻尾をつかめるとは思わない。だが、フリッツは別。彼の攻勢防壁ズヴェーリの鋭利な爪の一撃が人狼アルトに襲い掛かる。しかしその爪がアルトの頭に届く前に、その一撃を大口径の銃弾が挫く。機械獣ズヴェーリは唸り声を上げながらその場から飛びのき距離を取った。

 フリッツ回転式拳銃リボルバーは、およそ携帯式の拳銃に採用するのはナンセンスと思われるような、反動の苛烈な大型の銃弾を放つモデルだ。生身の身体で補助なしで扱うのはほぼ不可能だが、機械ドロイドの身体が連射をも可能にしていた。

 二人と一匹はにらみ合う。仕掛けるタイミングを常に探りながら、ゆっくりと間合いを詰めていく。

 アルトがほんの少し重心を下げた。全速で走るための準備だ。

 「アルト!」

 フリッツの合図でアルトが突っ込む。即座に反応した機械獣ズヴェーリが走り出しかけたその瞬間、フリッツの弾丸がその目を貫いた。獣はうめき声をあげ、後ろにのけぞった。

 すでにアルトは飛びかかっている。4mはあるであろう羆の機械獣ズヴェーリの、顔の高さまで飛び上がり、両足での蹴りを顔面にぶち込んだ。まともに食らった機械獣ズヴェーリはふらふらと後ろによろめく。

 さらにダメ押しでフリッツが拳銃を連射する。5発の弾丸は全て頭に命中し、機械獣ズヴェーリはついに尻餅をついた。

 「効いているな、どうだ?」

 機械獣ズヴェーリは即座に後ろに転がって立ち上がり、怒りの咆哮を上げる。

 「クソ、なかなか隙を見せんな」

 二人の狙いはヤツの足元にあるバックパックだ。これはスコーピオンがもともと持っていたもの、つまり中にはこの階層フロアを丸々吹き飛ばすくらいの威力を持つ爆弾が入っている。

 フリッツは拳銃のシリンダーを外し、空になった薬莢を放り捨て、スピードローダーを使って素早くリロードを行う。二人と一匹は再び睨み合いの態勢へと入った。

 「くそう、いつまでやればいいんだ」アルトは重心を低くし、機械獣ズヴェーリを牽制し続ける。ほんの一瞬の隙を生み出すために、神経をすり減らし続ける必要があるのだ。

 「怯むな。このまま押し続ければいずれは勝機が見えるはずだ」

 今度は機械獣ズヴェーリの方から突っかけた。フリッツは素早く反応し、再び拳銃を連射する。だが、機械獣ズヴェーリは大口径の弾丸を受けながらも、速度を落とさずに突っ込んできた。

 え?本物の羆を撃ち殺せる銃だよコレ?気合いで耐えられるものなの?二人が一瞬、呆気に取られている間にも機械獣ズヴェーリは走っている。

 銃弾をも超えそうなスピードで頭めがけて繰り出された機械獣ズヴェーリ噛みつきバイトを、間一髪のところでアルトは躱すことができた。生暖かい息が顔にかかり、無残に殺された子供たちの返り血の匂いが漂ってきた。

 攻撃はかわしたが、しかしアルトはバランスを崩し仰向けに地面に倒れた。このままでは次の攻撃をまともに食らってしまう。フリッツの銃は弾切れだ。しかも、今から走り出しても間に合わない距離だ。万事休すか…!刹那、閃光の速度で、もう一人の乱入者が現れた。

 「おりゃッ!」

 フリッツの後方から加速しながら飛びかかったアリサが、機械獣ズヴェーリの脇腹を蹴り飛ばす。最高速の一撃を脾に受けた機械獣ズヴェーリは悶えながら転がった。アズサは蹴りの勢いで後方に宙返りして着地した。

 「ナイスキックだ、アズサ」

 「ありがとう!ってフリッツさんじゃん!なんで?」

 「こっちのセリフだ。こんなところにガキだけで来たら危ないぞ」

 アルトが体勢を立て直す。三人まで増えた相手に、流石の機械獣ズヴェーリも不利を感じているようだった。先ほどまでの怒りに身を任せた雰囲気はなくなり、慎重にアルト達の様子を伺っている。

 「オレグも居ただろ、どうした?」フリッツが拳銃を構えたまま聞いた。

 「離脱させた。ホテルからは出たって聞いたよ」

 ≪ダナ、どうだ?≫

 ≪その娘の言う通りだよ。もう一人の男の子はホテルから離脱した。今、電車乗ってる≫

 「なるほどな…。よし、三人なら行けるか。アズサ、アイツの足元にバックパックが見えるだろ?アレは——」

 フリッツと視界を共有しているダナは、アズサに釘付けになっている。この娘も良いな…ちょっと若いが、それゆえにしなやかで、健康的な身体…この娘に罵倒されると考えたら…

 「いかん、仕事中なのに興奮してきた」

 頭をぶんぶん降って煩悩を振り払って、ダナは集中しようとする。それにしても、これがフリッツの視界だというのが惜しい。公衆の監視カメラだったらハックして録画をもらうところだが、人の視界ではそうもいかない。どっちだろうと犯罪ではあるのだが、公共のカメラ映像を勝手に拝借してもほとんどばれることはないし、軍警ごときが私の尻尾をつかめるとは思わない。だが、フリッツは別。彼の攻性防壁を突破するのは生半可なことではないし、第一、そんなことやったら後で殺される。

 ≪——ダナ、おい、聞いてるか≫

 「はいはいはい!ごめん何!?」マズい、ホントに集中しないと。

 ≪もう飲み込ませた!起爆してくれ!!≫アルトからの通信が飛んでくる。え、もう?そんなに長く妄想してたかな?

 「分かった、3カウントで起爆する」いや、こいつらが素早すぎるんだな。アルトが機械獣ズヴェーリの首にしがみついてるのが見えた。こいつ機械獣ズヴェーリの体を駆け上って飲み込ませたのか、すごいな。

 「1」

 ≪2≫フリッツが携帯式のバリア発生装置をアルト向かって投げつけた。

 ≪3——!≫

 起爆の直前にアルトが自分のバリアを展開させると、同じタイミングでフリッツの投げた方も展開する。二つのバリアがぶつかり合った瞬間に、アルトは機械獣ズヴェーリの身体を蹴って、バリアの反力の勢いのまますごい速度で爆心地から離脱した。しかし、それでも爆発の衝撃からは逃げきれず、アルトはさらに加速し、先に走って逃げていたフリッツとアズサにぶつかり、二人を巻き込んでそのままゴロゴロと転がっていった。


 「いてて…二人とも大丈夫か」アルトが体をさすりながら立ち上がる。

 「オーライだよ。何とか受け身が取れたね」アズサも同様に立ち上がった。毛先が少し焦げてしまったのを気にしている様子だ。

 「行き当たりばったりだったが、うまくいったな。上のに比べて爆薬の量が抑えめだったのが幸いした」フリッツは座ったままだ。鉄のボディに少し煤が付いている。「ダナ、機械獣ズヴェーリはどうなった?」

 ≪木っ端みじんだよ。データを取るのは不可能だろうね≫

 「だそうだ。残念だったな、アズサ」

 「今回は、五体満足でアイツを倒せた時点で文句なしですよ」

 「そうだな…よし———」フリッツは立ち上がる。「車まで引き上げよう。お前らも来い」

 「りょーかい」

 「オレグにも無事なことを連絡してやれ。それと、場合によってはローガンたちのサポートにも入ってもらうからな」

 3人は出口に向かってもと来た道を歩き出す。

 ダナはフリッツの視界を通して、上着を脱いで露出度が増したアズサの身体を凝視し続けていた。

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